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生きてさえいれば
山から一本の川が流れていた。
ある日、旅人が言った。
「きれいな川ですね」
川は何も答えなかった。
翌日、大雨が降った。
川は濁り、枝を巻き込み
ついには堤を越えた。
旅人は言った。
「ひどい川ですね」
川は何も答えなかった。
それから何日かして
水はまた透き通った。
旅人は川辺にしゃがみ
しばらく水を眺めていた。
「どれが、本当のお前なんだろう」
川はやっぱり何も答えなかった。
ただ、流れていた。
濁ったことを恥じるでもなく
澄んだことを誇るでもなく
昨日の場所へ戻ろうともせず。
旅人は立ち上がった。
そして自分もずいぶん長いこと
誰かの顔色を見ながら
昨日の自分を説明し続けてきたことに気づいた。
川は分かれ道に差しかかった。
右へ行く水。
左へ行く水。
どちらも迷わなかった。
旅人は笑った。
人生は
正しい方へ流れることではないのかもしれない。
濁る日もある。
溢れる日もある。
澄みきる日もある。
そして今日も、
いくつもの分かれ道がある。
川は選んでいるようには見えなかった。
けれど
流れた先には必ず
選ばれなかった景色が残った。
旅人はようやく歩き出した。
川に別れを告げなかった。
悠々と時間も流れていく
川も、
引き止めなかった。




