49話 短い平穏2
他人の視線を避けたくて王立図書館内でも最も奥の壁際にある、人が滅多に来ない外国の書籍が並べられた本棚まで来る。
私はそこでベルナール様に贈られたメガネを外す。そして涙を我慢するのをやめて、声をかみ殺して泣いた。
熱い涙が頬をつたい落ち、ポタッ、ポタッ、と床に敷いてある擦り切れた絨毯に小さな染みを作った。
「ううっ……ふっ…うっ…うっ……」
(バカなことをイネスにたずねてしまったわ。聞けばきっと私自身が傷つくとわかっていたのに、聞かずにはいられなかった!)
冷たい壁にもたれ私はズルズルと崩れ落ち、絨毯のうえに座り込んで泣いた。
「嫌よこんなの…っ……ううっ……」
(これからもたぶん、こんなコトがたくさん起きるわ)
ポケットから出したハンカチはアッと言う間に、涙でグッショリと濡れてしまう。
「私は二年半前と同じことを、またしているわね。なんて進歩が無い人間なのかしら?」
誰も来ないこの場所で二年半前も私は毎日、泣き続けた。
あの時はフレデリック様に婚約解消を言い渡され、自分があまりにも惨めすぎて泣かずにはいられなかった。
グスッ、グスッ、と鼻をすすりながら垂れてしまった鼻水を、グッショリと涙で濡れたハンカチでぬぐう。
「でも、あの時は……あの人がいて。私は慰められて少しずつ立ち直った。あの騎士様はいったい、どこの誰だったのかしら?」
二年半前。
この場所で泣いていた私を、慰めてくれた人がいた。
『コレを使うと良い』
(泣き続ける私に見かねて、傷だらけの大きな手で白いハンカチを手渡してくれた騎士様)
あの後、騎士様と本の話題で意気投合してお気に入りの本について語り合った時間は、今も優しい記憶として私の中に残っている。
(恋心まで抱いたのに……結局、私は騎士様の名前を聞くことさえできなかった)
涙をぬぐうために騎士様から借りたハンカチも、返すことが出来ずに……私の宝石箱にしまってある。
「騎士様に会いたいなぁ」
(夫以外の男性に会いたいと思うなんて。私も浮気者だわ)




