↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/182

虚飾と憤怒

今日から連続投稿です。

最終回まで頑張っていきたい。

 動いたのはほぼ同時、青白い光と黒い魔力が展開され、様々な武器がその世界を侵食する。


「アイシクルラインーーアンリミテッド!」


 心武器が封じられた以上、俺に使えるのは魔眼、憤怒の力、そして魔法だけである。


 対して相手は虚飾と予知眼、魔法だ。ジンの手によって同レベルまで落とされたが負けるわけにはいかない。


 星空まで届くほどの雪が俺の魔法の後押しをしてくれる。


「リリムさん……」


 最早生き絶えた状態で生命の波長を感じさせない彼女の姿に俺の手に熱がこもる。


 最早眼光だけで殺せるのではないかという視線を向けた先、悪鬼めいた表情で近代兵器を生み出していく女へ腕を振るう。


 そうすれば青の光を残した武器たちが黒い魔力を溢れさせる兵器たちとぶつかり合い、粉々になっていく。


 その合間を縫って、氷の長剣を持った分身がサマエルの首を落とそうと迫る。


「ざまあっ!」


 だがサマエルの足元から飛び出した影の刃が分身の剣を止める。甲高い音を立てて、剣が砕け散り、破片が飛ぶ。


 無手になった分身体を殺そうとサマエルが勝ち誇った笑顔で影を伸ばすが


「使え!」


「助かる!」


 俺が射出し、分身体の脇の下を潜り抜けた氷槌が分身体の手に掴まれ、そのまま上へと影を吹き飛ばす。


「ああ! 煩わしい! この腰抜け野郎が! 金玉ついてんのかぁ!?」


 サマエルが絶叫し、今度はこちらへ向けて兵器たちが火を噴く。なんて事はない、憤怒を使っている俺ならそんな攻撃簡単に避けられる。


「今更当たる………ごほっ!」


 だが湧き上がった痛みと一緒に赤い血が口から噴き出し、足を止めた地点を砲弾が過ぎ去る。質量がある鉄の塊を真正面から受けてしまい、右足が嫌な音を立てた。


「ひゃははははっ! いい気味! 怪我の身体を押してかっこよく登場して? だけど負けるとか、惨めで死にたくなるわ〜」


 こちらを愉快気に見ながらも分身体の攻撃を予知で判断し、かろうじて避けるという神懸かり的な動きを見せるサマエル。


 しかし、やはりジンとは比べ物にならない。戦闘レベルもそこまで高くはない。


「だからこそいいハンデだよ!」


 天を突くほどの淡蒼色の光が兵器たちを凍てつかせる。魔力渦巻く、氷の絶世に彼女の目が向いた瞬間、痛む身体を推して俺は氷の剣を作り出し、走り出す。


「やらせねえよ!」


 すかさず、雪から飛び出す虚飾の爆弾を俺は凍らせて無力化し、分身体の逆側から剣を横薙ぎに振るう。


 サマエルがそれを避けたと同時に分身体の蹴りが彼女の横顔へ突き刺さる。


「行くぞ!」


 これまでは分身の隙を埋めるように細かく攻撃していたが、今度は少し遅れる形でほぼ同時に俺も攻めに出た。


 まずは分身の右拳がサマエルの顔面目掛けて打ち込まれるが、正面ではなく右頬に狙いを定めている。ちょうど逆手に握った氷のナイフが正面に来る形だ。


 俺も一緒に攻めているからか、分身の拳を受け止めて片腕を塞がれるのは悪手だと判断したのだろう。サマエルは分身の拳を受け止めずに外側へと弾いて顔から逸らす。




 その瞬間、分身が手首のスナップだけで至近距離からナイフを投擲した。




「……っ」



 超至近距離からのナイフ投擲。これで終わってくれれば良かったが、サマエルは驚いただけで即座に顔を反らして躱す。


 ほぼゼロ距離から不意打ちの投擲を躱せるのは凄いと思うが、それくらいの回避能力があることは直に戦っている俺が一番分かっている。


 投擲したナイフがサマエルの眼前を通過していき、




 そのナイフを俺が空いている左手で掴み取った。




 打ち合わせもしていないのに寸分の狂いもなく合わせられた完璧なコンビネーション。

 サマエルの目にはそう映っているはずだ。その証拠にこの戦闘が始まって以来、ずっと余裕ある顔をしていた表情が崩れて目を見開いていた。


「おらよっ!」


 俺は間髪入れず受け取ったナイフで首に狙いを定めて小さく薙ぎ払う。


 並みの相手であればこの状況に持ち込めた時点で勝ちは決まったようなものだが、サマエルは顔だけでなく上体も反らすことでこれを躱してみせた。


 予知眼がやはり厄介だ。天眼で先読みをしてもそのさらに先を読まれているような底知れなさが彼女の強さを支えているのだろう。


 けどまだ終わりじゃない。分身からナイフを受け取って今は俺が剣とナイフの二本持ちだ。俺の薙ぎ払いを躱すために反らされた上体へと元から持っていたナイフを突き出す。


 さらに反対側からは分身が逆手から順手に持ち替えたナイフで、俺と同じように上体を狙って腕を突き出す構えを取っていた。


 この状態で俺と雄二のナイフを同時に防ごうものなら次の攻撃……俺の左手のナイフ、分身の拳や蹴りは確実に躱せない。


「クソどもがあっ!」


 その場からほとんど動くことのなかったサマエルだったが、大きく後方宙返りすることで俺のナイフを躱すとともに距離を取って追撃を封じてきた。


 更に追尾式のロケット弾を撃ち、捲き上る爆炎と雪煙の二重奏がサマエルの姿を隠し、着地時に起きる隙さえ与えさせない。


 ジンにでも鍛えられたのか知らないがここまで予知眼使われると当たりゃしない……だからこれが生きる!


「決めろ! オレ!」


 小さく薙ぎ払った左手のナイフ、それを僕は空中に置くようにして手放した。その切っ先は天眼の先、サマエルへと向けられている。


「食らいやがれ!!」


 そして、そのナイフを分身が回転回し蹴りで思いっきりサマエルへと蹴り飛ばした。


 サマエルは大きく後方宙返りしたため未だ着地しておらず、迫り来るナイフを前にしても回避行動を取ることが出来ずにいる。


「テメェらは売れないサーカス団か、ああっ!? 」


 だがその刃は影によって吹き飛ばされ、サマエルは雪煙の向こう側にいる俺たちへとそう叫ぶ。


「ならお前は哀れなピエロだな」


 立ち尽くす彼女の周囲、全方位を囲むのは先端を尖らせた氷柱――それが二十本以上。

 直後、全方位からの氷柱による砲撃がサマエルの全身に叩きつけられていた。


「予知されるならよけられない攻撃をすればいいだけだ」


「どうせ生きてんだろうから、フラグ立てとくわ。やったか!?」


 瞬間、大気を切り裂き飛んできたのは巨大な剣。刃は真っ直ぐに俺を狙うが分身が展開した多重構造の氷の盾を前にして易々とくいとめる。


「か弱い女を前に2対1とか男の風上にもおけねえな!」


 ーー煙が晴れた先には傷一つない綺麗な姿のサマエルがいた。


「驚いたか!? アンタと私には覆せないほどの差がある! アンタの蚊みたいな攻撃なんて当たりゃーー」


「嘘つくな、誤(・)魔(・)化(・)し(・)て(・)る(・)だ(・)け(・)だ(・)ろ(・)。俺の目は誤魔化せない」


 奴の体には傷1つないように見えるがそれはまやかし、本体である幼き彼女の姿は動けるほどの体ではない。


「痛みを虚飾で誤魔化してるだろうがもう体の大部分が動かないはずだ」


「だったらどうしたよ! 乙女の秘密覗くような下衆野郎の言葉なんざ聞きたかねえ!」


 自分の体の変調を指摘され、サマエルが牙を剥いて腕を振り上げた。が、話している間にそこに回り込んでいた分身の長い足が伸び上がり、その横っ面を豪快に蹴り飛ばす。


「別に? お前を殺すだけだ。何も変わっちゃいない」


「このDV野郎!」


 顔を赤くして激昂した彼女は手元の爆弾を分身へ叩き付ける。爆炎に飲まれた分身体は焼き消えたが、かえって晒したサマエルに


「心配するな、お前だけだ」


「ぐぼっ!」


 雪を媒介に作られた槌がサマエルのど真ん中を撃ち抜く。フルスイングのそれはサマエルの骨を確実に破壊し、雪を飛ばしながら無様に転がる。


「シャドウナイフ!」


 サマエルは跳ねるように立ち上がり、闇魔法を唱えるのでこちらは躊躇いなしの膨大な数の氷の武器を生み出す。


「撃ち抜け!」


 嵐のように打ち出された武器たちを影は砕いていくが次第に押され、最期の方には凍てついた空気が残るだけ。


 そこの中心には四肢を青の杭に串刺しにして磔にされ、胸の中央に吸血鬼を仕留めるように杭を打たれたサマエルの屍がぶら下がっていた。………そんなわけねえだろ!


「偽物だってわかってんだよ、こっちは!さっさと出てこいよ! テメェがつくった通りの光景で殺してやるからよ!」


 身を焼くほどの怒りを声にのせて叫べば、視界の端で影が動くのが見えた。


「そこかあっ!」


 振り返り、手にした氷の剣を振るおうとした。憤怒の力によって、剣にヒビが入るほどの込められた力は




「やめて、マコト」


「ーーリリムさん?」



 彼女の涙を見た瞬間、霧散し、歪めた表情の彼女の足元から飛び出す黒の杭が俺の肉体を蜂の巣にする。


「やっぱ死人の姿を使えば攻撃は当てられんなあっ! やっぱりその甘さが命取りだ!」


 リリムの表情がサマエルへと変わり、流れ出た血を止めようとする俺へ溜めていた兵器たちが解放される。


「甘さが命取りか………なら、なんでお前はベルとレヴィを殺さなかった?」


「ーーっ!」


 死の攻撃を分身に捌かせて俺はずっと気になっていたことを聞いた。サマエルはサマエルな以上、戦力を減らす意味でも彼女の両親にあたる2人は殺して置くべきだったはずだ。


「なのに生かしたってことはよっぽど身内に甘いんだな、お前は」


「黙れよ」


 分身体も消され、圧倒的な暴力に糸の切れたマリオネットのように体を揺らすマコト。倒れようにも反対側から叩き起こされる。


「世界を救うとかさ、そんなの誰も望んじゃいないわけ! 少なくとも私は望んじゃいない! 私の現実なんてとっくにもう終わってんの! 今の私は死ぬ間際の夢を見てるしか過ぎないんだよ!」


 疑問の余地など欠片もなく、マコトは、確かに、幾百という弾丸に貫かれた。魔族の体が頑丈だからか、まだ形はなしているが既に息は耐えているだろう。


「だから、あたしは面倒だから殺さなかった!それだけだ! 奴らを殺せば動きづらくなるからな!」


 サマエルの虚勢をはる様な弾丸に穿たれ荒れ果てた地面の中央で、マコトは未だ立っていた。


 射撃が終わる。それは、装填された弾薬が尽きたからか。それともーー


「ならーー自覚する時間だ」


 顕現した異様に、サマエルが萎縮したからか。いずれにしろ、その場は、生きとし生きるものが息を潜めたような、そんな静寂に満たされた。


 それを切り裂くのは氷の鎖、彼女の体に巻きついたそれをサマエルは引きちぎる前にマコトはサマエルごと鎖を振り回す。


 最早生きているのがおかしいほどの傷を負ってなお、彼は自らに燻る怒りの灯火を業火へ変えて敵を撃つ。


「あ、があっーー!!」


 鎖がうねり、雪を剥がしながらも彼女の体を離すことはない。更にマコトが作り出す氷の壁を前に頭から破壊していく。


「ああああっーー!!」


 防御も回避も取れなかった彼女の衝撃は高層ビルからの落下に等しいレベルだ。それを彼の怒りが収まるまで繰り返され、最後は彼女を頭から地面に叩き落とす。




「ってぇぇぇぇぇな! 怒りに身を任せてやることじゃねえぞ! 雪で衝撃和らげてなきゃ死ぬとこだ!」



 だが彼女は生きていた。叩きつけられた場所が雪によって柔らかかったことと意外にも素体であるサマエルの体が丈夫だったためだ。


 しかし、壁に叩きつけられた傷までは消し切れず、右腕の感覚はとうに消え去った。痛みすら感じない。


「しかし、今更だけどよ。ばかすかこの体傷つけてどうするつもりだよ。女の子傷つけて責任………って」


 サマエルはマコトの方を見れば


「なーんだ、もう死んでたんじゃん」


 血が散り、肉が弾み、白い雪が朱で染め上げられ、朱に染まる雪はとても美しかった。




 *




「さっすがに魔力が限界だぞ! マコトはまだか!」


「ジンのバラバラ死体のようなものはありましたがマコトの姿はありませんでしたわ。おそらく、別世界で決着をつけてるのではないかと!」


 要塞を操り、連合国の進行を阻むエルデ達だったがもう体を動かすほどの魔力もなく、壁に寄りかかって駄弁るだけ。


「ああ、命乞いしたら助けてくれねえかな………」


「わたしがんばる! かわいらしくおねがいすればだいじょうぶだよね!」


「僕的には忌子の君が出た瞬間、真っ先に殺されると思うが?」


 最早これまでとばかりに雑談を交わす彼ら。要塞が魔力のカケラとなって散っていく。


「ーー付き合わせて悪かったな」


「それは言わない約束ですわ」


「えーちゃんたちがいるところがわたしのいるばしょだから!」


「まだ紅茶を満足に入れられないんだから。死にたくはなかったな」


 エルデはそれらを聞いて笑った。要塞は崩れ落ち、その先には血走った目の連合国達。エルデは最後まで命ある限り、命を奪おうと落ちていた剣を拾う。


「じゃ、最後に言っとく。お前ら全員ーー愛してる」


 恥ずかしさから結局、こんな場面でしか伝えられない募った思いを伝えてエルデは走り出す。


「「「愛してるよ、JB」」」


 後ろからの声にちょっと元気が出た。前世とは違って、苛烈な死に方ではあるが


「こっちの方が俺らしいよな」


 そして全霊の刃が砕かれて、眼前に迫る魔法がーー





「らしくないですよ、エルデ殿下」




 全裸の男によって受け止められた。男は股間のゾウさんをぷらぷらさせながらエルデへ笑いかける。エルデの視界は限界を超えそうだった。


「マックス!?」


「マックスだけじゃねえからァ、俺たちもいるしなァ」


「フェルムか!?」


「アクセルとエリスもいるよ。英雄の子供達、勢揃いだ」


 英雄の子供達はベルゼ達との戦いの後、戦争に出たくないと考えた。もちろん、上層部がそれを許すことはなく、彼らは戦いに出たのだが


「俺が渡した人形で戦争から逃げたんじゃなかったのか!?」


 そう、以前エルデが英雄の子供達に聞いた際、戦争に参加する気が失せたなら人形と入れ替わって逃げろと伝えたのだ。


「ええ、最前線から逃げましたよ」


「で、テメェを助けに来たってわけだ。ま、義理を果たしに来たって考えてくれやァ」


「私たちは恩を売りに来たのと忌子に興味があったからだ」


「わたしは〜メロの邪魔をしたくなくてこちら側に来たのよ〜」


 そんな事を言いながらも彼らの手は緩まず、もともと敗走寸前だった連合国はみるみるうちに数を減らしていく。


「恩は売っとくもんだ。いつか報われることがあることをこの身で実感出来たよ」


 マックスが差し出した手を掴んで立ち上がる。マックスはそのまま全裸でエルデ達をかばうように立ち、他は最後のとどめを刺しに行った。


「カラスマさんは?」


「多分、敵の親玉と最終決戦中だ。詳しくは話せねえがあいつが負けたら世界が壊れる」


「なるほど、なら僕達の役目はここを通さないことですね」


 連合国を子供達に任せて、エルデは城を見る。


「後は頼むぜ、相棒」


 勝利の願いを口ずさみながら。




 *




「これで最後よ!」


 クレアの拳が兵隊長を吹き飛ばし、他の魔族達も三分の一ほどは減ったが、拠点を制圧。


「なんとか凌いだかしら?」


 周りの死骸を避けながら見回せばベルゼ達率いる魔族達がこちらを睨んでいた。


「クレア、魔族の代表として言わせてもらう。ここにいる魔族達皆はかつてお前が殺した魔族の同胞だ。それを先ずは理解してほしいのじゃ」


「ええ」


 魔王からの言伝により、彼女が正体を現しても戦争が終わるまで攻撃するなと言われていた。しかし、これを見る限り、我慢などできなかったようだが。


「正直、儂はどうでもいいのじゃ。恨む理由が見つからぬ。しかし、こやつらは違うのじゃ。あの日の悲しみを恨みを忘れたことはないのじゃ」


「………ええ」


 刺々しい雰囲気から、つまり、ここで自分を殺す、辱めるということなのだろうとクレアはそう判断した。


 だから


「しかし、今回はそなたに救われた。そなたのパートナー達がいなければここまで戦えなかったのじゃ。その件で帳消しになるわけではないが………感謝だけは述べよう」


 魔族達が頭を下げたことは本当に予想外で。

 おもわず、呆気に取られた彼女へ魔族達の嘲笑が飛ぶ。


「許したわけじゃない。怨みは残るが、今回はそなたに感謝するだけじゃ。後はそなたのパートナーが勝てばいいのじゃろ?」


「え、ええ、そうね。まーくんが勝たなきゃ、私たちはおしまいだもの」


 牙を削がれた龍は何となく持て余す気持ちを抱えつつも今、戦っている彼に思いを馳せた。


「2人とも無事でいて」


 彼と彼女の身を案じながら。




 *




「うっ………」


「漸く目を覚ましたか。起きれるか、ロゼ先輩?」


「ここは………?」


「気を失って運ばれた。私の子供達が治したんだ、感謝しろ」


「なんで、貴方がそんなに偉そうなのよ」


 ロゼはゆっくり体を起こし、周りを見回せば布がかけられた人の形をしたものと痛みと苦しみに喘ぎながら治療を受けている人々で溢れ返っていた。


「まって、気を失っていたってことはマコト君との契約が!」


 悲惨な現状を把握すれば一気に思考回路が加速し、自分がやってしまった失態に顔を青くする。


「その点だがロゼ先輩が倒れる前からルナール先輩が契約が可笑しいと、空回りしているようで正常に機能してないと言ってた」


「なら尚更危ないじゃない! 何とかしてーー」


「怪我人が行って何ができる!」


 焦って顔を上げたロゼを、ジゼルが怒りの形相で睨みつける。

 その思わぬ視線の鋭さにロゼは驚き、ジゼルはすぐに自分が怒ったことを恥じるように目を伏せた。


「私だって先輩のもとに向かいたい………だが私じゃ力不足だ。今の魔力切れを起こしかけたロゼ先輩が行っても死人が増えるだけ………だから大人しくしてくれ」


 治癒魔法に関してはロゼより上手いジゼルの言葉にロゼは軽率な判断を引っ込める。


「ジゼルの言う通りだ。お前は良くやった。身近な脅威もクレア達が排除してくれたおかげで心配はない。あとはマコトがリリムを連れ帰ってくるだけだ」


「魔王か、戦争はひとまず私たちの勝利なんだな?」


「その件でオレはきた」


 そんな2人の元へ流線型のフォルムを駆使してきたのはサタンスライム。彼は2人の傷跡を傷ましなく思いながら、頭を下げた。


「ありがとう。この恩は世界が救われたなら、いくらでも返す。だから、もう少しだけ頑張ってくれ。マコトが帰ってくるまで。この国の希望が戻るまで」


「やっぱり、私の与えた2つ名はぴったりだったな」


「希望ね………いつから私たちのパートナーはそんな大それたものを背負うことになったのかしら」


 少なくとも今この状況を作り出しているのはマコトの力があってこそだろう。後は彼が無事でいて、世界を救ってくれれば文字通りのハッピーエンドだ。


「あの男が生きて帰って来たその時こそ、奴はこの国の希望の象徴になると思っている。だから、オレはあいつに未来を託したんだ」


 魔王は自身が助けた小さな赤子を思い出す。彼の成長を身近に見て来たからこそ、彼を信じられるのだ。


「そうだな、私はここから願うことしか出来ないけど………」


「私は信じることしかできないけど」


 それでも2人は彼のパートナーだ。愛するものを信じない馬鹿がどこにいる。


「帰って来い! 先輩!」


「勝って! マコト君!」


 仲間たちから彼への思いはーー世界を超える。




 *




「よし、念のためぶっ壊そう」


 躊躇いなく、マコトの周辺に爆弾を作り上げるサマエル。それはマコトの体を世界から消すには十分で。


「ほらよ」


 彼女の指を鳴らした瞬間、爆発が起きるように設定し、すぐに指を鳴らせば爆弾全てがーー凍らされていた。


 そして予知が飛んで来た氷の棘をサマエルへ教え、間一髪のところで頭を下げて交わした彼女が見たのは


「………マコト」


「おいおいおいおい! なーに生きてやがんだ! テメェは確かにぶっ殺したはずだろうが!」


 殺したはずのリリムの姿がそこにはいた。


 幻覚ではない。全身火傷に服はもはやボロ当然、滴る血が白いキャンパスを赤く彩っていく。


 どう見ても死にかけの彼女だったが、唯一変わっていたのは、髪留めが壊れ、雪に埋もれていた事だ。


「その髪留めがアーティファクトか何かか!? 命の肩代わりか! 小賢しい真似しやがってよお!」


「これはマコトからのプレゼントだから」


 コンジュレイにて景品のアーティファクトをずっと肌身離さず身につけていたリリム。そのおかげで満身創痍ではあるが、命だけは取り止めていた。


「まぁいい、それよか、見て見なよ! アンタを救いに来たカックイイヒーローは無様に死んで! もれなく、アンタも同じところに送ってやる! 優しい私に感謝しな!」


 サマエルは軽薄そうに興奮に身を震わせていた。だが、リリムの視界に、耳に彼女の存在を捉えることはなく。


「マコト………立ってよ」


 彼女の目には血溜まりに沈むマコトしか映らない。


「あーしらけるわぁ。いっとくけどマジで死んでるから。私の目にそいつが立つ未来なんざ見えねえ以上、アンタの行く末は決まってんだよ」


 サマエルの態度はひどく投げやりで煩雑だ。負けの目はないし、念のために彼らの周りを兵器で囲う。それで、壊れた繋がりを見て楽しむことに決めた。


「マコト………」


 兵器の檻にて横たわるマコトへリリムは回復の魔力を送るがそれら全ては空回りし、雪に埋もれていく。


「やだよ………ひとりにしないでよ」


 泣きそうな表情で無駄に魔力を消費していく姿にサマエルは歓喜を覚える。


 これが繋がりなど存在しないという証明で、絶望仕切るその顔がなによりも勝る快楽だった。


「ふざけないでよ………一緒に戦ってくれるって言ったじゃない! 約束しといて先に逝かないでよ!」


 泣いてるのか、怒ってるのか、とにかく溢れ出す感情と一緒に涙も流れていく。その涙はマコトの横顔を濡らしていく。


「誰かに不幸を押し付けて、他の人は見て見ぬ振り。それを許容することに異世界も地球も関係ねえ。分かるか、リリム? それがこの世界だ!」


「死んじゃ……死な、死なないで……一人に、しないで……っ!やめてぇ……っ」


 サマエルは泣きわめくリリムに意地の悪い笑顔で兵器を放つ。放たれた破壊の光は彼らを飲み込もうとする。


「立ってよ、マコト………立ってええええええ!!」


 目の前に迫る光の中、零した涙がマコトへ落ちた時、死に際だったその指先に微かに力が入った。


 まだーー負けられない!


「なっ! 凍っていく!?」


 白く煙る世界にてハリボテの兵器全てが機能しなくなり、雪に触れた先から氷結が体を侵食していく。


 立つ理由は至ってシンプル。

 泣いている彼女を1人にしたくないと俺の何かが叫んでいるからだ。


 その絶対零度の世界で白い靄の中に煌々と輝く赤と緑の瞳が、死んでいく地上を容赦ない光で睥睨する。


 その影がゆっくりと姿をあらわす。

 月の光を吸収したような金色の髪に、爛々と相手を射抜くオッドアイ。そして、髪の中から2つの角が見え、青いタトゥーが頬に入れられている。


「どうして立てる! 鴉間真は死んだ! お前が立つ未来なんて万に1つもねえんだよ!」


 サマエルの怒号に対して、その男は不敵に笑った。


「未来を変える権利は誰にだってあるだろうが」


 側にいたリリムを背中に回し、現れた黒衣のマントを雪にたなびかせ、その男、マコト・カラスマは死地から復帰した。


「マコト!!」


「姿が変わってやがるな、新しい自分でも生み出したか? ハッピーバースデー。誕生日おめでとう、鴉間真!!」


「俺の誕生日は9月だ。悪いがお前を殺して気持ちよく誕生日を迎えさせてもらうぞ」


 サマエルの皮肉を聞いたマコトの目は激情に揺れていた。色濃い感情、殺意に身を委ねた魔族のマコトにサマエルはただ睨みつける。


「さっき言ってたな、サマエル。不幸を誰かに押し付けるのがこの世界だと」


「あ? なんか文句あんのかよ!?」


「いや、その意見にはたしかに頷いてしまいそうにもなるが………俺はそれに賛同できない」


「じゃあ、なんだ! この世界はなんのためにあるか、言ってみろよ!」


 そんなもの最初から決まっている。


「ーー俺たちが俺たちらしく生きるための世界に決まってんだろ」


 得意げな表情で言い切ればサマエルは血が滲むほど拳を握りしめ、狂笑する。その目にはどこか、憧れが垣間見えて。


「綺麗事言うじゃねえか! 希望の象徴は簡単には折れませんってか? んなもん、他人がテメェを都合よく使ってるだけだ! 守るものが多いお前はいずれ破滅する! 今、この瞬間みたいにな!」


 狙いはリリム、サマエルの影から飛び出した黒い魔の手が殺到する。密集し、1つの黒い塊を押しつぶそうとーー


「守るものが多いからこそ、負けられないんだよ。サマエル」


 刹那、黒い塊が凍らされ、中から無事なリリムが出てくる。リリムの驚きようから彼女が何かをしたわけではなく、側にいたマコトによるものだと理解した時、サマエルは感情に身を任せた。


 サマエルは命を削る勢いで黒い魔力を放出する。幾重にも重なるそれは銀世界を漆黒の世界へと変貌させた。


「ならテメェに教えてやるよ! 失うものは何一つない強さをな!」


 対して、マコトはその身から滴る血を蒸発させる勢いで青い魔力を放出、黒い世界に拮抗する。


「ならお前に突きつけてやる。失えるものなど何一つない強さをな」


 転生者でありながら、世界を滅ぼそうとするもの。

 転移者でありながら、世界を守ろうとするもの。


 これが最後、全ての決着はーー今!

次回は火曜18時から

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。