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祝福されて

……………………


 ──祝福されて



「は? フィーネさんと結婚?」


「そうだ、メアリー。そうすることにした」


 フィーネをにらみ殺しそうな勢いで睨んでるのはメアリーだ。


「不束者ですがよろしくお願いします……」


「はあ。いつかこんな日が来るんじゃないかと思っていましたが、もう200年は猶予があると思っていましたよ。だが、そういうことならば祝福するしかありませんね」


 フィーネの言葉にメアリーが深々とため息をついた。


「エリザベート。君も祝福してくれるか?」


「しない理由がない。人間と吸血鬼は違う。人間は生殖によって子孫を残すものだ。そうであるならば、君のような優れた人材の遺伝子が引き継がれないのはもったいないことだとおもっていた。もっともそこのポンコツに相殺されてしまうかもしれないが」


 エリザベートはそう告げてにやりと笑った。


「もー。エリザベートさんってば酷いー」


「で、式はどこでどのように挙げるんだ? 今は神の智慧派で信頼できる人間はいないのだろうし、そもそもフィーネは神の智慧派ではない。そして、神の智慧派が結婚式を取り仕切ったという話は聞いたことがない」


 フィーネが膨れるのに、エリザベートがそう尋ねる。


「ウルタールの街で預言者の使徒派に挙げてもらう。時代が時代だ。招ける人間が少ない。アランですら私を裏切ってしまったからな」


 アラン・モーアランドはエリックの信頼する友人のひとりだった。


「まあ、身内だけの式も悪くあるまい。会場はウルタール・ロイヤルホテルにしておけ。そうした方が身内だけでひっそりとやれる」


「君が年代物のワインを楽しみたいだけじゃないのか?」


「招かれてやるんだ。文句を言うなよ」


 エリザベートは笑っている。


「では、デルフィーヌ女史、コヴェントリー辺境伯閣下、メアリー、君と招待客は4名でいいかな? フィーネは誰か呼びたい人はいるかい?」


「コーディさんにはお世話になったのでお呼びしたいですけど、今は仕事が忙しいですよね。純潔の聖女派が凄いことを企んでいますから」


「まあ、そうだな。教会の権力争いという話ではなくなった。世界の命運がかかっている。彼を呼ぶのは難しいかもしれない」


「そうだ。エリックさんの元パーティメンバーの方々は?」


「そうだな。彼らにも声をかけてみよう。上手くやっているか気になる」


 あのルアーナという純潔の聖女派の女司祭はパーティに馴染めただろうか。それとも純潔の聖女派は依然として純潔の聖女派なのだろうか。


 純潔の聖女派と神の智慧派の陰謀が明らかになった今、彼らを招待するのは些か危険な気もしたが、そこはヴァージルたちが上手くやってることに賭けることにした。


 仲間を信じるというのも重要なことだ。


「アーカムの冒険者ギルドに向けて電報を打とう。彼らを招くとなると時間はかかるがいいかね?」


「その分、しっかり準備をしましょう! 来てくださった方々に喜んで祝福してもらえるように!」


「そうだね。そうしよう」


 それからエリックとフィーネはまずはアーカムの冒険者ギルドに電報を打ち、それから会場となるウルタール・ロイヤルホテルを見学したのちに予約した。基本は結婚式プランを選択し、それに加えてエリザベートのためのワインやチェスターのための火竜酒などの準備や、司祭の手配、そして何よりウェディングドレスの手配を行った。


「ウェディングドレス、期待しててくださいね! それはもう物凄いですよ!」


「そういわれると心配になってくるな。見せてはくれないのかい?」


「当日のお楽しみです!」


 そして、全ての準備が整ったのは丁度ヴァージルたちがウルタールに到着した2週間後のことであった。


 いよいよエリックとフィーネの結婚式だ。


……………………


……………………


「エリック! おめでとう! これは俺からのプレゼントだ!」


「まさか結婚式で魔道式小銃をもらうことにあるとは思いませんでしたよ、コヴェントリー辺境伯閣下。これはどのような銃なのですか?」


「コヴェントリー・アーマメントの最新型魔道式小銃だ。口径は5.56ミリ。反動も少なく、シャープな撃ちごたえだ。クマや魔物を相手にするには威力不足かもしれないが、少なくとも人間は倒せるぞ。これで花嫁を守ってやれ」


 チェスターが挨拶代わりに渡した銃はMK556によく似ていた。


「ありがとうございます、閣下」


「まあ、身内の結婚式だ。お互い気軽にいこうじゃないか」


 チェスターはそう告げるとエリザベートとメアリーを冷やかしに行った。メアリーが結局結婚できなかったことを弄られているようでメアリーはチェスターを睨んでいる。


「結婚おめでとう、エリック。フィーネちゃんを幸せにしてあげてね」


「ああ。もちろんそのつもりだ」


「これは私から。研究の結果、精力旺盛にされるとされるハーブの詰め合わせよ」


「……どういう意味が込められているか聞いても?」


「精力旺盛になる。それ以上の意味はないわ」


 デルフィーヌはにこりと微笑んだ。


「君というダークエルフは……。どうしても必要になったら使わせてもらうよ。ありがとう、デルフィーヌ」


「寝床に常備しておいてね」


 デルフィーヌはそう告げるとチェスターたちの下に向かった。


「やあ、エリック。久しぶりだな。元気だったか?」


「君たちこそ大丈夫なのか? 後任の純潔の聖女派の女司祭は上手くやっているか?」


「最初はまるで使えなかったが、最近では重要な戦力のひとつだ。流石にお前のようにとはいかないが、それなりに使える人材に育った。育てるまでは苦労したが……」


「そうか。ところで、その彼女は?」


「お前に酷いことを言ったことを悔いているらしく、アーカムで留守番している。他は全員来たぞ。おめでとう、エリック」


「ありがとう、ヴァージル」


 ヴァージルたちがやってきて声をかける。


「おめでとうございます、エリックの旦那」


「ありがとう、クライド。君たちはそろそろ冒険者稼業から手を引けそうかい?」


「まだまだですね。もうちっとばかり働かなければならないみたいです」


「そうか。頑張ってくれ」


 クライドが挨拶する。


「エリック。久しぶりに会えて嬉しく思うぞ。弟子と結婚とはお前らしいな」


「そうかね?」


「ああ。お前と接点のある人間なんて限られているだろう? 酒場でナンパできるような男でもないし、同じ研究者と恋に落ちるとも思えん。ならば、弟子しか選択肢はない」


「まあ、私のコミュニケーション能力には問題があったからね、アビゲイル」


 アビゲイルが挨拶する。


「元気にしてたかな、って。みんなエリックさんのこと忘れたことはなかったよ」


「ありがとう、リタ。ところで、私の弟子が複数の赤魔術を同時に操る術を開発したんだが、論文を読んでみないかね?」


「本当? それは興味ある、かな。今は少しでも力が欲しいから」


 リタが目を輝かせて挨拶する。


「いい人たちばかりですね」


「ああ。7年間を共にした仲間たちだ」


 フィーネが来て告げるのに、エリックがそう告げて返した。


「じゃあ、私はウェディングドレスを着てきますから。楽しみにしててください!」


「楽しみにしているよ」


 そう告げてエリックはフィーネを送り出した。


「マスター」


「どうしたかな、メアリー」


「ネクタイが曲がっていますよ」


「む。そうかね?」


 メアリーがエリックのネクタイを正す。


「私のことは愛人で構いませんので」


「いや。そういう人間関係はトラブルの原因だ」


「800年間尽くしてきたのに愛人にもしてくださらないのですか?」


「悪く思っている。だが、君を恋愛対象として見るわけにはいかなかったのだ」


「マスターは酷い人です。けど、そんなマスターの幸せを祈ってしまう私がいるのです。マスター、これからもよろしくお願いしますね」


「こちらこそよろしく頼む」


 メアリーはそう告げると優し気に微笑み、去っていった。


「新郎と招待客の皆さんはチャペルへどうぞ!」


 ホテルのスタッフがそう告げる。


 チャペルで愛の宣誓を確認するのは預言者の使徒派の司祭だ。預言者の使徒派は世俗的なことに大きく関わっており、こういうビジネス的なことをするのも預言者の使徒派だった。少なくともエリザベートが言っていたように純潔の聖女派や神の智慧派がこういう場に立つことはない。


「新婦の入場です」


 新郎であるエリックが司祭の前で待っているのにエリザベートに手を引かれてフィーネが姿を見せた。


 ウェディングドレスは純白で髪には花の髪飾りを、胸元は開けており大胆で、他は純白の白と白いバラを模したコサージュで飾られていた。刺繍も細かく、一目で目を引くそれをフィーネが楽しみにしておいてほしいと言っていたのもわかるというものだった。


「新郎、あなたは新婦を愛し、死がふたりを別つまでともにいると誓いますか」


「誓います」


 エリックはそう告げた。


「新婦、あなたは新郎を愛し、死がふたりを別つまでともにいると誓いますか」


「誓います」


 フィーネが告げた。


「では、誓いの接吻を」


 司祭がそう告げるとエリックがフィーネを抱きかかえ、お互いの心臓の鼓動が聞こえそうなほどに抱きしめると唇と唇を重ねた。


「これにてふたりは結ばれました! 新たな夫婦の誕生です!」


 司祭がそう宣言するのに招待客たちが湧きたった。


「エリック! 幸せにな!」


「フィーネちゃん! お幸せに!」


 わいわいと騒ぎは続き、会場はホテルのホールに移った。


「エリックの奴は気真面目過ぎるんだ。少しぐらい羽目を外せばいいのに」


「そうですね、辺境伯閣下。こんなに美味い酒があるのに」


 ウェディングケーキへの入刀が終わり、招待客を代表してチェスターが挨拶すると後はわいわいと騒ぐだけの場になった。しかし、酒が入っている。


 エリックはワインを1杯だけ飲んで、後は水で澄ませていたが、チェスターやヴァージルたちはエリックの用意した酒を次々に開けてる。


「このワイン、美味いな。飲んだか、エリック?」


「1杯だけいただいたよ、エリザベート」


「もっと飲め。もったいないぞ。お前が大金を払って準備したんだろう?」


「そう、私が準備した。私たちを祝福してくれる人々のために」


「いうものだな」


 エリザベートはにやりと笑ってワインの杯を傾けた。


「子供は何人ぐらい作るつもりなんだ?」


「それはフィーネと相談しなければ。子供を出産するというのは相当な体力を使う。フィーネがそういうことを望まなければ、私は子供はいなくてもいいと思っている」


「何を言っている。お前が子供を作るのは義務だ。優秀な遺伝子を残さなければならんぞ。第2のエリック・ウェストが生まれれば、死霊術の分野は確実に前進する。それに私は赤ん坊というものを抱いてみたい」


「やれやれ。君も困った吸血鬼だね」


「吸血鬼に子供は作れんのだから仕方ないだろう。期待しているぞ」


「期待されても困るよ」


 エリックとエリザベートがそう話していたとき、フィーネもメアリーと話し合っていた。というよりも、フィーネにメアリーが絡んでいた。


「美味しいケーキですよね、これ」


「いいですか、フィーネさん。これから花嫁修業をしなければなりません」


「え!?」


「私が留守にする時もあるでしょう。そういう時はフィーネさんがマスターのお世話をしなければならないのです。マスターは生活能力がある程度ありますが、そこに甘えてはいけません。妻であるあなたがマスターを支えなければならないのです」


「そ、そういうのはふたりで一緒にやるとか」


「妻であるあなたがマスターを支えなければならないのです」


「で、ですから、そこら辺はエリックさんと一緒に……」


「妻であるあなたがマスターを支えなければならないのです」


「お酒臭い! お酒臭いですよ、メアリーさん! 相当飲んでますね!?」


「至って素面です」


「嘘だ!」


 メアリーは顔には出ていないがべろんべろんに酔っぱらっている。


「いいですか。マスターの好きなものはローストビーフでこれが作れなくてはなりません。専用のグレービーソースもです。レシピは卵がひとつに豚バラ肉が4キロで牛乳とオレンジジュースを混ぜて……」


「素面に! 素面になってからレシピは教えてください!」


 完全に酔っぱらっているメアリーだ。


「口径7.62ミリは確かに魔物は有効だな。しかし、ハリファックスMK14は少し古くないか? 今ならカービンモデルでもっといい銃があるぞ。ランカスターMK11もいい銃だ」


「使い慣れている銃がいいですからね。確かにダンジョンとかだとカービンモデルで大口径弾を使用するものが欲しくなりますけれど、森とか野外だと狙撃銃としても使えるハリファックスMK14はいい銃なんです」


「なるほどな。ところで新しい口径6.8ミリ弾についてだが──」


 チェスターはいつの間にかクライドと魔道式小銃については話していた。


「これがあなたの守護霊?」


「そう。ヴァナルガンド。いい子よ」


「凄い」


 リタはデルフィーヌと話している。


「もふもふはとってもいいかな、って」


「生きているときはもふもふだったけれど守護霊になってからはもふもふじゃないの。けど、私の研究所に来てくれればいいタイミングならもふもふがいるわよ。今は森の様子がおかしいから動物を保護しているの」


「環境保護?」


「うーん。人為的にこういうことをするのはどうかと思うけれど、少なくとも見捨てるよりは保護しているからしら」


「いつかもふもふを見に行ってもいい、かな?」


「歓迎するわ!」


 リタとデルフィーヌは意気投合したようだ。


「ヴァージル・ヴェレガー様がいらしゃるのはここでしょうか?」


「ん。そうだが。俺に何か用事か?」


「アーカムより電報が届いております。ルアーナ・ランソル様からです」


「ルアーナから?」


 遅ればせながらの祝福の電報かとヴァージルは思った。


 既にダイラス=リーン都市警察のコーディ・クロスやムナールのアルファたちからは祝いの電報が届いていたのでそう思ったのだ。


「……畜生」


 電報を読んだヴァージルは悪態をついた。


「どうしたかね、ヴァージル」


「純潔の聖女派がアーカムを占拠したようです。連中が何かしようとしていると」


「……それは不味いな」


 間違いなく純潔の聖女派の目的は人工の神という名の化け物を生み出すことだ。


「皆さん。聞いてほしいことがある」


 エリックが告げる。


「純潔の聖女派は反乱を起こした神の智慧の一部勢力と手を組んで、この地上に人工の神というなの化け物を生み出そうとしています。今、アーカムは純潔の聖女派の手の中にあり、可能性としては住民を利用してそれを成すつもりでしょう」


 エリックは集まった一同を見つめる。


「これは何としても阻止しなければなりません。力を貸してくれる方は手を貸してください。我々は人工の神などに管理される必要はないのです」


 エリックが告げるのに次々に招待客が立ち上がる。


「俺たちはもちろん手を貸すぞ。ルアーナも危険に晒されている」


「俺もだ。武器弾薬は任せておけ」


「我もだ。人工の神などごめん被る」


「森の異常の原因はそれね? なら、もちろん参加するわ」


「私は常にマスターとともにあります」


 招待客が次々に参戦を決意していく。


「エリックさん。倒してやりましょう、人工の神も、そんなものを作ろうとしている連中も。両方ぶっ叩いてやりましょう」


「ああ。フィーネ。ぶっ叩いてやろう」


 そして、舞台はアーカムに移る。


……………………

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