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恨むべき相手

王の目の前で、神父達が各地域の治安の事や信仰者数などを報告している中、私ははじで跪きながら、彼らの様子を見ていた。

そもそも、年に一度のこの報告に私が出る事がおかしいのだ。

私はもうずっと昔に神父という仕事は辞めたはず。

ココに来たのは王の直々の命令だったからだ。もしかして、これは彼の思惑なのかもしれない。

そこまで思考を浮かばせた瞬間、背後にある扉が大きな音を立てて開いた。

入ってきたのはまだ幼さが残る少女だ。


「誰だ?お前は」


扉を開けた音が反響している中、声を発したのは私の斜め前の玉座に座って、ふてぶてしい表情をしたまだ若い王。

金色の王冠には小さな宝石が散りばめられており、それを左手で振り回している。

暗い赤のマントを羽織っており、灰色の毛色で耳には赤い線が横に伸びている。


「私の……名は、ノエルと申します。

いきなり入ってしまった無礼お許し頂けるとは思っておりません」


神父(私を除いて)を退けて、ノエルと言う少女は王のすぐ目の前までいくと、跪き頭を下に向けた。

薄緑色のマフラーに茶色に近いポンチョを着た薄紫の毛色をしたノエルさんは、微かに震えている。


「私は、第五番都市ネオラントに住んでいた者です。

今日は、私と姉の要望を伝えるために参りました」


「ふぅん」


王は全くもって興味がなさそうに、鼻で答える。

ノエルさんはその言動に腹を立てているのか、体の震えが一層増した。

ゆらりと立ち上がると、頼りなさげな目から一変、猛獣のような恐ろしい目で王を睨んだ。


「魔女狩りをっ……」


目を大きく開けるとポンチョの裾に手を入れ、地面を蹴る


「無くせぇ!!」


そう叫びながら王に向かって走る。

その動作にも王は顔色を変えずに…いや、少しだけ焦っているのか頬が引きつっている。

ノエルさんの取り出した短剣のような物を王に突き刺そうとした瞬間。

動きが止まった。いや、止められた。


「忍び込んじゃ、いけませんよ?」


ニコリと笑う彼は紛れもなく、悪魔そのものだ。その笑顔には殺気がこもっており、周りにいた神父たちは腰を抜かして顔を青ざめている。


「まぁ、女性をこの手で殺す趣味は無いですけど。

王様を狙うような怖い方には少し、痛い目を見た方がよろしいかもしれませんね」


彼……悪魔であるモーリスが掴んでいる短剣の刃の部分に、ピシリとひびがはいるとパリンと大きな音を部屋に震わせて割れた。

素手で掴んでいるはずなのに、血が流れ出ないのはモーリスが何かしているのだろう。そこまで力を持っていない私にはわからないのだけれど。


「……っ!」


モーリスの振り上げた手の先にはいつから持っていたのか、キラリと輝く銀で出来た剣があった。

冷たい眼差しでそれを振り下ろそうとした瞬間、私は思わず彼の目の前に飛び込んでいた。

私の取り出した銃では剣を受け止めるのはなかなか辛いものがあった。

やはり、力の差だろうか。


「おや……?」


予想もしなかったのか、いつもの笑顔を消して一瞬だけ不思議そうな顔をした。

そして、剣を黒い物が包んだと思うとあっという間に消えていった。

私は銃を下ろすと、眉間に皺をよせた。


「あぁ、これはこれは、ノートンさんではありませんか」


ニコリと優しそうな笑みを浮かべ、剣を持ち私の後ろで小さく震えているノエルさんを殺そうとした時の顔が嘘のようだ。

そして、わざとらしく私に話をふる。


「その女性、引き取り願えませんかね?

恨むべき人を間違えてしまってるのですよ」


「っな!

間違えてない!

王様が、魔女狩りを始めたからお姉ちゃんが

死んじゃう事にっ!!」


王は、チラリとモーリスを見るがモーリスは首を小さくかしげたあと、思い出したのかわざとらしく目を細めて楽しそうに笑った。


「あぁ、エミリアさんの妹さんでしたか」


「なんでっ……知って」


「エミリアさん。

面白かったですよ」


ノエルさんの言葉をさえぎるようにして喋る。

戸惑っているのか、ノエルさんはその場から動かずただモーリスを睨んだ。

モーリスは、二、三段ある階段を降りて神父たちのいる所に近づいた。


「人を大好きでしたから、裏切られたぶんだけ人を嫌いになられたのでしょうね。

まぁ……最期は面白そうな方に殺さ」


「やめてっ!!」


後ろにいたノエルさんは、肩で息をして、小さく震えている。

視線を合わせようと後ろを振り向き、しゃがむと薄水色の目を大きく開き冷や汗を流している。


「やめて?

私は貴方のために彼女の最期を教えてあげたのですよ?」


モーリスは、身動きのとれない神父たちを一瞥してからこちらに振り向いた。


「お姉さんに会いたいですか?

お姉さんを殺した方々が憎いのですか?」


ノエルさんの目は焦点があっていなく、地面を見ているのか、何かを考えているのか、それとも楽しかった姉との日々を思い出しているのかわからないほどだ。

ノエルさんの口から言葉が出そうになる。


「ノエルさんっ!!」


肩を両手で掴み、思いっきり名前を叫ぶ。ノエルさんの目と私の目があった瞬間、ノエルさんの体から力が抜けて私の体にもたれかかった。

おそらく意識を失ったのだろう。


「モーリス。

今貴方ーー」


「さて、何の事ですかね?」


両手を肩の位置まで広げ首を横に振った。

私はもたれかかったノエルさんの体を抱き上げるとため息をついた。

そして、王に向き直った。


「王様、申し訳ありませんが今回は退室させていただきます」


王はこちらを少しも見ず、勝手にしろ、と言い遠くを見つめた。

自分の命を狙ったであろう人物にも興味を示さないとは、自分が死なないと確信しているからなのだろうか。

……それとも、悪魔という強い後ろ盾がいるからなのだろうか。

私は一礼すると、駆け足気味にその場を去った。





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