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急がば回る


「たぶん、嫌だよね」


彼女がそう言ったので、

僕は「うん」と答えた。


本当は、まだ何も考えていなかった。


「忙しいだろうから、来なくていいよ」


そう言われたので

行かなかった。


本当は、行こうと思っていた。


「こういうの好きじゃないでしょ?」


そう言われたので

「まあね」と笑った。


本当は、けっこう好きだった。


そんなことが何度もあった。


ある日、彼女が言った。


「最近、あなたの気持ちが分からない」


僕は少し考えてから答えた。


「僕も分からない」


「自分の気持ちなのに?」


「うん。いつも君が先に言うから」


彼女は黙った。


僕も黙った。


しばらくして、彼女が聞いた。


「じゃあ、今日は何が食べたい?」


「カレー」


即答した。


彼女は笑った。


「私、パスタがいい」


僕も笑った。


「じゃあ別々の店に行く?」


「それは嫌」


「僕も嫌」


二人でカレー屋へ向かった。


彼女はチーズカレーを頼み、

僕はカツカレーを頼んだ。


帰り道、彼女が言った。


「カレーも悪くなかった」


僕は何も言わなかった。


「ほら、よかったでしょ?」


とも言わなかった。


彼女がどう感じたかは、

彼女のものだから。


たぶん優しさには、

二種類ある。


相手の気持ちを想像する優しさと、


想像したあと、

それを相手の答えにしない優しさ。


先回りしてもいい。


ただし、


相手の主語まで

持って帰ってはいけない。

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