貴方だけの騎士
これにて二章は終了します。
ここまで長かった………次回は本当に短くしたい。
あれから2日経った。
まあその間に色々あった訳だが順を追って説明していこうと思う。
まず今回の被害状況、王族の皆さんはかすり傷や殴打の後はあったもののそこまで酷い怪我ではなかった。
次にグラマソーサリーの里の皆さんは無事に里に帰り、戦いの余波で傷ついた箇所の修復に勤しんでいる。
無論、俺も協力していたのだがどうにも俺はクレアさんと並んで里の皆から英雄視されているらしい。
食事を取っていたら子供達に囲まれていたこともあるくらいだ。
そうそう、昨日、俺たちSクラスとエルデは呼び出され、頬を僅かに腫らしたディアン様が賞賛の言葉を掛けてくれた。
エルデには特に何もなかったようだが本人からすれば貸しを作れたのが一番の報酬らしい。
Sクラスの皆には金貨と宝石が渡され、更に首謀者を捉えた俺達にはイグニス達が火山地帯に魔導騎士を隠していた影響で新たな宝石の採掘場が見つかった為にその権利を譲渡された。
『これは〜価値に換算したら孫まで遊んで暮らせるな!』
ルナールさんの計算に変な悲鳴が上がったのはまだ記憶に新しい。
とりあえずイグニス達の基地から離れていないのでイグニス達の基地の調査が終わり次第、そこを拠点として流通を始めようと思う。
どうやら以前、ロゼさんを助けた際、リミテッド様から街に店を出す権利や国境許可書を与えられており、リリムさんに言われるまで完璧に忘れていた。
『妾がその流通の責任者となってやろう!』
信頼できるか怪しいが信用を勝ち取りたいとルナールさんの意見に俺は渋々納得した。
たしかに彼女なら分身する事も可能な上に宝石の価値などをひと目で見抜ける為に責任者には持ってこいである。
資金はたんまりある為、おいおい準備を進めていこう。
次にイグニス達だが砂漠の大監獄にて処刑が決定した。
アルフレッドとは違い、国家転覆を目論んだ為にここまで酷い罰になったらしい。
フィリアも結局、アルフレッドの所に送られる事になった。
ドラゴーラの奥さんは泣いていたがドラゴーラはどうでも良さげで最後までフィリアに言葉をかける事はなかった。
そして不思議な事にあの破壊された魔導騎士からはメロの死体が見つからなかったようだ。
光線を真正面から浴びたために消し飛んだのか、又は生きているのか、現時点では判断は出来ない。
だがこういう異世界だとなんやかんやで生きてる気がするんだよなぁ。
さて次は俺たちの話といこう。
今回の戦いでは特に油断しなかった為に体に傷はあまりない。せいぜい全身疲労くらいだ。
だがクレアさんだけは全身傷だらけで帰ってきたので俺たちは滞在時間を伸ばして彼女の回復に当てた。
ロゼさんやリリムさん、ルナールさん達は滞在が伸びたことを知るとすぐに自分たちのしたい事をしに何処かへ行ってしまった。
そして今、俺は病室から抜け出したクレアさんを探しながら皆に指輪を渡す為に歩いている所だ。
「ここが魔導図書館か。」
木造の和風な建造物の中で一際目立つその図書館は石造でできた塔だった。
本が増えるたびに高くなるその塔は上に行けば行くほど古く、神秘が残る魔法に歴史が記されているようだ。
現時点で10階建のその7階には古代魔法が記された本を大事に扱うロゼさんと読み終わった本を乱雑に積み上げていくリリムさんの姿があった。
「調べ物は進んでますか、2人とも。」
「ぼちぼち。」
「好調かな。新しい魔法の知識が増えるのはいいことだし………それに強くなればま、マコト君も頼りにしてくれると思うから。」
「俺的にはロゼさんには前に出て欲しくないんですけどね。俺が貴方を守りますから。」
「甘い空気を作り出すなら出て行って貰える?」
緑茶を飲みながら器用にページをめくるリリムさんの言葉に俺たち2人は照れてしまう。
「少し雰囲気を締め直すわ。マコト、千里眼が戻ったおかげで魔眼所持者の位置が特定できた。」
「マジですか!?それで?」
「1人は森深くにある寂れた教会風の喫茶店ね、小さな子たちに囲まれた精霊族の女性よ。」
「なら空飛ぶ国ヘクセレイの下に広がる迷いの森ね。来月の期末試験会場が確か、ヘクセレイだった筈だからその時に行けばいいんじゃない?」
リリムさんの情報にロゼさんが捕捉する。
つか、期末試験か………全然勉強してないや。
「次は砂漠が見えたから多分コンジュレイ。紳士的な姿の男性だった。」
「コンジュレイに行くには時間がかかり過ぎませんか?あの砂嵐が発生する砂漠を超えるのは一苦労ですよ。」
「ルナールさんも言ってた!砂漠越えするには季節が悪いって!祭りの時期なら砂嵐がおさまるからそこを狙って言った方がいいって!」
砂漠越えするには時期が悪いとの事。
リリムさんの焦りたくなる気持ちも分かるがそれで死にかけるのもいいものではない。
「最後は………分からない。場所は移動しているけど何処かしら?見覚えが全くないのよ。」
「全くない?流れからしたらリリムさんの国とかじゃないんですか?」
「姫たる私が国の事を忘れてるとでも?」
「失言でした。ごめんなさい。」
わりかし冷えた目で蔑むように見られるのは俺の心に傷をつけるのでやめていただきたい。
だが次の目標は決まったな。
「とりあえず次の目標はヘクセレイの魔眼所持者。無理だと言っても付き合ってもらうから。」
「任せてください。俺がいて無理だとは言わせませんよ。」
「言ったわね?無茶な真似させても文句は言わない事よ。」
「2人だって良い雰囲気作ってるじゃない!!」
2人して意味ありげに笑うと疎外感を感じたのか、ロゼさんが声を張り上げた。
「「どこが?」」
「そこよ!そこ!何でそんな2人は通じ合ってる感じなのよ!しかもマコト君が頼りにするのだっていっつもクレアさんかリリムじゃない!私も頼りにしてよ!」
「ロゼ………貴方も相性が良ければこれくらい出来る」
ふっとリリムさんにしては珍しく勝ち誇ったような言葉に相性ランク第3位のロゼさんは涙目で肩を震わしている。
「マコト、泣かせちゃダメじゃない。何とかしなさい。」
「今の流れでこちらへ振る!?どう見たってリリムさんのせいじゃないですか!」
「いいから、貴方の懐にあるものを渡せば気がすむでしょ。私は少し、外の空気吸ってるから。」
「気づいてたんですか?」
「当たり前でしょ?仮にも貴方のパートナーだもの。」
彼女は階段を降りて行く。
そしてその姿が見えなくなった事を確認してからロゼさんに用意した白の宝石の指輪を取り出す。
「こ、これって………つまりそういうことよね?」
泣きそうな笑顔から一転、笑いながら泣き始めた。
止まることのないその涙を止めようとしているが溢れ出る感情を制御できないらしい。
「そうです。ロゼさんとの………婚約の証です。」
真っ直ぐ彼女に頷き返すと泣き笑いしながら彼女は嗚咽を右手で抑えながら左手を差し出した。
地球の影響を強く受けているこの世界では婚約指輪をつける場所も同じなので俺は彼女の白く柔らかな手を取り、薬指に指輪をはめた。
流石に照れ臭くて顔をそらすとロゼさんに両頬を挟まれて真っ直ぐに見つめられる。
「涙でぐちゃぐちゃですよ、ロゼさん。」
「マコト君だって、顔が真っ赤よ?」
彼女は俺の胸に泣き笑い声と嗚咽を抑えるように顔を押し付けた。
俺はそんな彼女の髪を優しく撫で続けた。
*
「遅かったわね。」
「空気読んでくれてありがとうございました。」
「別に、友達の幸せを邪魔するほど無粋じゃない。」
図書館近くの茶屋で抹茶を飲みながらみたらし団子をいただくリリムさんの隣に俺も座り、あんこの団子を一個頼む。
「ロゼはどうした?」
「ひとしきり泣いた後、また魔法の知識を蓄える為に本を読み始めました。」
「それで貴方は何でここに?」
頬についたみたらしをぬぐってやるとお礼にみたらし団子の最後の一個を貰ったので口に入れる。
モチモチしていながらも甘辛いタレが後を引く。
「リリムさんに指輪を渡す為に。」
「リリムに指輪を渡す為にね………はあっ!?」
おっと、今なんかリリムさんじゃないような焦った声が飛んできたぞ。
「えっ?いやいやそんな、はい?ちょっと待ちなさい。えーっと?ちょっと待ちなさい。」
「語彙が貧相になってますよ。」
完全にてんぱってる様子のリリムさんなど珍しく、徐々に赤みを帯びていく顔を見ていると睨まれた。
「私をからかわないで貰える?冗談にも限度が………」
「リリムさん、これを。」
信じようとしないので彼女の手を取り、無理やり嵌める。サイズは自動で調節してくれるらしい。魔法万歳。
「日頃の感謝の気持ちだと思って受け取って貰えますか?」
「………」
彼女はただ黙ったまま手を払うと俯きながらぼそぼそとなにかを言い始めた。
「貴方はイグニスが死刑になると聞いて助けたいと思わない?貴方と同じ世界の出身の人間を。」
それは難しい質問だった。
同郷の人が死刑になったのは生かして捉えた俺のせいという一面も人によってはあるかもしれないからだ。
だけど答えはすぐに出る。
「イグニスは同じ世界の出身だとしても許されない事をしたなら罰は受けないといけない筈です。そこにイグニスを助けたいと思う気持ちは優しさじゃない。ただの甘やかしにしかならない。」
国家転覆なんて日本でやったら終身刑間違いなしだ。
イグニスはあちらの世界でも許されないことをこちらの世界でも行なった。
そこに同郷のよしみは入る余地などない。
思うのは彼が死ぬまでに自分を見直してくれることだけだ。
「………私も同じ意見。もし同族が大罪を犯そうとしたならまずは止める。だけど止められなかった以上は上に立つものとして私が処断しなければならない。」
そこまで聞いてリリムさんが話していたのは同族だったステロペだと気づいた。
彼女の死体はリリムさんが国へ送ったという。
「でも………私は助けてあげたかった。私は同族の彼女を死なせたくはなかった!生きて罪を償わせたかった!」
止められず、自身の手で彼女を終わらせる事もできず、冷たくなって半身がなくなったステロペを見ていたとルナールさんから聞いた。
彼女の中では体を掻きむしりたくなるような葛藤があるのかもしれない。
それには彼女の過去もある以上、軽く口を出すわけにもいかない。
「好きなだけ吐き出してください。今、貴方の本音を聞くのは俺しかいませんから。」
だから俺にできるのは彼女の吐露をただ隣で聞いてあげるだけ。
肩に乗ったその重い荷物をいつか共に背負ってあげられるその時まで。
暫くすると叫び続けてようやくすっきりしたのか、彼女は眼鏡を外し、悪魔の姿、いや本来の彼女の姿に戻った。
「変な所を見せたわね。」
「ご心配なく、誰にも口外はしません。」
「当たり前、こんな痴態を貴方以外に見せられる訳ない。」
「信頼してくれてるんですね。」
「貴方が私の信用を勝ち取ったのよ。」
結局、彼女は涙を流すことはなかった。
だがそれでも澄み渡るような笑顔を見せて俺が嵌めた指輪を太陽に掲げる。
「貴方の感謝の気持ち、受け取る。その代わり、私のことを裏切らないで。」
「そちらこそ最後の最後で見捨てないで下さいよ?」
「言ってなさい、地獄の底まで引きずってあげる。」
彼女はこうして信頼がおける人にだけなら青空のような爽やかな笑顔を見せてくれる。
その信頼を俺は勝ち取れたらしい。
「最初はロゼ、次に私、なら最後は彼女?」
「さっすがリリムさん。全てお見通しって訳ですか。」
「ええ、あの女狐よね。」
一瞬、俺は抹茶を地面に向けて吹き出した。
ついでにあんこも少し落ちた。
「冗談」
「真顔で冗談言われるとマジかと思いますから!次から気をつけて下さいよ!」
「善処する。」
たしかに一応ルナールさん用に指輪は作ってあるが信頼もなければ信用も出来ない彼女に渡すのもなんか違うので今回は保留だ。
だから最後はもちろん彼女になる。
*
「はあい、ママ来たわよぉ。」
黒地に赤椿の和服をしっかり着て、露出している部分など皆無なのにどこか上品な色気を漂わせるその女性は桶と酌を持ち、墓石の前に立つ。
ここは龍人達の墓場であり、クレアはわざわざ部屋を抜け出して母シオンに会いに来たのだ。
彼女は自分で切り揃えた生花をさし、水を変えて綺麗にする。
暫く振りだがまだまだ大丈夫そうだ。
「ママ、私さ約束破っちゃった。」
彼女は手を合わせて、瞑目する。
「だけどいいよね?十分頑張ったつもりだし、そろそろ私の人生も歩みたいし、ママの気持ちもわかったつもりだしね。」
すると隣に立つ気配を感じた。
だがその優しい存在を彼女はよく知っていた。
「紹介するわね、ママ。彼が私のパートナー、マコトよ。」
「ご紹介に預かりました。鴉間真です。」
「私と同じ英雄の隠し子なの。なのに私を愛人として迎え入れちゃう悪い子なの。」
「やめて!ごめんなさい!」
からかうように笑うクレアさんにひとしきり俺は騒ぐが自分が悪いし、騒いでも無駄な事はよくわかっていた。
「でも、大好きなのよ。彼のことが。ママもきっとそうだったんでしょう?」
彼女の言葉に頷くように生けた花が風に揺れる。
彼女はそのまま風に絡んだ髪を耳にかけた。
その何気ない仕草に心臓が高鳴る。
「結局、血は争えないね。ママ。」
クレアさんは桶を持ち、置き場所へと足を向けるが俺が未だに墓石の前にいることに疑問を覚え、立ち止まる。
「どうかしたのかしら?まーくん?」
「俺からの誓いを聞いてもらおうと思いまして。」
こちらまで近づいて来たクレアさんの腰に手を回して引き寄せる。
柔らかな感触と少し焦ったような彼女の雰囲気を感じながら墓石に誓う。
「シオンさん、俺は何があっても彼女の隣にいます。陳腐で使い古した言葉かもしれない。だけど真っ直ぐな言葉だからこそ伝わるものがあると思うので。」
平穏と闘争の日々に身を置いて、自分の力の無さを実感して鍛えて怪我なく戦えるようになっても今だって、俺は無い無い尽くしの人間だ。
だけどそんな俺を好きでいてくれる人がいて
こんな俺を支えようとしてくれる人がいて
俺だけがその気持ちを利用する訳にはいかない。
俺は彼女達の気持ちに答える義務がある。
「クレアさんに守られてばかりの俺ですがいつか彼女の心を守れるほどの男に俺はなります。」
もう後にはひけない。
だからここからまた頑張る時だ。
少しでも遠くにいる彼女達に追いつけるように。
「まーくん。婚約者がいるのに、そうやってお姉さんをその気にさせるのは感心しないぞ?」
むぎゅっと俺の左腕に柔らかな2つの感触、俺は呆れたように笑いながら彼女へ向き直る。
クレアさんは絶対の親愛を込めた表情でこちらを見つめると趣に彼女は片膝をつき、頭を垂れて俺の手を取った。
「クレアさん?何を?」
「まーくんが誓いを立てるなら私も誓いを立てようと思って。他ならぬクレアとしてね。」
呼吸することを忘れるような感覚の中、俺は心地よい緊迫感に身を維持し、零れ落ちそうな感情を自制心で押さえつけた。
静寂が落ちる中で俺たちの手の熱だけが酷く熱かった。
そしてその静寂をそれを生み出した彼女が破る。
「この心を貴方に預け、私は貴方の剣になることをここに誓おう。この時より、私は貴方を守る騎士となる。」
それは彼女がかつて国へと捧げた騎士の誓い。
今は騎士をやめた彼女が今度はただ1人の為にそれを誓うのだ。
「空に、大地に、海にーーそして今は亡き母と英雄たる父に私の感謝と誇りを述べよう。そしてここに誓わせて頂く。」
彼女から手を通じて堅固な覚悟と膨大な感情が流れ込むのが分かる。
そこまで言って彼女は顔を上げた。
艶やかな夜の髪が妖しく光る。
「私の名はクレア。我が雷撃を持って貴方の障害を取り除こう。」
桜色の唇が誘うように言葉を紡ぐ。
黄色の透き通る瞳が凛々しく見つめる。
「カラスマ・マコトーー貴方だけの騎士よ。」
「ーーはい。」
今にも溢れそうな感情の高ぶりをどうにか堪えて告げた言葉に短く返した。
そして彼女は立ち上がって、
「今更だけど恥ずかしいわね。」
ちょっと赤い顔でそう笑った。
俺はその顔がたまらなく愛おしくて、懐から彼女の為に作った黒の宝石をあしらった指輪を取り出す。
彼女はそれを見て少し驚くとうっすら唇を緩めて左手を差し出した。
彼女の少し傷が残るその手を優しくとり、薬指に嵌める。
「こんな生き方をしてから、女としての幸せを味わえるとは思わなかったわ。」
その指輪に小さく口付けをすると彼女の瞳に涙が溜まっているのが分かった。
大粒の雫は瞬きとともに彼女に透明の軌跡を描く。
「貴方を守る」
「貴女を守る」
どちらともなく唇を寄せた。
言葉がなくとも想いを交わすように俺たちは身を寄せあう。
これから先、互いに守りあって生きていく2人。
今はただ、似た者同士の2人は静かに穏やかに時を過ごしていく。
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