作戦
キラキラと輝く白い羽根に目を奪われない者はいないだろう。例えそれがどんなに凶悪な顔でどんなに恐ろしい武器を持っていたとしても、だ。
俺の少し斜め前で肩を上下させているジェラルドに目をやる。
「おい、どうすんだよこの状況」
「ま……勝ち目は無いね」
トランプゲームで詰みを確定した時のような軽さで言う。
シモンのせいで上手くまとまらない頭を捻らせるが、考えようとすればするほど罵倒と自責の念で溢れかえっていく。
落ち着けよ。俺が悪いのは解っていた事じゃないか。冷静になれ。
「一つ、俺の作戦にかけてみないか?」
「失敗しても死ぬのは君だけだし、別にいいよ」
なんだそれ。
嫌な発言を聞かなかった事にし、俺は思いついた一つの作戦を告げた。
最初に動き出したのはジェラルド。
走りながら右手を握ると水が手の周りに弾け、銀色の剣を持った。そのままミアとシモンの元へ走る。
「やっと、死ぬ覚悟が決まったみたいね」
華奢な身体に似つかわしい大剣をジェラルドにむけて振り下ろす。振動と石のタイルが割れたような音が響く。しかし、ジェラルドは大剣の下にいる訳でなくミアの後ろに立っている。
澄んだ水色の目を大きく見開いて焦ったように振り向く。ジェラルドは大剣が地面にめり込んで動けないミアを横目に再び走り出す。
「ちょっ!シモン!!」
「はいさー…ぅわっ!?」
飛び出そうと羽根を構えた瞬間に俺は剣をシモンに振りかざす。避けられてしまったが、時間稼ぎぐらいにはなりそうだ。
「今回は俺が囮になる」
「いや、それ無理だと思うけど」
即座に切り捨てられたこの作戦。しかし、この方法しかジェラルドを上手いこと逃げさせられない。それになにより。
「僕が囮になったほうが効率的だ。しかも、死んでも生き返れるという素晴らしい構造を持っているんだし別にーー」
「俺が戦わなきゃ行けないんだ」
ジェラルドに、兄ちゃんに助けられるのはもう卒業しなきゃいけない。俺は、助けられなかった人や迷惑をかけた人の声を背負わなきゃならない。そのためにも、戦わなくては。
「……はぁ。わかったよ。わかった。僕はガリナの部屋に行って先に怪我を治してくるよ。どうせやるんだ、煙に巻いてきな」
ジェラルドの言葉を思い出しながらシモンに夢中で飛びかかる。煙に巻いてやる。お前がさっき見下した俺はもういないんだ。
「……あれ?」
世界が一瞬暗転したと思うと、次の瞬間には俺の背中にミアが跨っていた。しかも顔の横には大剣がぶっ刺さっているというおまけ付きだ。
「君さ、剣下手くそにょらね。振り回せばいいってもんじゃないにょらよ」
「うるせぇなっ!?」
言い終える瞬間に俺の顔が地面にめり込む。
石のタイルなので、物凄く痛い。
頭の毛を掴み顔を無理やり上げさせられる。目の前には、既に武器を持っていない青と白の天使様。シモンはしゃがみ込むと俺に近い目線になる。
「アンタさ……モーリス、倒してくれるんでしょ?」
「はぁ?」
「こっちもこっちでなかなかアレが厄介者なのよね。昔の私怨だかで、復讐されちゃあたまりっこないわよ」
「……まぁ、倒してやってもいいけど。俺もあいつにいろいろされたからな。その代わり、兄ちゃんの事を何か知ってるなら教えろ」
「アンタ自分が交換条件出せる立場に居ないってこと理解してないでしょ?」
冷たい殺気が背中の上から流れてくる。その殺気に気が付かないふりをし、見えないミアを睨む。
無言の時間が流れる。しばらく経つと諦めたのか、ため息を吐き出すと俺の顔の横に強い風が吹いた。風が去った後に大剣はなくなっており、俺の背中への重さも消えた。
身体を起こし、その場に胡座をかいた。一度地面と挨拶をしたことにより俺の顔は赤く擦り切れるんだろうな。顔を左手で撫でる。
「ミア、流石にやりすぎだったんじゃない?別にギコラス君を殺そうとしなくてもーー」
「アンタの言うとうり自分の手すら汚せない馬鹿だったら、本当に殺すつもりだったもの」
吐き捨てるように恐ろしい言葉を放つ。
勇気を出して良かった。心から安堵する。
顔から離した左手には少しだけ血がついていた。おそらく額を切ったのだろう。まぁいいか、と小さく呟く。
そして、俺の目の前で互いに話している二人に声をかけた。
「さ、兄ちゃんの事を教えてもらうぞ」
ミアは嫌そうに舌を小さく出した。嫌だろうがなんだろうが、聞かなくてはならない。俺が兄ちゃんを追い出したようなものなんだから。
「それはジェラルドを迎えに行きながら話しましょ。ここに居ても意味無いもの」
「あれ?そういえば、ジェラルドって何処に行ったにょら?」
「ん、あぁ、ジェラルドは……あれ?」
立ち上がり意気込んで言おうとした台詞を止める。その様子に二人は訝しげな顔で俺を覗き込む。小柄で俺よりも身長の低い二人は次の言葉を待つようにこちらをじっと見つめる。
「なぁ、ガリナの部屋って……どこだ?」




