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拳を握る理由

「世界の理は2つに1つだけ、正義か。正義じゃないかだ」


 更にキレを増すジンの動きにこちらはついていくのが精一杯だ。そんな彼は溜息まじ入りに呟く。

 そう言う割に剣の輝きは増し、またもやもう1人の俺が上下に分かれて、霧散する。


 力、速さ、数を倍にしてようやく俺と同じ力を単体で発揮できるって本当に人間か怪しいところだ。


 これが人類の到達点、起源に至った領域かよ。


「なら俺とお前、どっちが正義だ?」


 アーティファクトを起動して、体内に流れる魔力を変換。赤と緑の光がジンへ迫るも彼はそれを『予測』して叩っ斬る。


 切断がなくなったおかげでワンターンキルなんてふざけたものはなくなったがそれでもまだまだ届かない。


 炎と風を銃に纏わせ、炎熱の弾丸を撃つ。赤々とした火炎を伴う銃撃が、演算によって床、壁を反射し、計算された側面からジンへ向かう。


「君達が正義で僕たちが正義じゃない」


 しかし、ジンはこれもまたあっさりと、背中に目があるかと思うほど正確に剣で受け止めていなし、空いた胴へ蹴りを叩き込んできた。


「なのに世界を壊すのか!」


「それが誰かの記憶に残るなら」


 改造によって腹部を硬化し、受け止め、俺は足を跳ねあげて、ジンの側頭部に叩きつける。この攻撃は防御される事なく、ジンは床を転がり、壁を破壊し、次の部屋に吹き飛ぶ。


「今のは予測できなかったか?」


 ジンが吹き飛んだ先にそういえば煙の中から、ジンが立ち上がる。頭からは血が流れているが、魔法によって傷は塞がっているようだ。


「君も把握できなかったかい?」


 だがその手に握られていたのはひしゃげた指輪と腕輪。自分の手を見ればそこにあったはずのアーティファクトはない。


「これで君は魔法が使えない。頼るべきは心武器だけだ」


「あの攻防でそんな事やれるとは相当やばいな」


「やばい………なかなか便利そうな言葉だ。記憶しておくよ」


「そういえばやばいなんて言語はこっちになかったな………」


 そのおかげでエルデの正体に感づいたのだがそれはひとまず置いて、再び分身をだす。


「変わりばえない戦い方だけど勝つ気はあるのかい?」


「あるよ、ばりばりあるよ。リリムさんもこれ以上待たせるわけにはいかないしな」


 アザゼルに負けるとは思わないが万が一という可能性もなくはない。


「だから、今度は2人で行く!」


 つまりは突貫。切断さえなければ直撃を受けても改造で治せると判断した上での作戦である。


「なら僕はこうしよう」


 彼は剣を片手に握り、出された残りの手から4色の光が浮かび上がる。というか、ロゼさんと初めて戦った時の魔法に似て………


「END」


「やっぱそれか!」


 四方向からの4色の光が逃げ場なく、俺を囲い込む。咄嗟に俺は移動でその空間から逃れるも『予測』していたジンの刺突が肩辺りに突き刺さる。


「魔法も使えて剣も使える。人の体は便利だからこそ強い。種族にかまけて戦うやつは正直なところ、怒りを抱くよ」


 斬撃の嵐を銃を構えて致命傷を庇うが肘で切断された腕が宙を回り、音を立てて床に落ちた


「昨日と同じだ。君では僕には勝てないよ」


 腕を掴んで距離を取り、改造弾と改竄弾の併用で無理やり健常状態へ復活させる。魔族の体になってからというものポンポン腕が飛ぶのはいかがなものか。


「1日で勝てるとは思ってないけどさ………まさか、あの時の全てが俺の全力だと思うのか?」


「なら、見せてくれよ」


 再び、ジンの姿が消える。ジンの心武器による『結合』の力だ。奴はパートナー達の身体能力を自分に足し合わせているのだ。


 そして煌めく剣の乱舞、一撃が十分に致命傷になり得る、無数の斬撃。


 甲高い音と火花が連続し、捌ききった俺を前にしてジンは背後へと飛ぶ。すぐさま分身が前に踏み出すが頭蓋を剣の光が貫いた。


 それに驚く暇などなく、引き金を引き、聞き慣れた乾いた音が分身の体を無視してその先にいるはずのジンへ襲いかかる。


「悪くはないよ、けど視野が狭い」


 あろうことか、この男、分身体に突き刺した剣をそのままにし、胴体へ爪先を向けてくる。


「肉弾戦なら俺に勝てると思ったか?」


 だがその爪先を腕に引き寄せ、肩口からの拳を端正な顔に叩き込む。ジンはそれを首をひねり、受け流すも奴の口に指を突っ込み顎ごと引き寄せて、頭突きをかます。


 クレアさんに教わった拳闘法は魔族の体になってから更に動きやすくなった。種族を極め、武術など治めていようとこっちだって似たようなことはやってるんだよ。


 弾かれた体を分身体の俺が背中を蹴り飛ばし、こちらへ返す。ジンはその勢いで俺にカウンターを仕掛けようとするが肘で割り込み、彼の顎を正確に射抜く。


 足を払い、たたらを踏んだジンの顎へ右から左へと台風のような拳打を浴びせる。ジンも腕を振るうが振るった腕は回し蹴りされた背中から前のめりになり、俺の膝頭で鼻を折られる。


「痛いじゃないか………どうやら肉弾戦なら君には負けるみたいだ。予測が切られたのもあるけど」


「言い訳は見苦しいぜ? こっちは血反吐吐くような訓練が毎日だからな。これだけは教えてくれた人のメンツのためにも負けるわけにはいかないんだよ」


「武器の戦いなら僕、格闘戦なら君、なら、次は魔法と行こうか」


 弧を描く炎の剣、それを俺は銃で受けず、とっさに後ろへバク転気味に躱した。直後、氷の剣が頭を叩き割りににくるのを、着地の反動そのままに前方へ飛ぶことで回避。

 

「お返しだよ」


 だがジンの長い足が、俺の胴を直撃する。その『炸裂』蹴りの威力は人では出せないほどの馬鹿力で、受けた俺の体が石をくるんだ布のように軽々と吹っ飛ぶ。


「このっ!」


 俺はジンに左手を向けたが、その手にはもはや何も握られておらず、逃した隙をジンは詰めてくる。


「切断がなくても吹き飛ばせば事は足りる」


 切っ尖が破裂し、自分の血が俺の目からジンを隠す。急いで拭ったが既にジンの炸裂蹴りが膝を砕き、向けようとした銃ごと腕を剣が貫通し、床に固定される。


「なかなかいい戦いだった。君のことは忘れない」


 ジンの炸裂する掌が俺の顔を覆いーー




 *




「おい、マコトお前はいつまでアーティファクトを使う気だ?」


「いつまでって言われても魔法に関する才能がない以上はこれを使わなきゃ、魔法使えないですし」


「はあ………」


 何故か夢の世界で魔王に呆れた目でため息つかれた俺は怪訝な顔をした。


「阿保、それは貴様が人間だった時の話であろうが! 今の貴様は『罪』を自覚し、魔族へと変貌を遂げたのだぞ? 」


「いやいや、だとしてもそんな簡単に魔法が使えるわけないじゃないですか」


「ともかく、やれ。やってから文句は聞いてやる」


 俺は夢の世界で魔族としての戦い方と魔眼の使い方を徹底的に仕込まれ、以前よりは成長したと思っていたのだが……


「あれだな、貴様は命を奪う事を恐れすぎだ。その殻さえ破ればお前は俺を超えられるだろうに」


「地球での倫理観考えてくれません? あそこで何年も生きてて、いざ殺せってなったら誰だって嫌でしょう?」


「生き物は普通に殺すくせに人は殺せないとは。貴様には覚悟が足りない。相手は殺すつもりで来てるのだぞ?」


 全ての訓練が終わった後は魔王によるカウンセリング、という名のダメ出しである。


「いやでも………」


「なら、こういった方が鎖は千切れるか? お前は以前、神竜となった人間を殺しているだろう? 人喰だってそうだ。あれも報われぬ、魂の集合体だ」


「アレらは違うだろう? 怪物だ。人じゃない」


「人だ。まさかとは思うが、お前は魔物や人間の命の価値に差があるとでも言っているのか? それこそ、憤怒に値する。貴様は神気取りか何かか?」


「全ての命は等価だと?」


「そうだ。だからこそ殺し合いが起きる。なぜなら皆が自分達と同じ命の価値を持つからだ。犯罪者が王を殺しても、王が子供を殺しても価値は同じだから死という罰が与えられる」


 その言葉に俺は黙り込む。だがクレアさんも言っていたように俺が殺した事で得られる幸せと釣り合うのか。


「龍の女の言葉にも一理ある。しかし、奴は殺すなとは言っていない。無闇矢鱈に殺すなと言っているだけだ。考えろ、殺すだけなら誰だって出来る。貴様の身近な例なら、エルデだな。元殺し屋JB あの男は罪の重さを自覚しているからこそ、殺すことができるんだ」


 魔王のなかではエルデの評価はなかなか高いらしい。


「ジゼルもあの一種だ。奴はお前を心酔しているから、お前へ害をなすものを殺すことに忌避はない。身内には優しいが敵には容赦ない。そんな人間だ」


「じゃあ、アルフレッドやイグニスは?」


「自分の欲望のままに殺した阿保どもは知るか。この世界に来た理由は元を辿ればオレだが、奴らの卑劣な行為にはオレに責任はない」


「なら………俺は?」


 魔王はそこで少し、瞑目するとゆっくり話し出した。


「お前は倫理観がどうとか、地球とは違うとか言っているが………お前本人は()()()()()()()()()()()()?」


「なんでそうだと?」


「お前は平穏を望んでいたが、その平穏を得るためになんだってする奴だ。それこそ、殺しを許容するほどにな」


 実際、その通りだ。俺は別に人を殺すこと自体に忌避感はない。ただ、常識として人は殺してはいけないから殺していないだけ。


 だから、魔物は殺せるが地球では猫や犬など殺したことはない。何故なら、地球では猫や犬を殺すのは犯罪で異世界では魔物を殺すことに罰などないからだ。


 しかし、この異世界にも殺しに対する罰則がある以上、殺すわけにもいかないだろう。


 それにそれをやらせないように気を使う人達だっている。その人達を裏切れない。


「オレが長い間に同調していたことも関係しているが、1番は血筋だな。そこのところはシェンデーレにそっくりだ」


「喜んでいいのか、迷うところだな」


 ちょっと笑えば魔王も口角を少し上げて笑う。そして、魔王はそんな俺に覚悟を決めさせた。


「俺はお前に国を、リリムを任せたい。英雄の子で魔族に差別的な目を持たず、いざとなれば殺しを許容出来るお前にオレの後を継いでほしい」


 それはほぼ有無を言わさぬものだった。魔王の中ではきっと決まっていたのだろう。だから、俺も考えていたことを正直に話そう。


「この命は英雄の父と亡き母の愛、そして消えかけた命を救ってくれた魔王様のおかげです。だから俺はーーこの命に恥じない生き方をしたい」


 皆が必死になって救ってくれた命を無駄にすることなどできないから。

 俺は命が尽きるまで走り続けると決めたのだ。


「その返事は好意的に受け取っておくぞ。『魔弾の王』、次期魔王よ。誰かの希望である為に生まれた男よ」


 魔王はそうやって俺の肩に手を置いた。

 その手はとても暖かかった。




 *




 ジンのかざした手は何も起きず、白熱した思考回路を焼き付ける勢いで自由な左手を床に叩きつけた。


 そこから淡蒼色の魔力が迸り、形となった氷の剣山がジンの脇腹を深々と抉り取る。追撃の銃弾は避けられたが、危機は脱した。


「契約が切られたのは仕方ない。メロはクレアシオンとやると言っていたから、負けたんだろう。だが問題はそこじゃない。君は魔法は使えなかったはずだ」


 ジンの見開いた目にはその砕け散る氷の儚げな美しさもあって、幻想的さを孕んだ空間に立つ俺が見えるだろう。


「言ったろ? 俺は全力を出し切った覚えはないって」


 アーティファクトで魔法の下地は完成してた。それでも使っていたのは単に慣れの問題だ。


 全霊で魔力を解放し、分身も生み出し、銃を握る。そして背後の空間からひび割れるような音と共に青白い光が瞬き、様々な武器が形成される。


「行くぞ、人類の到達点。お前が戦うのは魔弾の王。無数の武器を弾とする俺を前に、恐れずかかってこい!」


「魔弾の王とは大きく出たね。なら、君を倒して僕は勇者とでも名乗ることにするよ!」


 焼き付いた空気が氷の暴威によって凍てつく。これが最後の攻防、どちらかが退く時は負けを意味する。


「食らいやがれ!」


 魔王との特訓にて身につけた氷の武器による絶対破壊領域。射出されたその全体攻撃を前にして、忘却と結合だけしかないジンは


「受けて立つ!」


 あろうことか真っ正面から対峙、かつ無数の剣線が一種の守護領域を作り出し、氷が砕かれる情景が芸術的な空間を生む。


 俺はそれを見ながら離れた武器に隠すように弾丸を添える。それでもジンの目に捉えた弾丸はハエのように叩かれ、地に落ちていく。


 だから、目で捉えられない死角からの一撃を与える。


「"301個の氷結迷宮"」


 氷の粒子が瞬き、床に、天井に、壁に氷の壁を作り出し、そこへ弾丸を放つ。


 甲高い音と反射恩を奏で、何度も反射した弾丸の軌跡をジンは捉えることができず、彼の肩へと突き刺さる。


「痛みで動きを止めれば蜂の巣だ!」


 魔眼で見抜いた痛みをもっとも感じる部分への弾丸とフェイクの弾丸を織り交ぜて、撃ち続ける。


「悪いがもう覚えた!」


 しかし、ジンはその弾丸の結界を一発で把握し、安全地帯を駆け抜けてくる。俺は真っ正面から制圧するように氷の武器を射出するもジンの足止めにもなりゃしない。


「だからこそ魔法が生きる」


 瞬間、壊れた武器を利用して跳ね返った弾丸がジンの足を貫き、態勢を崩したところへ改造麻痺弾がジンの肩口へヒット、すぐに麻痺が体にまわったジンへ青の光が無数に炸裂する。


「があああっ!」


 だが気合の雄叫びをあげたジンは止まることはない。先程よりかは攻撃が大振りだがそれでも脅威に変わりはない。


「やられたよ! 君の氷に気を配られて壊れた武器までは気にしていなかった。それを反射板にまで回すとは!」


「そっちこそ、麻痺してる癖に風魔法で手を動かして、水魔法で滑るように移動、火の爆発で細かな動きをするお前に言われたくないよ!」


 ジンの剣を銃で受け止め、背後に出した分身へ銃を逆手に投げ渡す。


「俺ごと撃て!」


「おうとも!」


 黒銃を受けた分身体は身をよじるジンへ引き金を引く。俺の体を掠めた弾丸が焼けた匂いとともに吹き出した血が俺の体を汚していく。


 そして、ジンの手足のパーツが改造されてバラバラになり、大剣もそれとともに床へと落ちていく。それを見て、ジンは笑った。


「この勝負は君の勝ちだーーだから最後の悪あがきをさせてもらう!」


 それは最後の一噛み。負けるとはわかった上での後へ繋ぐための足掻き。


 氷で俺の足を凍らせ、その間にジンの大剣が火魔法の爆風によって崩れ落ちるジンの頭まで浮かび上がる。それをジンは強靭な顎の力で噛み締めると再び、爆発を起こし、推進力を得た。


「僕は人類の到達点だ。その誇りの一矢を受けろ!」


 直ぐに氷を解いたが既にジンの大剣は俺の心臓部へ狙いを定めていた。移動する時間はないと反射的に氷の壁でジンの体を突き上げる。


 体が跳ね上がったことで咥えた大剣が下がり、俺の脇腹へ深々と突き刺さる。だが問題はない。後で治せばーー


「結合!」


 しかし、同時に俺の手から心武器が消え、焼けるような激しい痛みが脳髄へ叩き込まれる。すぐさま分身にジンを蹴り飛ばしてもらい、大剣を抜く。


「何をした! ジン!」


「君の契約を無茶苦茶に結び合わせただけさ。無理に使えば体がぶっ壊れる」


 どうやら奴の言う通り、出してみようとすれば魔力だけが漏れているようで一向に銃の形にならない。


「心配はないよ。また最初から結び直せば治るさ。ただ、ここに君のパートナー達がいないのはわかってる。結合も切れたし、後はアザゼルに任せるとするよ」


 バラバラになった状態で愉悦気味に笑うジンへ何か言ってやりたいところだが脇腹の傷に弾痕からの出血が酷い。


 氷で蓋をし、ひとまず出血死を防ぐが流れた血が多すぎる。治癒魔法が使えないのがここで仇になった。


「ひとまず、お前はここに置いてやる。逃げたりしたら、わかってるな?」


「それを聞くとでも?」


「馬鹿、ガルディさん辺りがどうせ調べてんだろうから。戦いが終わったのを確認して、来るだろうよ」


 断続的な痛みに耐えて、だるい身体を押して魔眼を起動、リリムさんが消えた地球への入り口を見つけてそこへ歩いていく。


「そうだ、魔弾の王。君に1つ言っておくよ」


「なんだ? あまり時間がないから早めにな」


 リリムさんの元にいそがなきゃいけない俺にジンはこちらへ目だけ向けてただ一言


「殺すのはアザゼルだけにしてやってくれ。彼女の素体であるサマエルにはなんの罪も無いのだから」


「お前……」


「それに首謀者を晒したいなら僕の首にしてくれ。それならサマエルも助かる。僕のことも大罪人として記憶に残るからね。万々歳だ」


「なあ、なんでそこまでやる? 普通は見捨てるだろ? しかももしかしたら、リリムさんが負けててあいつが俺に勝つかもしれないだろ?」


「ない。それは絶対に。アザゼルは君には勝てないよ。そして彼女のわがままに未来ある少女の命を犠牲にはしたくない」


「世界を滅ぼそうとしたやつが言う言葉か?」


「僕は誰かの記憶に残るならなんだっていいのさ。今回だって、悪行の方が手っ取り早く知名度を上げられるから協力しただけだ」


 聞く人が聞けば悪逆にも程がある。何故、そんな力を持ちながら、悪に手を染めたのかと問いたい気持ちもあるだろう。


 だけど俺はその言葉を否定するつもりはなかった。そんな俺に少し戸惑いを出したがジンはどこか納得したように頷いた。


「それに僕は忘れられた子供だった。だから同じ環境だったアザゼルに協力して、誰かに覚えていて欲しかったのさ」


 それがジンが拳を握る理由。到達点にたどり着いても自らを捨てた家族は名乗り出なかったからこそ、彼はアザゼルの手を取ったのだ。


 誰かに覚えて貰いたかったから。

 記憶に残りたかったから。


「君も同類だろ? ただ、君には迎えに来てくれた人がいた。僕にはいなかった。それだけ、そうーーそれだけの違いさ」


 それは暗に俺も世界を壊す側に立つ可能性があったと示唆しているようにも思えた。何故なら、俺自身が深く納得してしまったからだ。


「ジン、お前のことは一生忘れてやるか。だからゲームオーバーのお前はここで大人しくしてろ」


 俺はそう告げて、ジンに背中を向ける。


 俺は良くも悪くも同じような環境に生まれた男の答えに好感を抱いた。それと同時に残念にも思った。


 友達になれたら、きっと気が合っただろうに。

次回は水曜の18時辺りになります

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