空想の終わり
次回で二章は終わりになります。
槍の着地点にドラゴーラさんが滑り込み、高笑いしながら受け止めている間に俺は移動でリリムさん、ロゼさん、クレアさんを回収後、門の前まで戻って来た。
そしてフィリアを預けた後、リリムさんの千里眼を発動し、ガルディさん達の所在を確認。
最初から使えよと思ったがリリムさんが魔族以外を救うために熱心に取り組む訳もないのでそこはもう諦めた。
腕を治癒してもらい、魔力が切れた2人をタツ婆に任せて俺とクレアさんは火山地帯へ移動した。
その途中でマイアが離脱した為にクレアさんは彼女を追いかけ、火山地帯へ降ろされた俺は魔眼を使ってアジトを見つけ、空間の歪みに飛び込んだ。
そして今、ディアン様を傷つけようとしたイグニスと対峙している。
「君は何で彼らの味方をする!君もこちら側の人間だろ!」
俺は黙ってディアン様の鎖を破壊する。
イグニスはそれを答えと受け取ったらしい。
「僕は間違ってない!僕は………僕は!」
「妄想、空想、想像の時間は御仕舞いだ。そろそろ現実を見る時間だぜ?」
「正義の味方なんだァァ!!」
「ディアン様、二階にガルディ様が、さらに奥にブラッド様がいます。2人を回収したら目印からどうか避難を。」
足元にばつ印を作成し、空間の歪みの位置を教えてディアン様たちを避難させる。
その間、俺がやらなきゃいけないのはこいつを倒す事。
「魔導騎士!!装着!」
イグニスはそう叫ぶと騎士の甲冑をよりデカくした巨大な鎧を身につける。
魔眼で見た限り、あれこそがイグニスの心武器であり、魔導騎士のオリジンなのだろう。
見た目だけ見ればゲームの世界や漫画に出てくる勇者だ。それがきっと彼の理想であり、願望だったのだろう。
「話し合いはなしか?」
「敵のキミと話す事などない!喰らえ!」
鎧をつけたイグニスがそう叫べば俺を囲うように現れる銃。
「死ねぇぇ!」
嵐のような弾幕を前にして俺は移動に切り替え、イグニスの後ろに回ると無視の力を乗せた回し蹴りを脇腹に叩き込む。
しかし、揺らぎもしない。
「無駄だ!僕の鎧は正義の鎧!悪意ある攻撃など聞かない!無敵の防壁さ!」
「ならこうする。」
俺は演算に切り替えて弾丸をあらゆる方向へ向けて撃つ。もちろん火属性付きだ。
「跳弾に悪意なんて感情はないからな。」
弾丸同士がぶつかり、壁を跳ね返り、床を反射して火属性の弾丸が鎧に当たるがあまりダメージはなさそうだ。
ならばと鎧の隙間から見えるイグニスの体に照準を定めて狙い撃つ。
「ははっ!無駄だよ!想像力は無限さ!キミは無限の力に勝てるのかい!」
だがなんて事なしに立ち上がるイグニス。
鎧の隙間を貫通したはずなのに血の一滴も流れていない。
「想像さえできれば死にもしないってことかよ。」
なんて厄介な能力だ。
だけどまあ、無敵って訳でもないか。
「だがキミの強さはよく分かった。だからここからは僕の分身が相手しよう。」
すると地面から毛むくじゃらの腕が生え、ぬるりと巨人が飛び出してくる。
「行け!タイタン!貴様の力を見せてやれ!」
想像上のタイタンと呼ばれた赤い巨人は大木のような腕を振り下ろす。
「移動」
だが俺はタイタンの攻撃を避け、タイタンの肩に移動すると頭へ狙いを定めてそのまま弾丸を大量に食らわせる。
「なら、これでどうだ!グリフォン!!」
またもや虚空から現れるイグニスの想像上のグリフォン。だが想像上の生物なら一切の躊躇いなく撃ち殺せる。
鋭利な爪による攻撃や強風を移動で避けながら火属性の弾丸を眼に撃ち込み、痛みに動きを止めたところで頭蓋へ火属性のかかと落としを喰らわせた。
「ふっ!だがこれは無理だろう!」
現れるのは俺を囲む無数の銃。
また一斉射撃か?と思った俺は移動で抜け出すが弾丸もそれに合わせて追って来た。
「キミに当たるまでそれは止まらない!さあ死ね!」
追尾式か、ならこうする。
俺は髪の毛やムダ毛を5、6本引っこ抜きそれを小さく分割し、辺りにばら撒く。
すると弾丸達はそれらに当たり、勢いを失って地面に落ちた。
「何でだ!?」
「髪の毛も俺の一部だからな。弾丸は当たったと認識したんだろう。」
「ならこうだ!」
イグニスは詠唱を始めた。
とりあえず俺は弾丸を打ち込むがやはり鎧に跳ね返された。
「END!!」
「久々に見たな………その魔法。」
ロゼさんとの初めての決闘の際に使われた魔法。
あの時は不発だったから詳しい効果は知らない。
だが魔眼で見抜けば何とかなる。
赤、青、緑、黄の閃光が工場内を縦横無尽に駆け回りながら更に広範囲に拡散し、降り注ぐ。
俺はゆらりゆらりと木の葉が風にそよぐように揺れながらかわし、かわしきれないものは打ち払い、あるいは逸らしていく。
更に避けながら自然な動作で銃をイグニスに向けると魔法の嵐の隙間を縫って反撃まで行う。
冗談のように隙間を抜けてきた弾丸は、イグニスの足元に刺さると作成により、盛り上がった地面がイグニスを足元からひっくり返す。
俺は魔法の嵐を抜けて肉薄すると無視の力を込めてサッカーボールのように蹴り飛ばした。
「駄目押しな。」
地に倒れ伏したイグニスの周囲に弾丸を撃ち込み、そこから地面を陥没させる。
柔らかくなった地面にイグニスは耐えきれず、そのまま落ちていった。
「まだ生きてるとは思うけど、時間は稼げたか。」
ちらっと階段の方を見ると王族の皆様がこちらを見つめていたので今のうちにとジェスチャーする。
彼らはそれに従って、ばつ印からガルディ様とブラッド様は出て行き、ディアン様だけが残った。
「ディアン様?早くしないと奴がまた上がって来ます。ここは俺に任せて逃げてください。」
「………君には国を助けられてばかりだな。生きて帰ってきたまえ。キミには礼を尽くさなければならぬ。」
俺は黙って頷くとディアン様は出て行った。
それと同時にイグニスが穴から飛び出してきた。
「もう終わりにしないか?今、人質は避難させたところだ。お前の計画は全て潰えたよ。」
「っ、ふざけるなっ!そんな余裕、直ぐになくしてやる!」
今度は白と黒、光の聖剣と闇の魔剣を握った瞬間、奴の姿がぶれた。
だが魔眼で流れ出す魔力を読みきり、背後に回ったことが分かると奴の攻撃に合わせて移動を使い、奴の後頭部に銃を突きつけた。
「もうそろそろ分かってきたんじゃないか?」
「何がだ!!」
二振りの剣が白と黒い色の魔力を引きながら十文字に俺を刻もうとする。
俺はそれを容易く避けると攻撃終了の間に弾丸を発射。
突き刺さった弾丸は傷を与えられなくてもイグニスごと鎧を吹き飛ばし、盛大に吹き飛ばす。
「………で?」
大げさに肩を竦めるとイグニスの表情が屈辱に歪む。
そろそろイグニスも分かっているのだろう。
ただ認めたくないだけで闇雲に来ているだけだ。
「手加減のつもりか?僕を馬鹿にしてるのか?」
「もちろん、クレアさんに比べたら弱すぎだよ。せっかくのチート能力あんなら有意義に使えって。」
「余計なお世話だ!」
風を巻くような双剣の連撃を移動で逃げながら跳弾でチマチマと奴の体力を減らしていく。
いくら想像力が無限だからって弱点がないわけじゃない。先に魔力が尽きる可能性だってあるし、マイアが倒される可能性もある。
風を切る凄まじい音と共に光そのもので構成されているかのような聖剣の凄絶な一撃が襲う。
しかし、そんな致死の一撃を前に、俺は一歩も動かずスっと腕をかかげただけだった。
その手には銃が握られており、金属同士がぶつかるような音と火花を撒き散らして、イグニスの渾身の一撃はあっさり受け止められてしまった。それも銃口によって。
「なあイグニス、今こう考えてないか?『俺を殺す』から『どうやって俺に勝つか』って。」
「!?」
図星だったのか、表情が変わった隙に奴の腕を取り、クレアさんに教わった通りに脇を固めてイグニスを地面に叩きつけた。
「そこまでならまだいい、だけど『こいつには勝てない』とか思い込んでないよな?」
「そんなわけあるか!!僕は勝って正しさを証明する!!その為に、その為に!!」
想像力を働かせて力ずくで拘束を抜け出そうとしているがどうにも力不足を感じる。
「何でだ!どうして!!」
「だってお前が『勝てない』って考えちまったからだろ。想像力を力にするなら自分が負けた場面を想像すれば力なんて落ちるに決まってる。負けるって諦めてるんだからな。」
実際、倒すだけなら簡単だった。
鎧に触れて、鎧を移動させて隙だらけの体に鉛玉をぶち込めばいいのだから。
だけどそれじゃあこいつは負けを認めない。
正しさを重視するこいつを負かすには正面から堂々と叩き潰すだけだ。
「違う!僕は………僕は、負けたりなんかしない!だって警察の人間の父が言ってたんだ!正義は必ず勝つって!人々を苦しめる悪は負けるって!」
「何だ分かってるじゃないか。じゃあこの場合はどちらに正義があるんだ?大衆の目で考えてみろ。」
「そんなの慕われていた僕たちが国を乗っ取る………違う!僕たちは正義なんだ!」
「空っぽの想いだな、そこにお前の価値観がない、正義っていう建前を理由に力を振りかざしてるだけじゃないか。」
「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!」
埒が開かない。
半狂乱となってただ闇雲に暴れ始めたイグニスの鎧を移動の力で引き剥がし、突き飛ばす。
「僕が勇者なんだ。みんなお前の手から救い出して、全部、全部取り戻す!お前はもう要らないんだよっ!!」
「もう駄目か………出来たら助けてやりたかった。」
イグニスは正義の味方に憧れただけだ。
純粋で真っ直ぐな精神は力を知ったことで歪んだのだろう。
周りが持て囃し、イグニスもそれを受け入れたからこうなってしまった。
「互いに銃を持っているなら………西部劇風に決着でもつけるか?ちなみにハンデもつけてやるよ。お先にどうぞ。」
傲慢だが救えない以上、こいつを止めるしかない。
もちろん、相手が心の底から負けを認めてだ。
イグニスは残されていた銃をこちらに向ける。
「狙いはここだ、俺を殺すならよーく狙え。」
「直ぐにその減らず口を聞けなくしてやる!!」
銃口が俺の額を射線に乗せる。
そして壊れた音を奏でて射出された弾丸は俺の耳元をかすって後ろに消えていった。
「何でだ!卑怯者!何をした!」
「別に何も?ただお前の心が『こいつには勝てない』と思っただけじゃないのか?」
どれだけイグニスの攻撃を防いで来たと思ってんだ。
差し出された全ての攻撃を防いだ事でイグニスに疑念が生まれたから、この弾丸は外れた。
どんな攻撃をしても勝てない。
なんて考えたり、頭をよぎったりしたら想像によって生まれた拳銃は当たるわけがない。
実を言うと滅茶滅茶怖かったのは事実だが。
だがこれで終わりだ。
イグニスはもう勝てないと心の何処かで思ってしまっている。
「ゲームオーバーだ。お前の妄想はここで終わり。」
「嫌だ嫌だ嫌だァァァァァァァ!!」
奴が次弾を放つより早く拳銃を左手の銃で弾き飛ばし、残された右手の銃で奴の頭を狙う。
「作成」
空気を纏って球形の即席のゴム弾のようになったそれはイグニスの額にぶち当たり、彼は意識を失った。
俺は彼の足を引きずりながら元の場所に帰っていく。
クレアさんは大丈夫だろうか。
*
古代魔法とはルナールが生まれた時代にあった珍しい魔法である。
世界との空間を繋ぐ扉を作ったり、歌を歌うことで周りの士気を上げたりすることが出来る。
遥かに長い寿命を持つ龍人達はその魔法の知識を本に書き記し、後世へと伝えて来た。
その本が溜められている書庫、魔導図書館の司書こそマイアである。
司書である彼女は魔導図書館にある古代魔法の知識を自在に引き出す事ができるのだ。
そして適正に関係なく、魔法を使うことが出来る。
また無詠唱に近い、高速詠唱を持ち、多数の魔法陣を展開できる彼女はロゼと同じレベルの魔法使いであろう。
そんな相手を倒せるものなど英雄か怪物かしかいない。
そしてマイアの目の前に立つ女は黄金の雷撃龍の名を持つ英雄に近い存在。
「星降る夜に願うこと!!」
だからこそマイアは自分が最も信頼する古代魔法を持って叩き潰す。
天候を操る古代魔法がお気に入りの彼女はその中でも最も威力ある魔法を選んだのだ。
まだ夕方だったはずの茜色の空は美しい夜空に変わり、瞬く間に夜空を星が彩るとそこから放たれた光弾がクレアを押しつぶそうとする。
しかし、クレアは降り注ぐ光の雨を最低限の身のこなしだけで避けていくと珍しく詠唱を始めた。
クレアは二重魔法使い。
炎と雷という2つしか使えない彼女はそれすら捨て駒にする。
だって魔法を使うより物理で殴った方が早いじゃない!とは本人の談。
「『天地轟く雷鳴音』」
小さな火花がマイアの頭上に散ったかと思うとそこへ追随するように黄金の雷撃がマイアの体を貫く。
だがマイアも龍人、雷には耐性がある。
「だからこれは捨て駒、本当はこちらよ。」
しかし、雷撃の閃光に目をやられ、一瞬見失った先にクレアは既にマイアの内側、自分自身にとって最高の領域に足を踏み入れていた。
「風よ!」
「遅い!」
マイアは無詠唱を使えない。
どれだけ高速だとしても詠唱をするとならばワンテンポ遅れてしまう。
そのタイミングをクレアは見逃す訳がなく、雷霆の如く畳み掛ける。
龍闘流法の教わった技全てを叩き込んでいく。
今の彼女に迷いはない。
迷いなき拳は確実にマイアを壊していく。
*
全弾、急所狙いの確実に殺しにいく技の応酬の中で私はただイグニスの事だけを考えていた。
(イグニス………私はただ貴方の役に立ちたかった。貴方がしていることが例え正しくなくても私は………)
イグニスのやっていることが間違いだと言うことは私にも分かってはいた。
でも止める気は無かった。
その行動のおかげで私は救われたのだ。
ならば救われた私がそれを否定するような事があってはならない。
だから私はイグニスの為に闘わなくてはいけないのだ。
イグニスを逃がす為に!!
だけど勝てない。
彼女を甘く見すぎていた。
魔導騎士を身につけたとしても本気の彼女を殺せるだろうか。
(無理に決まってるじゃない………)
もはや体に感覚がない。
だがその時、心に伝わる何かがあった。
(イグニスとの契約が切れた?)
契約が切れたということはイグニスが気を失ったか、殺されたか。
どちらにしてもイグニスは逃げられなかったのだ。
(冗談でしょ………誰がそんなことを………)
消えゆく意識の中、暗闇に飲まれそうになる私の本能はそれをとらえた。
イグニスを倒したのは目の前の敵のパートナーだと。
自分が命より大事なパートナーを奪ったのは彼女達だと。
(イグニスを私から奪ったのは………全部貴方達かぁァァァァァ!!)
*
ラストの一撃を入れようとしたところで急に息を吹き返したマイアの拳がカウンター気味にクレアの顔面を捉えた。
「はっ?」
まさかの反撃に落ちた腰をこらえるクレアへ古代魔法の暴風がごとき風が身を切り裂いていく。
それだけでは済まず、ガトリングガン並みの連写速度で岩玉が撃たれ、彼女に多大なダメージを与えていく。
「守る、私はーーイグニスを守る。」
いつの間にか装着していた赤い魔導騎士から強い意志を感じる言葉が聞こえて来る。
だが歩き方に意思を感じられない。
どうやら意識を半分失っているようだ。
マイアの魔導騎士には魔力タンクと同時進行で詠唱を進めることが出来る機能が備えられた魔法型の筈だが………
「私の得意な近距離戦で挑もうとするのは馬鹿だと思うわ。」
あろうことかわざわざクレアに近づき、拳を構えた。
これには血だらけのクレアも一瞬イラっと来た。
先程まで押されていたクレアに対してよほど勝つ自信があるのか、はたまた無謀な馬鹿か。
ともかくクレアは相手の思惑に乗ることにした。
もちろんクレアは油断などしない。
そう油断など慢心すらなかったのだ。
「はやいっ!」
なのにその拳はクレアの体を痛めつける。
無論、クレアも負けておらず、疾風怒濤の勢いで雷撃を纏った応酬を重ねていく。
だが打ち負ける。競り負ける。
こちらが出した攻撃に対し、的確に反撃して来る。
後出しジャンケンのような応戦にクレアの体から鮮血が舞う。
(失った意識を雷に変えて魔導騎士を動かしているのか!)
人間の反射速度は決まっている。
だが今のマイアはその反射速度を越える為、自分の意識を雷に変えることでより早く動いているのだ。
いくら常人の限界まで極めた反射速度を持つクレアでもそれを超えられては手が出せない。
先に手を出しても相手はそれを見てから手を変えられるので当たることも防ぐ事も出来ないのだ。
更にマイアは図書館に記されていた武術の知識を引き出し、それを用いている為、武術の心得を持つクレアに勝っていた。
マイアの魔導騎士の巨大な拳がクレアの肉体を浮かび上がらせたところで同時に唱えていた古代魔法が完成した。
「大地の雄叫び」
地面がひび割れ、盛り上がる力の本流がクレアの肉体を無残に痛めつけ、ボロ雑巾のように地面に転がす。
仰向けに倒れたクレアはピクリともしない。
「えっ!?………何でクレアが倒れてるの!?しかも魔導騎士をいつ身につけたのよ!」
ここでマイアの意識が戻り、いつのまにかついていた決着に驚愕を隠せない。
だが直ぐに切り替えてマイアはクレアの心臓が動いていない事を確かめるとイグニスが居るはずの火山地帯へ足を向けた。
「確か、マコトとか言ったわね。待っていなさい、イグニスの分にターユの分、全部貴方に痛みを与えてあげるわ。」
*
血の川と肉の山と骨の森と脂肪の大地と内臓に彩られた絶望の世界から誰かを守れる英雄になりたかった。
誰もが笑って望む幸せな世界、最高の終わりのために当たり前みたいに命を懸ける龍人に私はなりたかった。
私の理想
私の憧憬
私の希望
私の幻想
これを取り戻してくれたのはただ1人の青年との恋だった。
約束したのよ。私が彼を守るって。
助けられないのは私の無力
救えないのは私の非力
守れないのは私の微力
そんな言葉で終わらせない。
黄金の雷撃龍?
英雄の子?
そんなモノーーもういらない。
私はクレア、ただのクレア。
私がやるのは女だったら当たり前のこと。
この恋を守る事。
*
マイアがクレアに背を向けた瞬間、クレアの体が上下に跳ねた。
絶え間なく黄金の雷撃が彼女の体から流れていく。
マイアも向き直り、何が起きているか理解できないままだが不味い事だけは分かっていた為に古代魔法の詠唱を始める。
「大地の雄叫び!!」
先程と同じような大地の力の叫びがクレアを飲み込もうと迫る。
鼓膜が破れる程の音を立てて、地面全てをひっくり返した惨状が生まれ、砂のカーテンがマイアの視界を奪う。
そしてそんな中に光が1つ。
ただ守る執念だけで彼女は息を吹き返した。
その姿を見てマイアはざわざわと騒ぐ胸を掻き毟りたくなる不安さに駆られた。
だが自分を振るい立たせるように啖呵をきる。
「もうぼろぼろ、風でも吹いたら倒れそうじゃない!そんなんで私に勝てるわけ無いでしょ!」
その瞬間にクレアの目が見開き、周囲に落雷が降り注ぐ。
空を見上げてみれば夜を思わせるほどの雷雲が立ち込めていた。
「貴方が死なない事を信じてる。」
「はっ?」
味方に、死地に向かう恋人へならともかく敵に対して言うセリフでは無いその言葉を理解するまもなく、閃光のように光を残したクレアの拳がマイアの魔導騎士にめり込んでいた。
「だから全てを捨てて殺す気でいく。」
「ちょっ待っ!?」
マイアは急いで魔導騎士を操作するがそれよりはやく、クレアの拳が足が彼女の挙動を先回りし、全てを無に帰していく。
「貴方がやった事が私に出来ないとでも?」
「意味がわからないわ!」
意趣返しのように反射速度を限界まで引き上げたクレアの雷撃がマイアの魔導騎士を破壊し、生身の肉体を露出させていく。
(私もアレをやったの?だとしても次元が違いすぎる!本能と理性が融合しているとでもいうの!?)
荒々しい攻撃なのに狙うのは全てが人体なら急所に当たる部分。
暴力的なのに理知的に攻め入るクレアの全てを裁くことなど出来ない。できる訳がない。
これこそがマイアが踏み入れた扉の先、闘うものとしての理想像。
これこそが黄金の雷撃龍の本気なのだ。
力尽くかつ繊細なその龍闘流法を前にして遂にマイアの肉体が表に出た。
(この人の師匠は馬鹿としか言えないわよ!的確に拳を用いて殺す為だけの手順を体に叩き込むなんて!!)
マイアはクレアの拳が自身の心臓をかすり、慌てて空から太陽熱を収束した熱線を放ち、距離を取った。
クレアも追いかけようとするが足が地面に埋まっている。
どうやら壊れかけの魔導騎士でクレアを足止めする魔法を使ったようだ。
マイアは勝ちを確信して魔法の詠唱を始める。
「龍闘流法」
だがクレアが右拳を見せつけるように掲げると手から迸った雷の魔力が煌めきを増す。
「何………これ!?」
そして高まる魔力に呼応するように輝き出すマイアの心臓部分。
それは先程クレアの拳が掠った場所だった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!地すら食らう巨大な蛇!!」
輝く部分から心臓を掴まれたような感覚に不味いと悟ったマイアの古代魔法が炸裂。
地の底を這うかのような黒い土の蛇が、山をも飲み込む程に口を開けた。
「雷切閃光」
しかし、それより早く全てを両断する雷の剣が図書館の司書の心臓へ向けて飛来する。
一瞬の交差、そして崩れていく土の蛇がこの戦いの決着を如実に表していた。
「雷切閃光は龍闘流法の中でも少ない遠距離対応の技。相手に雷の魔力を付与し、そこを狙い撃つように雷の剣が相手を貫く。」
地面に倒れた彼女の頭を小突き、意識が無いことを確認するとクレアはマイアを肩に担いだ。
「一応加減はしたし、雷に耐性があるなら死にはしないでしょ。」
そして彼女は煙草を取り出し、体の淀みを紫煙に乗せて吐き出すのだった。
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