犬猿の仲
雲の隙間から差し込む光が水に濡れた青々しい草花を照らす。
普段は必ず何人かがこの広場にいるはずなのだが、朝早い時刻だからだろうか、人の影が一つだけしか無い。
その影の持ち主は、薄いオレンジの毛色に真っ白で足首ほどの長さのキトンを着ていてその上に薄い茶色のマントを羽織っている。
寝起きなのか、頭の毛は少しはねており黒のまるまるとした大きな瞳は半分しか開いておらず、少し潤んでいる。
手で口を抑えながらあくびを一つすると、手に持っているジョウロを足元に置いた。
そして、沢山の花壇に植えてある草花を一瞥すると満足したのか、マントの端を持ち胸元を隠すように手間に引っ張ると踵を返し歩きだそうとした瞬間。
広場に一つしかなかった影が二つに増えた。
その影は眠たそうな女性の後ろで止まること無く、流れ作業のように地面に置いてあるジョウロを手に持つとそのまま目の前の女性の頭目掛けて振り下ろす。
「い……ったい!!」
いい音を鳴らしたジョウロは地面に放り投げられ、音を鳴らされた方は頭を抑えてその場にしゃがみこんでいる。
頭を手で抑えながら立ち上がると、大きな瞳を釣り上がらせ、長いまつ毛を一度上下に動かすと頭を殴った女性の方を振り向いた。
「何するのよ!ミア!」
ミアと呼ばれた女性は、茶色と白の三毛そのものの毛色をしていて、青いろの瞳が少し釣り上がっている。
手前が膝あたりで、後ろが長めの青と白のグラデーションのついたクラニスのような物を着ているその上に、黒のマントを羽織っている。
「後ろがお留守だったもので。ごめんね、ガリナ」
「あぁ、あぁそうですか。
私はそこまで無防備に見えるのね」
「当たり前じゃない、そんな部屋着同然の服装で外に出るくらいなんだから」
ガリナは自分の今の服装を見ると顔を真っ赤に染め上げ茶色のマントで体を隠すと、大声で怒鳴る。
「う……うるさいわね!!寝起きなのよ!」
まるで小さい子供の喧嘩のように互いに悪態をつきあい、怒鳴り散らしている。
醜い争いを見ていた一つの影がゆらりと二人に近づいた。
「朝からうるさいにょら」
フサフサの体毛に、青と白の毛色。そして、首には金色の鈴。
二人と同じ位の背丈をしているシモンは小さくため息をついた。
「また二人で騒いでるにょら?」
シモンが問うと、ミアが眉間にシワをよせると、一つ舌打ちをした。
「コイツが一々私につっかかってくるからよ」
「はぁ?
ミアが、私につっかかってくるからよ」
「ふざけんじゃないわよ!
誰がアンタみたいなクズと話さなくちゃいけないのよ!」
「随分とお年のクセにいきがらないで下さいよ、先輩」
「っ!!
年齢はほぼ一緒じゃない!」
「生まれた時代と、天使になった年がミアのほうが早いじゃない」
弾丸のように、二人の高い声が朝早くの広場に響き渡る。
そんな二人の様子にシモンは再び息を深く吐き出した。
そして、何かに気づいたのかシモンは目線を泳がせ、白い頬を少し朱色に染めた。
口を金魚のように何度もぱくぱくとさせてから、覚悟を決めたように横目でガリナを見つめる。
「あ、あの……ガリナ」
「今忙しいの、聞いてわからない?」
「その……着替えてきたらどうにょら?」
「え?」
三拍程おいてガリナは自分の体をもう一度見つめる。
マントで隠すことも忘れていたその体は、服が多少乱れており、胸部がギリギリの所まででかかっている。
「バカッ!」
オレンジ色の頬を真っ赤に染めてガリナは、一言叫ぶとマントで体を隠しながら、その場から走り去る。
ミアは冷たい視線をガリナの背中に投げかけてから未だ俯いて頬を朱色に染めているシモンに顔を向けた。
「アイツ、またノマールの所にいんの?」
「え?
……あぁ、昨日はそっちにいたみたいにょら」
「私アイツ嫌いなのよね。
後輩のくせに無駄にいきがるんだもの」
頭の後ろに両手を伸ばし手を組むと、ミアはシモンをじろりと睨む。
その視線に驚いたのか肩を小さく跳ねさせる。
「別にノマールだけが悪いわけでもないんだけどね……」
ミアが口から吐き出した言葉は、普段のミアからは想像も出来ないような哀れんでいるような言葉だった。
固まったままのシモンを嫌悪そうな目で見つめると、口だけで微笑み背を向けた。
「アイツの言う罰が私情じゃ無いなら、私達も受けるべきなのよ」
シモンの返事を聞く前に足を踏み出し、その場から去っていってしまった。
一人取り残されたシモンは左手で頭をかくと苦笑いを浮かべた。
「ははは……まさかミアからそんな言葉が聞けるとは夢にも思ってなかったにょらよ」




