手がかりのない降霊
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──手がかりのない降霊
フィーネとエリック、オメガは7日間の予定だったムナール旅行を3日でキャンセルして、エリック宅に戻ってきた。
「ただいまです!」
「ただいま」
フィーネとエリック、オメガが家に上がる。
「おや。7日間のご予定だったのでは?」
「神の智慧派の集会が襲撃された。襲撃を行った非合法な傭兵を雇ったのは、アランだ。純潔の聖女派の目的も明らかになった」
「まさか」
「本当だ。前者はフィーネが降霊術で、後者はラルヴァンダードが喋った」
信じられないという顔をするメアリーにエリックが首を横に振ってそう告げる。
「モーアランド様とは50年来の間柄ですよね。そのモーアランド様が裏切られたというのですか?」
「ああ。モーアランドは裏切った。襲撃で8名が死傷した。そして、神の智慧派の一部は純潔の聖女派と結託して人工の神を作ろうとしている。人工の神というなの化け物をだ。エリザベートは帰っているかい?」
「先ほどお部屋に戻られました」
「呼んでくれ。聞きたいことがある」
「畏まりました」
メアリーが2階に上がってメアリーを呼びに行く。
「それで、フィーネ。まずはご両親の霊に会って挨拶をしておきたい。何か所縁の品などはあるかな?」
「それがないんです……。どれも生活の足しにするために売り払ってしまって……」
「そうか。それでこれまで君は降霊術ができなかったわけか」
魂の指紋がついている品なしに降霊術を行うには本人の死体などが必要になる。
「墓地は?」
「集合墓地に。お金がなかったんでお墓は立てられなかったんです」
「そうか……」
葬儀屋も墓屋もただでは仕事をしない。金がなければ地元の司祭が集合墓地に遺灰を葬るだけである。それではどの魂が呼び出されるか分からない。
「なら、君を触媒に使うしかないな」
「え? 生きた人を?」
「前例がないわけではない。血縁者を呼び出すのに、その人本人を触媒とすることはある。だが、成功するかどうかは不明だ。本人が強く呼び出したいと願っている人間が呼び出されるというが、統計的には成功率は70%程度だ。それでも危害は加えられない。“血による加護の法則”があるからね」
「そうですね。やってみましょう」
「その前にエリザベートに聞きたいことがある」
エリザベートはメアリーから事情を聞いたのか真剣な表情をして降りてきた。
「モーアランドが裏切ったそうだな。それも純潔の聖女派と結託して。人工の神とかいうふざけたものを作るために」
「そうだ。そのために特AAA級魔導書『ネクロノミコン』が使用されたという情報がある。『ネクロノミコン』には何が記されている? 大司書長であった君ならばセレファイスにあれが封印される前に情報を手にしたのではないか?」
「『ネクロノミコン』か。あれは『アル・アジフ』の完全版だ。『アル・アジフ』には記されていない事実も記されている。そして、『アル・アジフ』に記されているのは、古き支配者たちとの交信術と現存すると言われる神についての狂った記述だ」
「人工の神を作るという計画に利用できそうなのか?」
「我は『アル・アジフ』という断片的な情報しか知らない。『ネクロノミコン』という完全版には『アル・アジフ』には記述されていない情報が記されているのかもしれない」
「『アル・アジフ』にある神についての狂った記述。狂っているように見えて、実際には実在する神について記されていたのかもしれない。『ネクロノミコン』という完全版と合わせて読めば分かるように記されている可能性がある」
「だが、神について知っても神を作れるわけがない」
「そうだ。ラルヴァンダードも認めていた。神の智慧派の反乱者と純潔の聖女派が作ろうとしているのはただの化け物だと。人間を支配するためのオーバーロードだと」
「やれやれ。こんな形で『ネクロノミコン』と関わることになろうとはな」
エリザベートは大好きな魔導書の話だというのに酷く面白くなさそうだった。
「『ネクロノミコン』については所持しているだろうアランを国際指名手配している。いずれどこかで捕まるはずだ。それから純潔の聖女派もこれで本当に終わりだ」
「神の智慧派もダメージを負うのではないか?」
「我々は既に傷を負っている。反乱者の自作自演の襲撃によって3名が死んだ」
「そうか。貴重なマスターが3人も死んだか。文明的後退だな」
エリザベートは悔しそうな顔をした。
「我に聞きたいのはこれだけか?」
「いざ、もし、人工の神の誕生を阻止できなかった場合、君に『ネクロノミコン』を解読してもらい、そして人工の神を消してもらいたい。協力はする」
「責任重大だな」
「冗談抜きで責任重大だ。君が失敗すれば世界は発展を強制的に止められる可能性がある。純潔の聖女派が関わっている時点で、目的が文明の停滞にあるのは確実だ」
「人工の支配者による人工の楽園か。純潔の聖女派らしい考えだ。いや、ある意味では神の智慧派的か?」
「神の智慧派は文明の発展を否定しない。人工の楽園などごめん被る。我々は発展を続け、発展を続けて続けて、神と対話するのだ」
「そうだな。神の智慧派とはそういうものだったな」
エリザベートは基本的に宗教に興味がない。エリックと違って信仰心がないのだ。神が実在しようとしまいと自分は自分であり、最後に頼れるのは自分だけだという独立した人物であった。
「では、我も備えておこう。言っておくが、神についての狂った記述の中には生贄を彷彿とさせるものもあったぞ。なるべくならば、実行前に止めるべきだ」
「分かった」
エリザベートはそう告げると2階の部屋に戻っていった。
「さて、フィーネ。話を戻そう。君の両親の降霊についてだ。試してみるかね?」
「はい! 可能性があるならば賭けたいです!」
フィーネは迷わずそう告げた。
「降霊術そのものも君が行うかね?」
「できれば。両親に自慢したいですから」
「分かった。では、準備をしよう。私の部屋に来たまえ」
エリックはフィーネを連れて2階に上がる。
「まず準備するべきは音楽だ。古いドルイド教の使っていた音楽を使う。普通の降霊術と違って、本人を使っての降霊には必要になってくる」
「音楽ですか?」
「そうだ。意識を集中させると同時に自分の体を霊から守る。本人を使った降霊術で注意しなければならないのは、本人に霊が乗り移ってしまうことだ」
「それは重要ですね……」
古代のドルイド教の信徒たちは降霊術ではなく、森の木々と一体化するためにこの音楽を使っていたと記録されてる。森の意志は人間など飲み込んでしまいそうなほどに強く、それから身を守るにはこのような音楽が必要だったのだ。
ドルイド教はサンクトゥス教会によって滅ぼされたが、音楽は伝統音楽として現代に残った。そして、死霊術師たちがその価値を再発見したのであった。
「音楽を流す。意識が集中できて来たら教えてくれ」
「はい」
奇妙なリズムと楽器を使った音楽が流れる。
すると、フィーネの意識が段々シャープになっていくのを感じた。自分を自分とはっきりと認識し、自分に触れているものに対して敏感になる。そして、自分の魂すらも自覚できそうなほどになってきた。
「か、かなり効いてるみたいですけど、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だ。それが正常な反応だ」
エリックは音楽を流したまま告げる。
「それでは自分の呼び出したい人物を思い浮かべながら、詠唱を」
「はい」
フィーネはおぼろげな記憶の中から両親の姿を見つけ出す。ほとんど覚えていないが、母と父の腕のぬくもりはしっかりと覚えている。
「『冥府の番人よ。我が呼びかけに応じ、その扉を開きたまえ。暫しの間、現世に死者を呼び戻すことを許されたし』」
そして、フィーネが詠唱する。
成功するか否か。
『あら。ここは……』
『お前、ここはどこだい?』
『私には分からないわ』
30代ほどの男女が姿を見せた。
「お母さん、お父さん……?」
『まさか。フィーネなのか……?』
親子の絆は死したのちも続いていた。フィーネの両親は成長したフィーネをすぐに自分たちの娘だと理解することができた。
『フィーネ。私たちは……』
「お母さんたちは死んでる。けど、私がこうして降霊術で呼び出したの!」
『降霊術……。つまり、死霊術師になったのね?』
「そうだよ。今では立派な死霊術師」
フィーネは両親に胸を張って見せた。
『すまなかった、フィーネ。お前を置いていったりして……』
「大丈夫。私って結構逞しかったから。あれから猛勉強して世界最高の死霊術師の方の弟子になったんだよ! 今は心霊捜査官を目指してる。心霊捜査官のところで実際にお仕事を見学したりしたんだよ。私にはそれなりに才能があるみたいで、ウルタールからもダイラス=リーンからも来てほしいって言われているんだ」
そこまで語ってフィーネが黙り込んだ。
「お母さん、お父さん……。会いたかったよう……!」
フィーネは涙を流して今にも崩れ落ちそうなほどによろめいた。
「大丈夫かい、フィーネ」
「大丈夫です。ただ、嬉しくて……」
フィーネは嬉しかった。再び両親に会えたのが嬉しかった。
両親に自分が立派に成長した姿を見せることができて嬉しかった。自分の目指している夢を語れて嬉しかった。夢に向かって一直線に進めていることが知らせられて嬉しかった。とにかく、嬉しくて、嬉しくて、思わず涙が出てきてしまった。
『そこの方は?』
「エリック・ウェストと申します。初めまして」
『あなたがフィーネの師匠というわけですか?』
「はい。彼女に教えるべきことを教えました」
『ありがとうございます。フィーネを私たちの代わりに立派に育ててくださって』
フィーネの両親がエリックに礼をする。
「エリックさんの世界魔術アカデミーのグランドマスターなんだよ。世界で最高の死霊術師。エリックさんは不老不死で、先代の竜王を守護霊にしていて、いろんな人に伝手があるの。とっても凄い人なんだよ」
『そうなの。そんな人をお師匠様にできたなんてあなたは幸せものね、フィーネ』
「えへへ」
フィーネが我が事のように照れる。
「それとね。私、エリックさんと結婚することにしたから」
『え。結婚!?』
両親が揃って戸惑いの声を上げる。
「よろしければ娘さんを伴侶とさせていただきたい。彼女は魅力的な女性で、才能があり、私はとても彼女のことが好きなのです。よろしいでしょうか?」
『ええっと。うちの娘などでよろしいのですか? 才能があるそうですが……』
どうやら両親はエリックを凄い偉い学者だと思って戸惑っているようだ。
「彼女の才能は本物です。心霊捜査官としても、研究者としても活躍するでしょう。それに彼女は人格的に魅力的なのです。くじけるようなことがあってもくじけず、ここまでのし上がってきました。そんな彼女の強いところに私は惹かれるのです」
「お父さん、お母さん。お願い。私もエリックさんのことが好きなんだ」
エリックとフィーネがそう告げる。
『ふつつかな娘かもしれませんが、よろしくお願いします』
「お父さん!」
フィーネの父は了解した。
『フィーネがそう望むなら私たちがどうこういうことじゃないわ。幸せになって、フィーネ。私たちはあなたを幸せにはできなかったから』
「お母さん……」
フィーネの母も了解した。
「ありがとうございます。娘さんは必ず幸せにします」
『こちらこそよろしくお願いいします』
エリックとフィーネの両親が頭を下げる。
「フィーネ。積もる話もあるだろう。ゆっくりと話しておきなさい」
「はい。エリックさん」
フィーネは王立リリス女学院を純潔の聖女派のせいで追放されたことや、トレントのベルトランド爺様、変わり者のデルフィーヌ、辺境伯のチェスターなどのことを話し、ウルタールやダイラス=リーン、ムナールのことを話した。
彼女は時々涙を流しながらも両親への報告を終えた。
「それじゃあ、お父さん、お母さん。私の話はこれでお終い。私、絶対に幸せになるから安心して。そして、お休み」
『ああ。お休み、フィーネ』
「『冥府の番人よ。我が願いを聞き届けてくださったことに感謝を。その扉を閉ざされたし』」
フィーネは降霊術を終えた。
「やはり君は見事に成功させて見せたね」
「えへへ。上手くいってよかったです!」
フィーネは朗らかな笑みで笑った。
「それでは、メアリーとエリザベートたちにも報告しよう。私たちが結婚することを」
「はい!」
フィーネたちはそう告げ合って部屋を出た。
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