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カルチェーレの底力

 エルデにジェームズを任せた後、俺はルナールさんのところへ移動する。

 移動した先は砂が満ちた空間だった。


 降り立てば細かな砂が舞い、動くだけで黄銅に景色が変わる。


 どうやらこの国が動く際に取り込んでいる砂を排出する場所のようだがこんな所にルナールさんがいるのか?


『把握』の能力を使ってみれば砂中を高速で移動する物体がこちらへ向かって急速に接近してくるではないか!


 たまらずその場から飛びのくと、砂つぶを巻き上げて金属製の削岩機、いやドリルと言ったほうがいい、あれはドリルだ!間違いない!


 少年心をくすぐるようなドリルの音にそのヴィジュアルに目を奪われるがすぐさま意識を切り替えてドリルを剣で受け止めるルナールさんを回収する。


「おおっ!花婿ではないか!もう上は良いのか?」


「後はベルゼたちに任せました。それなりの実力者ですから、心配はいらないでしょう!それより奴は!?」


「オイラは黒兜副団長ジャスティンだ。お前がさっきからルナールが言っている旦那か!」


「いえ、旦那とかじゃあありません。関係的には飼い主と飼いきつねです」


 横で脇に抱えられているルナールさんが何か言っているがとりあえず無視して、把握を使いながら話を進める。


「ルナールさん、俺は宝物庫を守りに来たんですけど、その場所って………」


「今の状況じゃ分からぬのも無理ないな。ここだ、この砂に埋もれた地面の下に宝が山ほど入った扉がある。ジャスティンとやらは『穴を掘る心武器』で宝を回収しようとしているのだ」


「つまり、あのドリルが心武器!」


「花婿よ、なぜそんなに目をキラキラさせているのだ!?」


 ごほん、ともかく宝物庫はこの砂の底にあるようだ。

 どうやらカルチェーレは今、動きを止めているために砂が排出されず、溜まりに溜まり続けていたのだ。


 動きを止めている理由は獣王祭のためだ。

 祭り中は羽目を外して暴れる輩が多く、それをスムーズに確保するためにコンジュレイの近くにカルチェーレを留めているからだ。


 黒兜たちはこのタイミングを計算し、事前に砂漠に作りあげた連絡用通路を通って、この監獄の位置を知らせたようだ。


「動きを止めればそれは侵入しやすくなるからな、だからそれを防ぐために砂の中に扉を埋めておるのだ」


「そこまでは読んでいたのさ、オイラだって馬鹿じゃない。それに分かっているのかい?オイラ達の心武器によって作られた穴は1つじゃないんだぜい?」


 それはそうだろう。

 穴を掘ることが出来るならこの日のために予備の穴も多数作っているはずだ。


 おそらくなんらかの手段を使って砂漠の大監獄付近まで移動した後、穴を通って各自の目的を果たしにいったのか。


 もし俺みたいな空間移動の心武器を使っても移動した目の前に敵がいないとは限らないから、そちらの方が安全か。


「既に黒兜の7割の人員がこの監獄に侵入した。貴様らはもうおしまいさ。カルチェーレはオイラたちの物となり、移動盗賊国家として産声をあげるのさ!」


「なるほど、そなたらの目的はこの監獄と妾の宝物庫か………ならばこの国も本気を出さなくてはならぬな」


 ルナールさんが懐から取り出したのは一枚の札。

 彼女はそこに擦り傷の血文字で文字を書くと耳に充てる。


「妾だ、『宝物庫の鍵を開けよ』侵入者達にこの国の底力を見せてやれ」




 *




「チェイサー!」


 大剣を振り回し、いや振り回されながらも歪曲によって歪んでいく空間へ2メートルごえの大剣を器用に扱いながらアルフレッドへ迫る。


 アルフレッドは『歪曲』大剣の軌跡を歪ませ、自分の周りも歪ませる心武器だ。


 マックスは『吸収』と『放出』大剣、又は体に触れたエネルギーを吸収し、それをブーストとして放出する。


 歪曲の空間を吸収し、大剣での攻撃が通るくらいには能力的に差はない。

 けれど、ベースになる筋力、敏捷、技術その全てがアルフレッドを凌駕する!


 アルフレッドの稚拙な剣技がマックスの無双の剣に届くはずもなく、最初は余裕がある表情のアルフレッドは徐々に冷や汗を垂らし、後退していく。


「こんのー!龍闘流法"電光石火"!!」


 大きく、剣を振り、アルフレッドの剣を弾き上げたところでフィリアがマックスの死角から雷速の拳打が襲いかかる。


「1つ言い忘れてましたが………僕は幻獣種ケルベロス」


 フィリアは見た。

 相手の顔を狙った無数の攻撃が肩から生えて来た2つの腕によって防がれ、もう2本の腕によって足を拘束され、宙に浮いた状態になる。


「数的優位などありません」


「僕たちは生まれた時から3人なんですから」


 マックスの顔が分裂するように2つの首が現れたかと思うと脇腹から飛び出て来た2本の黒炎の蹴撃が火に強いはずのフィリアの鱗を焼却させた。


 幻獣種ケルベロス、その特性は自分と同じ人物が体内に2人いる事だ。

 考えも似たり寄ったりの3つ子だと考えてくれば問題はない。


 その為、思考、体術、魔法と別々に考え効率よく相手に対して戦術を変えられるなどの有利性を誇る。


 そしてマックスはフィリアを4本の腕で固定しながら、慄くアルフレッドへ肉迫し、大地を穿つほどの一撃をお見舞いする。


 アルフレッドは咄嗟に剣を掲げて、足が大地にめり込みながらも防ぐ………だが彼の腹からフィリアの鱗を焼いた足が突き刺さった。


「あっづああっああ!!」


 骨まで焦げたような前蹴りに壁を破壊していき、ようやく勢いが死んだ頃にはもはや一歩も動ける状態ではなかった。


 手から心武器が消え、焼け焦げた匂いと炭化したような皮膚に意識を取り戻し、目を開いたところには大剣を上段に構えていたマックスの姿。


 禍々しいほどの黒炎が大剣に集中し、煉獄といっても過言ではないほどの迫力。

 どう足掻こうにも逃げられず、体はマックスの中にいる人達によって動けない。


「ま、待てよ………元クラスメイトを殺すのか?」


「殺しますが何か?どうせ死刑囚ならばいつかは死ぬじゃないですか」


 アルフレッドを見下す、その目はまるでゴミを見るかのような汚らわしい扱いで嫌でも前世の事を思い出し、暴れだす。


「がぁああああ! お前らァーー!!どいつもこいつもおれをみくだしやがってえ!!テメェらなんぞに俺は負けてねえ!!てめえみてえな変態野郎に殺されてたまるかぁぁ!!」


「弱い獣ほどよく吠える。僕は変態ですが獣人の英雄の子でもある。所詮、世の中は弱肉強食。負けたものは死ぬ定めなんですよ」


 切っ先が黒く染まる。

 この距離でアルフレッドは熱を感じなかった。

 ということはその大剣の中に膨大な熱が蠢いているのだ。


「さあ、地獄の門を開けましょうーー」


「やだ、やめろ!!俺はまだーー」


地獄の審判(ヘル・ジャッジメント)!」


「死にたくねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 刹那、カルチェーレに激震がはしる。

 人為的に引き起こされたその大地震と大爆発により、墓標のような逆十字の黒煙が登る。


 それがアルフレッドへの死を如実に表していた。




 *




「な、何よ、今の地震は!」


「誰かが凄い魔法?剣技?わからないけど使ったみたい!」


「うーん、うちらの中にそんなやつはおりまへんがな。となれば囚人か、貴方達の知り合いでは?」


 JBは顎に手を当てながらもクレアの打撃を受け流していく。


「捉えた!」


 フェイントを織り交ぜ、ようやく晒した急所に雷撃ごと拳を叩き込むもJBの体が分解され、糸状の物質が雷撃と衝撃を移動させ、クレアの体へ逆流する


「無駄さ!打撃、雷撃は衝撃をそのまま返してやるから!おっーと悪いけど、これは心武器の力じゃないぜい?」


 さっきからクレアの格闘術は全てが変異な体によって受け流され、自分に跳ね返ってきている。

 こんな千日手を繰り返していればいずれは自分が負けるだろうと推測しながらも有効打が見つからない。


「貴方、この先に何があるの?そんなに見せたくないものがあるのかしら?」


「いや………ただ君達に邪魔されたくないだけさ。この戦いでどちらが勝つかなんて分からないさ。それでもアレは彼らが決着をつけるべきであって邪魔者は入れることは出来ないのさ!」


 ピエロは鼻を取り外し、それに魔力を込めて巨大化させると飛び乗った。


「てな訳だから、帰った!帰った!玉乗り大サービスだよ!」


「これはまずいわね、逃げるわよ!」


 狭い通路を玉で埋め、逃げ場もないためにクレアはすぐに撤退の指示を出し、殿を務めるリリムが氷の壁を張る。


「貴方………何故私たちを巻き込んだの?」


「………答えは最後だ。ここ以外なら好きに進め、俺は追わない」


「………勝てなかったら、今度はマコトが行くから心配いらない」


 正体に気づいているリリムはそう呟くとその場を後にした。

 JBは玉から降りてそれをまた鼻につけると石壁に寄りかかり、金属音が鳴り響く先を見据えるのだった。




 *




「今の地震は………マックスが勝ったのかのう」


「何で想像が通じない!無限の力だぞ!」


「いつだって想像は現実に喰われるものじゃ、そろそろ現実を見たらどうじゃ?」


 アルフレッドが死亡した頃、ベルゼは膝をつくイグニスと対峙していた。

 既に周りはクレーターだらけの世紀末じみた空間へ変貌して降り、並々ならぬ戦いがあった事を予測させる。


「想像!無限の銃製!全てが必中、当たれば死だ!」


 叫んだ言葉に世界が答え、広がるのは銀のマスケット銃に込められた弾丸だ。

 当たれば消し飛ぶような威力を誇る銃がベルゼへ一斉射撃を開始する。


「腕よーー喰らい尽くせ」


 しかし、ベルゼがその場で回転するように腕を振るえば銀の弾丸達は跡形もなく消滅し、残されたのはゲップをしたベルゼだけ。


「何度も言っておろうが儂は『暴食』何かを食らっていなければ我慢できない性分でな。魔法、エネルギー、食えるものなら儂はなんでも食べるのじゃ」


 悪魔のような形相で手に構えた弓を引く。

 イグニスは咄嗟に瞬間移動で回避するも既に次弾が目の前に迫ってきていた。


「うおおおおっ!」


 何とかその矢を殴りつけるように回避するも一瞬、止まったイグニスに砲弾のような速度で次々に矢が撃ち込まれていく。


「イグニス………きゃあ!」


「マイア!君は下がってろ!」


 命からがら地面を転がるようによけ、想像によって神話級の怪物をけしかけるものの暴食の権能の前には役に立たず、鎧越しに矢を受けてしまう。


「儂の矢は『増殖』『減少』矢が増えたかと思えば減り、減ったかと思えば増える。気を引き締めないと矢に喰われるぞ」


 その通りに矢が当たった鎧の部分が溶けて、消えており、すぐに矢を外すも再び新たな矢が鎧を貫通する。


「儂の前で優雅に矢を抜いていられると思うなよ?儂はそこまで優しくないのじゃ」


「クソ!なら数だ!出会え!使者達!」


 何本か矢が刺さりながらも必死に逃げ惑うイグニスは亡くなった囚人達を元に傀儡兵として再利用する。

 虎視眈々とベルゼの隙を狙うがベルゼは傀儡兵を無視して天上へむけて矢を放つ。


 直後、独特の風切り音を響かせながら、破壊の権化が咆哮をあげる。かつて、数万からなる魔物の大群を血の海に沈め、アルフレッドすら一方的に半殺した怪物の矢。そんなものを解き放たれて、たかだか傀儡兵如きが一瞬でも耐えられるわけがなかった。


 1人一発などという生温いと言わんばかりに全ての障碍を撃ち砕き、広場の壁を紙屑のように吹き飛ばしながら、ベルゼを中心に薙ぎ払われる。

 傀儡兵達は、その貴賎に区別なく体を砕け散らせて原型を留めない唯の肉塊へと成り下がった。


 やがて矢の嵐が過ぎ去り、必死に頭を下げて嵐が過ぎ去るのをひたすら待っていたイグニスの眼前に、靴の爪先が突きつけられた。


 イグニスがのろのろ顔を上げる。靴から順に視線を上げていき、見上げた先には、何の価値も無い路傍の石を見るような無機質な瞳が一つ。


 ベルゼの手に弓は既にない。

 ただイグニス眼前に立ち、見下ろしている。


 イグニスが何も言えず、ただ呆然と見つめ返していると、おもむろにベルゼが口を開いた。


「で?無限の力はここまでか?」


「まだだ!まだやれる!」


 鎧ごと体を強化してぶつかるが、少年の華奢な手によって止められ、逆に拳で地面に這い蹲らされた。


「勝つんだ………勝って、僕の正義を証明するんだ!!」


「お主が正義とか知った事ではないがくだらない事しか言えないならここで死ぬがよい」


「死なない!想像!」


 満ちた殺気に闇雲に自分を守るための何かを想像するがもはやここまで追い詰められ、どうあがいても届かない実力差に彼の心は負けを認めてしまっているようだ。


「さてと動いたら腹が減ったからのう。あまり食いたくはないんじゃが………まあたまにはいいか」


「おい、何だ、何をする気だ………よせっ!やめろ!」


「ーーいただきます」


 ただ手を触れただけ、それだけでみるみるうちに肌から生気が吸い取られ、カラカラと干からびた肌になり、ミイラとなっていく。


「ご馳走さま」


 艶やかな肌を見せ、ミイラのイグニスを踏み砕き、残ったマイアを探しに行こうとすればこちらへ近づく見知った顔に意識を奪われた。


「り、リリム様ぁ!?な、なぜこのような所に!?」


「久しぶりね、ベルゼ。貴方が探しているのはこれかしら?」


 リリムが後ろ指を指した先には首が可動域とは真逆の方に固定されていたマイアの姿だった。

 それを抱えていたクレアはイグニスの砕けたミイラの側に置く。


「おや、皆さま、お揃いで」


「マックスさん!無事だったみたいね!」


「ええ、イノセンティアさん。無事だったのはいいんですが………ちょっと失敗しましてね」


 壁の穴を抜けてこちらに走り寄ってきたマックスだったがその後ろからも続々とJBと彫られた男たちが彼女たちを囲む。


「おい見ろよ、女だ!しかも上玉じゃねえか!」


「気をつけろ、奴ら相当手強いぞ!」


「皆で囲んで縛っちまおうぜ!団長もそれくらいは見逃してくれんだろ!」


「下衆だな、こいつら。先輩とは大違いだ」


 下衆じみた欲望を吐き出しながらこちらへと近づく黒兜たちに毒を吐くジゼル。

 他の皆も悪感情を吐き出すように武器を構えた。


「さあーーやっちま………ごはあっ!?」


 男の1人が声を上げた時、何処からか飛んできた光の弓がその男の顔面を吹き飛ばした。

 後ろを見ればそこには傷だらけの看守達。


 しかし、違うのは皆が手に持つ武器から尋常じゃないほどの魔力を感じる所だ。


「行くぞ!皆!進め!!」


 黒兜たちに向かって突き進む、看守達の群れに入り込み、ロゼ達も残党の鎮圧に専念する。

 鎮圧はすぐに終わるだろう。


 残るはマコト対副団長、エルデ対団長のみ。




 *




「ジャスティン!大変デス!先程まで押さえられていた看守達が見た事ない武器を持ってワタシ達の部隊を鎮圧していきマス!」


 突如、現れたのは淡白色の髪にデカすぎる胸を揺らす牛の獣人。

 なぜか若干カタコトだが今は突っ込んでいる空気ではない。


「義賊王!貴様、何をした!」


 ジャスティンの怒声にしてやったりとほくそ笑むルナールさんは手にした銀の鍵を見せびらかす。


「妾の宝物庫を開けるにはこのカギ型のアーティファクトが必要なのだが………実はこのアーティファクトにはもうひとつ力があってな、妾が宝物庫の鍵を開けると宣言した場合、妾の配下達は妾の宝物庫を自由に扱う権利を持つ。すなわち、妾の宝物庫から最高級の武器を今の看守達は使っておるのだ!」


 どうやら宣言すれば看守達は宝物庫の武器を自在に取り寄せ、操ることが可能らしくそのおかげで強化された看守達が押し返しているという感じか。


「どうしてだ、どうしてここまで上手くいかない!」


「そんなの決まっておろう。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「らしいぜ?俺も詳しくは知らないからまた後で問い詰めるけどな!」


 銃を構えて弾丸を撃つ。

 こいつを倒してさっさと事情を聞かなきゃな!

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