第1話:秘密の暴露と最初の約束
その夜、公爵家の廊下は静まり返っていた。
リリアーナ・エル・アクアベリーは、淡い金髪を優雅に揺らしながら、サリアの部屋の前に立っていた。
小さな記録の魔道具を胸のポケットに隠し、唇に甘い微笑みを浮かべている。
彼女は軽くノックもせずに扉を開け、中へ滑り込んだ。
サリアは粗末なベッドの上で、膝を抱えて体を縮こまらせていた。
銀髪が肩に乱れ、青みがかった灰色の瞳に驚きと警戒の色が浮かぶ。
「……リ、リリアーナ様……? こんな夜更けに、何のご用でしょう……」
声がわずかに震えていた。
昨日まで使用人同然に扱われていた彼女にとって、突然の訪問はただの恐怖でしかなかった。
リリアーナはゆっくりと近づき、ベッドの端に腰を下ろした。
青い瞳がサリアを優しく、しかし深く見つめる。
「姉さま……昨夜、屋根裏部屋でとても特別な姿を見せてもらったわ」
サリアの肩がびくりと跳ねた。
「え……?」
リリアーナはポケットから記録の魔道具を取り出し、軽く起動させた。
魔道具の結晶面に、昨夜の光景が鮮明に浮かび上がる。
銀髪を乱し、体を震わせながら、抑えきれない孤独に耐え、静かに涙を浮かべていたサリアの姿。
サリアの顔が、一瞬で真っ赤に染まった。
「あ……っ……!」
彼女は両手で口を覆い、ベッドの上で後ずさろうとした。
しかし背中が壁にぶつかり、逃げ場を失う。
「やめて……ください……そんな……見ないで……!」
声が裏返っていた。
涙がすぐに瞳に溢れ、頰を伝う。
サリアの心臓は激しく鳴り、頭の中が真っ白になっていた。
(どうして……どうしてあんなところを……! あれは私の、誰にも見せてはいけない秘密なのに……!)
公爵家の令嬢である自分が、屋根裏で一人、孤独を抱えて震えていた姿……想像しただけで、胸が締め付けられるほどの屈辱だった。
「お願いです……消して……あの魔道具、壊して……! 誰にも、見せないで……」
サリアは震える声で懇願した。
灰色の瞳が涙でぐしゃぐしゃになり、銀髪が乱れて頰に張り付いている。
リリアーナは優しく微笑みながら、サリアの顎に指を添えて顔を上げさせた。
「姉さまのこんな秘密の姿……公爵家中に広められたくなかったら、私の言うことを聞いてね?」
甘く、しかし冷たい響きを持つ声。
リリアーナの青い瞳が、獲物を捕らえたように細められる。
サリアの息が止まった。
「そんな……ひどい……」
「ひどい? ふふ、でも姉さまは昨夜、とても寂しそうだったわ。一人で震えながら……」
リリアーナの言葉が、サリアの羞恥心を容赦なく抉る。
サリアは耳まで真っ赤になり、涙をぽろぽろと零しながら首を激しく横に振った。
「言わないで……! お願い……そんなこと、言わないで……私は……私はただ……」
ただ、孤独を紛らわせるために。
虐げられる毎日に耐えるために。
リリアーナは魔道具をベッドサイドに置き、サリアの耳元に唇を寄せた。
「さあ、まずは簡単な約束よ。姉さま……今からここで、自分の姿を鏡の前で見せて。私と一緒に、ちゃんと向き合うの」
サリアの瞳が見開かれた。
「え……そんな……無理です……!」
「無理じゃないわ。姉さまはもう、私に秘密を知られているのよ。従わないと、この記録は……お父様にも、お母様にも、使用人たちにも見せてしまうわよ?」
リリアーナの声は甘く、優しい。
しかしその裏に隠れた冷徹さが、サリアを震え上がらせた。
サリアはしばらく震えながらリリアーナを見つめていたが、やがて観念したように肩の力を抜いた。
涙が止まらない。
「……わかり……ました……」
震える指で寝間着の紐を解き、ゆっくりと鏡の前に立たされた。
銀髪が肩に落ち、灰色の瞳が涙で潤んでいる。
自分の姿が鏡に映り、羞恥の熱さが全身を駆け巡る。
「令嬢のくせに……こんなに心が揺れているなんて……正直ね」
リリアーナの言葉が耳に染み込む。
サリアは唇を噛みしめ、鏡の中の自分を見つめながら、羞恥に耐えていた。
胸の奥がざわつき、視線を浴びる感覚が、初めての「見られる心の揺らぎ」
を呼び起こす。
(どうして……どうしてこんなに胸が苦しいのだろう……鏡に映る自分が、こんなに恥ずかしいのに……リリアーナ様の視線が……心を熱くする……)
サリアの心は激しく葛藤していた。
屈辱と恐怖が胸を締め付ける一方で、鏡に映る自分の姿とリリアーナの視線が、抑えきれない孤独を少しずつ浮き彫りにしていく。
リリアーナは満足げに微笑みながら、心の中で静かに囁いた。
(いいわ、姉さま……これが、始まりよ)
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