80話 その後 ーENDー
麻薬を王国中に流通させたラプリー伯爵と、それに関わった名門貴族たちがいっせいに捕まり。
情報収集の任務から解放されたベルナール様が、社交界で放蕩者のように振る舞っていたのは過去の話となった。
長く厳しい取り調べのあと、罪を犯した貴族たちは爵位と財産を剥奪された。
そして二ヶ月前、全員が断頭台の露と消えた。その中には、半狂乱になって泣き叫ぶアンヌ様の姿もあった。
王国を騒がせたこの大事件を機に、第四期士団は正式にその存在が公表され、今では一般の王国民たちにも認知されるようになった。
◆ ◆ ◆ ◆
王立第二騎士団の鍛錬場に『今日は天気が良いから、義母上を誘ってピクニックにおいで』とベルナール様に呼ばれて来てみると。
第二騎士団の騎士たちを涼しい顔で次々と、ベルナール様が木剣で打ち負かす姿があった。
「あらあら。ベルナール卿はあんなにお強かったのねぇ~ ふふふっ…… いい気味ねぇ~」
お母様はニヤニヤと笑い。……私はそんなお母様をたしなめた。
「まぁお母様! そんなに笑うなんていけないわ」
(お母様の気持ちもわかるけど)
……と言いつつ。
私は鍛錬場の端に置かれた、石造りの長椅子に座り。夫の惚れぼれとする姿を眺め、お母様と同じくニヤニヤと笑った。
ベルナール様がフレデリック様を追いかけて、二ヵ月も家を留守にしていたとき。
事情を知らず不安になった私は、お母様と二人で第一、第二、第三と……王立騎士団のそれぞれの本部へ行き。ベルナール様の安否を確認しようとした。
そのとき私たちは、ベルナール様に叩きのめされている騎士たちに、屈辱的な対応であしらわれた。
『ベルナール・カザートンが王立騎士団の騎士だって⁉ あの放蕩者が? お嬢さん……アンタ、あの男に騙されているんだよ』
『でも……夫が所属していると、確かに言っていました!』
『いやいや。あの男は女の前で見栄を張って適当な嘘をついたのさ』
『何ですって⁉ 酷いわ』
『どうせアンタは放蕩者のベルナール・カザートンに、弄ばれて捨てられたんだよ』
後からその話をしたら、ベルナール様は怒り狂い。こうして私たちの目の前で復讐を決行しているのだ。
復讐の本命だった、私を一番侮辱して嘲笑った騎士の手にある木剣を、ベルナール様は最初の一太刀でガンッ! と派手な音とともにたたき折った。
「ああ……信じられないぐらい弱いなぁ~ 君たちは毎日、鍛錬はしていないのか? 王立騎士団の騎士なら、その騎士服に恥じないように毎日鍛錬しないと」
サボったらだめじゃないかと、ベルナール様は鼻で笑い。
私とお母様の前で、私たちを侮辱した騎士を軽く打ち負かした。
──そして耳の中を指先でホジホジしながら、ベルナール様は分かりやすく挑発する。
その挑発に対戦相手の騎士は、ビックリするほど簡単にのせられ
大声で罵倒する。
「ううっ…… この、クソッ!! 放蕩者のくせに!」
「君はいったい、いつの話をしているんだ?」
それまで涼しい顔をしていた、ベルナール様の顔つきが変わった。
手に持っていた木剣の先を、相手の騎士の首筋にピタリと当てて、睨みつける。
「こんなに弱くては怖くて応援要請も出せないぞ。背中を任せられない騎士では、使いものにならないからな」
元婚約者のフレデリックを取り逃がしたときの失敗を考慮し。
人員不足の第四騎士団は容疑者を確保する時には、他の騎士団に応援要請をする決まりができた。
そこで第四騎士団の騎士たちは、顔合わせと連携の確認を兼ねて。他の騎士団の鍛錬場に出向き、鍛錬に参加している。
「それにしても、素敵だわ。こうして見ると、本当にベルナール様は騎士服が似合うわ」
「本当にね。あなたの旦那さまは、何を着ても絵になる美男子だわ」
今のベルナール様は、叩きのめした相手の騎士と同じく、王立騎士団の騎士服を着ている。
肩には第四騎士団を表す、銀糸で縁取られた漆黒の肩章をつけていた。
「以前は騎士のベルナール様なんて、想像出来ないと思っていたのが嘘みたい」
(それにまさか……王立図書館でハンカチを貸してくれた騎士様が、ベルナール様だったなんて!)
ポッと頬が熱くなる。
そのことを思い出すと……ずっと気づかなかった、自分の鈍さが恥かしい。
王立図書館でベルナール様に借りたハンカチは、今も大切に私の宝箱にしまってある。
「まぁ~……あの騎士様大丈夫かしら? ベルナール卿を完全に怒らせてしまったわよ」
「ふふふっ……素のベルナール様は、意外と短気なのよね」
(もちろん、私と娘に対しては別だけど)
お母様の膝に抱かれ。父親にそっくりの深い紺色の瞳を輝かせて、不思議そうに空を見あげる娘のセシル。
私は娘の足を指先でくすぐりながら笑った。
ベルナール様に叩きのめされ、ひどくプライドが傷ついたのだろう。
「こ、この野郎!」
対戦相手の騎士は腰に下げた剣を鞘から抜いた。
「おいおい! 私にケンカを売るなんて、君は命知らずだな? 良いよ、次は真剣でやろうか。……まぁ、私の愛刀は魔剣だから。胴体が二つに別れてしまうかもしれないが」
ものすごく嬉しそうな顔で、ベルナール様はニヤニヤと笑う。
「なっ! 胴体が別れるだと⁉ オ、オレをバカにする気か!」
「おや、知らないのかな? 人数の少ない第四騎士団の騎士が、一騎当千と言われるのは……それぞれの剣技が恐ろしく優れているからなんだよ?」
その中でもベルナール様は珍しい、魔法騎士である。
魔獣が多発する地域を守る北方辺境騎士団に、ベルナール様は学園を卒業してすぐに入団した。
騎士経験の無い素人同然のベルナール様が、北方の辺境で生きのびられたのは。剣技だけではなく、魔剣と魔法が使えたからだ。
対戦相手の騎士はベルナール様にバカにされたと、口から泡を吹きながら怒鳴った。
「クソッ! ふざけるな───っ!」
「人間相手の戦いは、私もまだまだ不慣れだから。腕の一本ぐらい、落とすかもしれないなぁ? まぁ、そっちが望んでヤルのだから、文句は無いだろう」
魔剣を鞘から抜くと刃がフワリと発光した。ベルナール様が魔剣に魔力を流したのだ。
淡く発光する魔剣を軽く一振りしたら……
ドゴォ────ンッ!
地響きをたてて鍛錬場の地面が、ごっそりと削り取られて大穴ができた。
それまでザワザワとしていた、鍛錬場がしーん……と静まり返る。
ベルナール様以外の騎士たちは全員、呆然と大穴を見つめた。
パンッ! パンッ! パンッ! ……と私は手を打ち鳴らし声をかける。
「ベルナール様、そろそろお昼にしませんか?」
パッと振り向き、ベルナール様は満面の笑みを浮かべる。
第二騎士団の騎士たちは、ホッと胸を撫で下ろしているようだ。
「そうだね、レオニー。私も腹が減ったと思っていたんだ」
何事も無かったようにベルナール様は、魔剣を鞘におさめながら、私たちの方へ戻って来た。
「レオニー、ささやかな復讐だったけど。少しは気が晴れたかな?」
お母様の膝にいる娘の黒髪をなでながら、ベルナール様にたずねられた。
「ふふふっ……ベルナール様、素敵だったわ!」
「そう?」
「ええ!」
人前でもかまわず、ベルナール様は私の唇にキスをした。
― END ―
最後までお付き合い下さり、ありがとうございました!
また、どこかでお会い出来たら幸いです(^^)/




