表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/137

ハーレム王は不死人!?

……深い闇から浮かび上がるようなイメージ。


それは、夜の暗い海の中から海面に向けて泳いでいくというのが一番近いかもしれない。


そして俺は海面に顔を出す……つまり、目を開けた。


「う……マジか。滅茶苦茶痛いんですけどっ!」


俺は痛む体に鞭打って体を起こす。


周りは静寂に包まれている。


ゴブリンたちの姿もない。


どうやら俺は、あの小鬼どもに切り刻まれた後、ここに捨てられたらしい。


よく見れば周りに似たような残骸が散らばっている。


俺もさっきまでは、この肉片と変わらなかったのだろう。


元の形を残していない分、凄惨さは鳴りを潜めているが、嗅覚が戻ってくると、そのあまりにもの臭いに耐えきれなくなる。


「とりあえず、この場から逃げよう。」


俺はまだ感覚が鈍い身体を引きずるようにして、その場から立ち去って行った。



「痛てて……。でもまぁ、あの女神(?)から貰ったチート能力はちゃんと発動したわけだ……想像とは違ったけど。」


拠点に戻った俺は、まだ燻ぶっている焚火の火を熾しなおして暖を取りながらつぶやく。


俺は転生間際のあの瞬間、特典で貰える能力に『不老不死』を選んだ。


俺のイメージとしては、ゲームでいうと、どれだけ攻撃を受けてもHP1から減ることはなく、相手が強大な力をいくら振るおうとも、それ以上のダメージはない。逆に、こちらの攻撃がいくら貧弱でも、攻撃を続けていればいつかは倒すことが出来る、……そういうイメージだったんだけど、実際には死んでも生き返る、って感じか。しかも、切り刻まれても復活出来るって……うん、アンデッドですな。


一応言い訳しておくと、俺なりに頑張ったんだよ。


あの短い時間で、最適解を見つけろとか、どんなクソゲーだよ。


とりあえず頭に浮かんだのは生き延びること。せっかくやり直せるって言ってるのに、すぐに死んだら意味ないからな。


次に浮かんだのは言語について。


自慢ではないが、学校の成績は有鬚でも、英語等の多国語については全くダメだ。学校で習う英語が実生活で役に立たないということを自ら体現している自負がある。


そして、どこでもそうだが、その土地の言葉を理解して話せるというだけで、安全や生きやすさがグンと上がる。まぁ、言葉が分かっても、コミュニケーションが取れなければ同じことだけど、それでも、言葉が分からなければ、コミュニケーションの第一歩から躓くわけで、それだけ言葉は大事ってことだ。


それほど重要なものではあるが、せっかくもらえる特典の能力が言語だけというのは非常に損をした気分になる。


そのあたりどうなのか?と尋ねたら、一応、デフォルトでサポートはしてくれるらしい。

もっとも、俺がそのことに触れずに言葉が分かるようにしてほしいといえば、それだけで済ませるつもりだったと、舌打ちしながら白状した……なんて奴だ。


言語に問題がなければ、あとは生き延びるために必要なもの……つまりお金と力だ。


これはすぐに結論が出た。


お金だけあっても、それを守る力がなければ意味がない。逆に力さえあれば、お金は後から何とでもなりそうだ……というか、結局お金も力の一種には変わりないわけで、結局はどの力をもらうか?という最初に戻るわけだ。


無双のパワーか鉄壁の防御か、比類なき魔法使いか。


選択肢は色々あるものの、時間がないこともあり、前述の理由から「不老不死」を選んだ。ぶっちゃけ、あまりにもアレな能力なので本当に貰えるかどうか半信半疑だったのだけどね。


「あっと、まさか死に戻りってわけじゃないよな?」


自分の死をトリガーにして、一定時間前に戻るスキル。これはこれで、それなりに使えそうな気もするけど、戻る地点と死ぬまでの間にあった出来事がなかったことになるのは、なんか非常にめんどくさいことが起こりそうでいやだ。


俺は痛みの消えた体を起こすと、松明代わりの薪を片手に、そっと、ゴブリンたちがいた場所まで引き返す。


ゴブリンたちが女の子を襲う現場に出くわせば死に戻り、そうでなければ、かなり凄惨な現場を目にすることになる。


「どっちも勘弁してもらいたいんだけどなぁ。」


もっとも、拠点の焚火の状況から見るに、死に戻りの線はかなり薄いのだが。


そしてゴブリンたちがいた広場につく。


物陰からそっと覗いてみるが、周りには誰もいない。


ただ、食い散らかされた、獲物の肉の残骸が散らばっており、地面には血の跡と思われるシミが残っていた。


どうやらゴブリンたちは場所を移動したらしい。


拠点の焚火を見た時にも思ったのだが、どうやらあれから1日程度しかたっていないらしい。


なにか使えるものはないか?と、周りを見回してみると、端の方で白い塊が見える。


気になった俺は、そっと近づいて行った。


「……。」


ソレは打ち捨てられた女性の遺体だった。


首には幾筋もの絞められた跡が残り、腹は切り裂かれ無残な姿を晒している。


顔は……痛ましくてとてもじゃないが直視できなかった。


俺は女性が握っていたナイフを取る。


刃先には乾ききっていない血がこびりついていた。


このナイフで最後の抵抗をしたのか、もしくは自らの命を絶つのに使用したのか……。


今となってはわからないが、女性の怨念じみた力が宿っている気がした。


「出来るかどうかわからないけど、敵は取ってやるよ。」


俺はそのナイフの血を拭ってからしまうと、手にしていた松明を女性の身体の上に落とす。


火はあっという間に大きく広がって女性の身体を包み込む。


俺は軽く手を合わせ、しばらくの間瞑目する。


そして、目を開けた後は、そのままその場から立ち去ることにした。



拠点に戻った後、俺はナイフを見ながら、前回の戦いについて反省をしてみる。


俺が死んだ原因は、意味もなく勝てると思い込んでいたことだ。


冷静になって考えてみれば、ろくに喧嘩もしたことがない俺が、戦う術を持っているわけがなかった。


このナイフのような武器を持っていれば、少しは違ったかもしれないが、それでも、戦い慣れたモンスター相手に敵うはずがない。


ゴブリンがいるということは、他のモンスターも当然いるだろう。


そして、ファンタジー知識に間違いがなければ、ゴブリンは最弱の種族であり、ほかのモンスターはもっと強いということだ。


そんな世界で生き延びるにはどうすればいい?


いや、生き返れるんだからいいだろ?という意見は却下だ。死ぬのは苦しくてとても痛いんだぞ。あんな目に二度と会いたくない。


この森をさっさと抜け出して、安全な街中で暮らすか?


しかし、どんな暮らしをするのにもお金が必要になるだろう。


やっぱり、あの時お金をもらっておくべきだったか?……しかしその場合、ゴブリンに殺された時点で終わりだからお金が意味をなさない。だから俺の選んだ選択は間違ってなかった……と思う。


ガサっ……。


近くで物音がした。


考え事に夢中で、周りへの警戒を怠っていた。


なにかが飛び込んでくる。と同時に腹部に熱い痛みが走る。


俺は痛みをこらえながら、飛び込んできたモノに対し、手にしていたナイフを振り下ろす。


「ギャッ!」


ソレは慌てて逃げようとするが、俺の腹に刺さった小剣が抜けずに焦っている。


俺はその、慌てているモノ……ゴブリンに対し、何度も何度もナイフを振り下ろして突き刺す。


小剣から手を離せば逃げるのは容易いだろうに、そんなことにも気づかないらしい。


俺はこんなアホな奴に殺されたのか?あの女性は、こんな奴らに慰み者にされた挙句、無残に散っていったのか?


そう思うと怒りがこみあげてくる。


俺は何度も何度もナイフを突き刺す。


やがて、ピクリとも動かなくなったゴブリンを、小剣ごと引きはがして、蹴り飛ばす。


蹴ったショックで腹に激痛が走り、その場で蹲る。


刺された場所は、運よく致命傷にはならない場所だったようだが、とても痛い。


それどころかだんだんと体の動きが鈍くなり、息苦しくなって、その場で倒れこんでしまう。


「まさか……毒?」


そう口にするも、だんだんと意識がもうろうとしてきて、考えるのが億劫になる。


……まさか、また死ぬのか?


その思考を最後に、俺の意識は白濁へと飲み込まれていった。





ご意見、ご感想等お待ちしております。

良ければブクマ、評価などしていただければ、モチベに繋がりますのでぜひお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ