嘘×嘘から始まる恋人
田舎のコンビニは静かだ。
俺は高校生なので夜勤には入れない。
とはいえ、夜の店内も今と大差ないのだろうと勝手に想像していた時、
自動ドアの開く音がした。
油のはじける音と、店内BGMだけが耳に残る空間に自分の声が響く。
「いらっしゃいませ。」
反射みたいに声を出しながら、
レジに立つ。
慣れたものだ。無機質に対応するのは。
高校に入ってから既に1回目の夏休みに入ったが、こうして遊びもせずにバイトをしているのは、一緒に過ごす友達がいないからだ。
仲良くなる方法を忘れてしまった。
距離の詰め方が分からない。
自然な笑顔なんて、どう作っていたのかも思い出せない。
かと言って他人に話しかけられると、“あの頃”を思い出してしまう。
だから、1人でいい。
今の俺にはお金を稼げるだけ稼ぎ、両親と妹に恩返しをすることしか出来ないのだから。
「こちらお預かり致します。」
今月の給料が何円になるかを考えながら、先程入店した客の対応をする。
「ありがとうございました。」
レシートを渡して、顔を上げた時、
――世界が止まった気がした。
動悸が止まらない。
“あの頃”を鮮明に思い出す。
目の前にいたのは、
忘れるはずのない顔だった。
月城深愛。
女子にしては高めの身長。
西洋人形を思わせる肌の白さ。
日本人離れした瞳の大きさ。
ダークブラウンの髪は当時ショートボブだったが、セミロングまで伸びている。
かく言う俺も最初の頃は他のクラスメイトと比べても、とりわけ仲が良かったと思う。あんな人間だとは思ってもみなかったが。
「……え」
声が漏れたのは月城の方だった。
俺だけでなく、そのまま月城も固まっている。
沈黙の時間が永遠に感じてくる。
思い出したくない記憶が、
勝手に浮かび上がってくる。
教室の空気。
笑い声。
視線。
自分がこの世界の異物と化したような、吐き気を催す感覚。
今起きていることはどうか悪い夢であってくれと願っていた時、ようやく月城は口を開いた。
「…中学ぶりだね、内海君」
……なんでだよ。
なんで、ここにいる。
なんでそんな簡単に、友達みたいに言えるんだよ。そんな関係じゃないだろ。
逃げたい。
でも、動けない。
口がうまく開かない。
どうすれば…
自分の気持ちとは裏腹に、声が咄嗟に出てしまった。
「……誰ですか?」
発言したのが自分だと気付くのに時間がかかるほど、驚く程に淡々とした声だった。
彼女の少しだけ吊り気味な目が、大きく揺れる。
「……え?」
「すみません。俺、中学校の頃を何も覚えてなくて…」
嘘だ。
全部覚えてる。
忘れられるわけがない。
でも、覚えている自分のままではこのままここに立てなかった。
だから自分の身を守るように、反射的に過去を捨てたフリをしたのだと思う。
「そっ……か」
月城は、ほんの一瞬だけ目を伏せた。
何かを決意したように。
それから顔を上げて、
「じゃあ、仕方ないね」
柔らかく笑った。
「……何がですか?」
“あの頃”の無邪気さと傲慢さの混じった笑顔を思い出し、顔が引き攣る。
「私、月城深愛は貴方の恋人なのに、忘れられてるってこと!」
「…は?」
思考が止まる。
「中学の頃からずっと付き合ってたんだよ?」
...は?
意味が分からない。
そんな記憶、あるわけがない。
「いや、そんな」
続きは言わせまいとするように、言葉を被せてくる。
「悲しいなあ〜」
そう言いつつ、月城はカウンター越しにも関わらず距離を詰めてくる。
近い。
逃げ場がない。
「でも大丈夫」
やけに優しい声で、囁いてくる。
それがまた“あの頃”を想起させ、恐怖心を煽ってくる。
「私がちゃんと、教えてあげるから」
笑顔なのに、目が笑っていなかった。
昔と同じ。
何かを決意した時の目。
「……何をされるつもりですか。」
警戒心から少しだけ低くなる声。
彼女は一瞬だけ言葉に詰まると、
「……あの頃と同じように、一緒に帰ろうと思って!」
すぐに、いつもの調子に戻った。
「恋人なんだから、一緒にいるのは普通でしょ?」
おかしい。
全部おかしい。何がどうなってる?
「いやその、」
「記憶、ないんでしょ?」
その一言で、言葉が止まる。
「君の事なら、なんだって知ってるよ?」
俺が、自分で選んだ逃げ道。
「それなら、恋人の私を信じるしかないよね?」
逃げた先に、救いなんてなかった。
居場所を知られてしまった以上、逃げ場はない。
今さら否定したところで、あの頃を繰り返されるだけだろう。
「…分かりました。俺と貴方のことを教えて下さい。」
こうなったら、バレないように振る舞いながら、思惑を探るしかない。
月城は満足そうに微笑んで、
「そろそろ時間的にバイト終わるよね?外で待ってるよ」
それだけ言って、店外へ出ていった。
自動ドアが閉まり、いつもの静かな店内に戻る。
なんなんだよ。
頭が追いつかない。
でも、一つだけ分かる。
月城は、何も変わっていない。
見た目は変わった部分もあるのだろうが、中身は“あの頃”のままだ。
“あの頃”は俺以外のクラス全体を利用していたが、今回はどうやら俺1人を利用するということらしい。目的は分からない。
「……最悪だ。」
俯き、小さく呟く。
それでも。
あんな目に合わされたはずなのに拒絶できなかった自分が、嫌になった。
バイトが終わり外に出ると、
店の前に月城はいた。
まるで恋人なら当然だというように。
「遅いよ〜」
「そう思うなら帰っていればよかったのでは?」
「やだ」
即答だった。
「恋人なんだから、一緒に帰るのは普通だよ!」
恋人じゃないんですけどね。
「…俺に何をさせたいんですか?」
月城は俺から一瞬だけ視線を逸らして、
それから少しだけ笑って言った。
「……秘密」
誤魔化すように。
「そのうち、分かるよ」
呟くような声色の中に、何か強い意志を感じた。
ため息をつく。
関わらない方がいい。
分かってる。
でも、
「……俺の家の場所分かりますか?」
気づけば、そう言っていた。
彼女の目が、わずかに見開かれる。
それから、嬉しそうに細められた。
「もちろん!彼女ですから!」
――並んで歩く。
「そういえば私の家、内海君の家から5分くらいなんだよ!」
「そうだったんですね。」
何も知らない人が見れば、恋人だろうと思う近さで。
「だから今度、また遊びに来てね!中学校の頃みたいに!」
「遠慮しておきます。」
仲が良かった頃と似た、でも決定的に違う、既に壊れた関係。
「と、いうか恋人なんだから敬語はやめよ?内海君」
「別に敬語で話す恋人もいると思いますが。月城さん。」
間違いなく、これはろくでもないことになる。
分かっているのに。
それでも俺は、
隣で歩く事をやめられなかった。
初めてなので拙い文で大変申し訳ございません〜!m(_ _)m
改めて初めまして!イヲタと申します!
私自身がラブコメ大好きで、熱が爆発して思わず筆を取った次第です(使ったのは筆ではなくキーボードですが)
投稿は不定期になりますが、次回は過去編をヒロイン視点でチョロっと書こうかなと思います!思うだけです!普通に現代編書く可能性もあります!
過去編の場合、もちろん全ては開示しません。そしたら話のネタ無くなっちゃうからね!ただでさえないのに!
ちなみにタグの残酷描写やR15要素はゆくゆく出てくるので、少しだけ覚悟してくださいね、なるべくマイルドにはしますので!
というところでここまで読んで頂きありがとうございました!楽しんで頂けたら幸いです。よろしければ次回も読んでいただけると嬉しいです!




