ハーレム王への伝説の序章………の筈
気がつけば、俺は森の中に佇んでいた……いや、違うな。正確には、森と思われる場所にだ。
森の定義は「樹木が沢山生えている場所」なのだから、その意味では、ここは森なのかもしれない。
だが、ここが森だと、誰が決めた?林かもしれないし、山かもしれないじゃないか。
………やめよう。うん、そろそろ現実を見よう。
周りは樹木ばかり。足元も整地されておらず、草が群生している。
所々から樹の根が飛び出していて、歩き辛い事この上ない。
ここが山の中だろうが、森の中だろうが、一つ言えることは、そのような場所に唯一人取り残されているという事実。
遠くから聴こえる鳥のさえずりや、風に揺られて、葉が擦れる音以外は何も聞こえない静寂の中で、俺が踏みしめる落ち葉の音だけがやけに大きく響くのは気のせいだろうか?
「紛うことなき森の中だな。」
しばらく歩き回り、全く変化のない周りの景色を確認して、諦めたように独り言を呟く。
無駄に動き回って体力を消耗するのも馬鹿らしいので、手頃な高さの樹の根に腰を下ろして現状把握に務めることにした。
「まず、ここがどこか?というところだな。」
誰もいないのに声に出してみる。
一人暮らしが長かったせいで、独り言を呟く癖がついてしまっているが、誰も居ないので何も問題はない……と思う。
そんなことより、と脱線しかけた思考を戻す。
「記憶に間違いがなければ、ここは異世界ってことになるが。」
俺は思い返してみる。
見知らぬ少女を助けようとして、屋上から落ちた事、真っ白な世界で、不思議な少女と交わした会話……。
ウン、全部覚えている。
だけど、ここが異世界だと決めつけるには、まだ情報が足りなさすぎる。
記憶にはないが、山に来て遭難しただけ、さっきまでの記憶は夢、ということがないわけでもない………かなり無理があるが。
そもそも、山登りする趣味もなければ、山登りに誘いそうな知り合いもいない訳で……。
「取り敢えず、ココがどこかということは置いといて、これからどうするかを考えよう。」
どうでもいい思考に入り込みそうだったので、無理やり意識を切り替える。
「生きていく上で必要なのは衣食住だけど……。」
なにか持っていたかなぁと、ポケットを探ろうとして、初めて自分の服装に気づく。
チュニックというのだろうか?見たことのないデザインと、このゴワゴワした肌触りは、現代日本には存在しない……少なくとも身近で見たことはなかった。
「これだけでもう、日本じゃないって言えるかも、だけど……。」
イヤイヤ、早まるな。これが壮大な仕掛けのドッキリだという可能性も……。
そこで、ふと腰にあったナイフに気づき取り出してみる。
解体用の小振りなナイフだ。
そして、その刀身に映った顔を見て驚く。
鏡のように鮮明ではないが、それでも顔の造作ははっきりとわかる。
「若い……いや幼い……か。」
そこに映っていたのは、13〜14歳ぐらいの少年の顔だった。
◇
中学の時、自分で言うのも何だが、それなりにモテる要素はあったと思う。
成績は常にトップクラス。
特に勉強しなくても、定期テスト等は直前に教科書を読めば大体理解できる。というより、他の奴らが何故わからないのかが理解できなかった。
運動もそう。
部活で毎日真面目に練習しているやつと、その競技で勝負すれば敵わないが、体育の授業程度であれば、そこそこ活躍できる。
というのも、毎朝、登校時は時間ギリギリで、4kmの道のりを全力疾走していたため、自然と基礎体力はついていた。
そして、中学の体育の授業レベルだと、足が早ければそこそこなんとかなるものだ。
だから、バレンタインのときは、片手で数えれないぐらいはチョコを貰っていたし、何人かからは遠回しに想いを告げられた事だってある。
あの時、真面目に向き合っていれば今頃は………。
……うん、やめよう。過去の栄光に縋るのは、すでに負けを認めているに等しい。
とにかく、ドッキリとかでなければ、俺は今、若返って異世界にいるということだ。
そして若返った……人生の中で一番輝いていたころの俺に戻っているということは……。
「ハーレムを作れという天の采配だよなぁ。……よし、ハーレム計画をたてよう。」
異世界に行ったらいつの間にかハーレムができていた、というのはラノベなどでおなじみの展開だが、人生そう甘いものではないことを知っている。
何もせずにハーレムができるのなら、俺の人生、童貞のままで終わることはなかったはずだ。
つまり、何が言いたいかというと、ハーレムを作るために必要なことを調べ上げ、綿密な計画にのっとって行動を起こさなければならないということだ。
そう、行動。
思えば、俺の人生で、自ら行動を起こしたということは数えるほどしかなかった。
可愛い女の子と出会ったとき、可愛い後輩ができた時、美人でスタイルのいい上司と顔を合わせた時……。
俺はその都度、いいなぁ、彼女になってくれないかなぁ、と思うだけで何のアクションを起こすこともなかった。
そしてどうなったかというと、美人の上司は、さえない課長と不倫関係となり、調停中。可愛い後輩は、DVと噂されている同期の男と同棲中。たまに顔にあざを作って出勤してくる。本人は階段で転んだだけと笑っているけど……。
そんな話を聞くたび、俺の方が余程マシじゃないか、と思いながらも何も行動を起こさず、その結果が、童貞のまま人生を終えることになった。しかも婦女暴行未遂という冤罪を被せられるというおまけ付きでだ。
ほんと、人生はクソゲーだ。だけど、それは行動しなかったからで、自ら行動を起こせば、何かが変わると思う。
その証拠に、人生の最後に自ら起こした行動の結果、俺は今ここにこうしているのだから。
「っと、また思考がおかしな方へ迷い込みそうだ。それよりハーレムだな。大事なのは、最初のひとりとどのように知り合うかだ。」
ラノベなどでよくあるパターンとしては……
1、モンスターや盗賊などに襲われているところを助ける。
俺の強さにほれ込んでラブラブへ。貴族の娘だというパターンが鉄板。
2,奴隷商で購入。
買われた先で優しくされた彼女は、身も心もご主人様である俺に捧げることを誓う。
3,その他パーティや仕事仲間、宿の看板娘など。
俺の活躍を常に目にし、耳にし、そして長い付き合いで信頼関係を築き上げ、いつしか、お互いをかけがえのないパートナーだと気づく。
……大体こんな感じか?少々アレンジが入ることもあるが、この三つを押さえておけばいいだろう。
「とはいっても、ここを抜けて人のいるところへ行かないことには2や3のパターンには巡り合えないんだよなぁ。可能性があるとすれば1だけど、こんな何もない森の中で、都合よく襲われてたりはしないだろ。」
そう口にしながらも、ある種の期待を込めて、森の中を意味もなくうろついてみる。
「だぁぁぁっ!疲れたぁっ!」
俺は何もない地面に大の字で寝転がる。
森の中を女の子を探してはや4時間。さすがに疲れた。
そして、体を休めた途端に、ぐぅーと腹の虫が鳴る。
よく考えたら、この森の中で目覚めてから何も食べていない。
生きていく上で必要なのは衣食住だって言っただろ?女の子探している暇があるなら、食料探せよ!
……などと、数分前の自分にツッコミを入れてみるが、当然何の反応もない。
「はぁ……とりあえず火を熾すかぁ。」
このまま夜になったら何も見えなくなりそうだ、と薄暗くなりかけた周りを見ながら、そうつぶやく。
明かりとしても、暖を取るためにも、運よく食料が手に入った場合に調理するためにも、火は必要不可欠だ。
そのためには、燃やしやすそうな小枝や、薪になりそうな枝などを集めてこなければならない。
それ以前に、寝る場所の確保も必要だ。
洞穴みたいな、雨風をしのげそうな場所がないかを、枝を集めながら捜し歩くことにした。
2時間ほど歩き回り、2m先がほとんど見えないくらいにあたりが暗くなったころ、俺はようやく寝床に適した場所を見つける。
洞穴ではないが、上の岩が出っ張ってくぼんだ大きな岩。ここならちょっとした雨風はしのげるだろう。
そして、少し歩けば川があるので水源の確保もできた。
苦労して火を熾すこともできた。
あとは食料さえあれば、しばらくはこの場所を拠点にしてもいいかもしれない。
そう、食料さえあれば……。
俺は、汲んできた水をがぶ飲みして空腹を紛らわせる。
明日は、明るくなったらすぐ食材探しに出かけよう。女の子との出会いを探すのは、食料を手に入れてからにするんだ。
俺は自らの心に難くそう誓い、横になって目を閉じる。
とりあえず寝てしまえば、これ以上空腹に悩まされることもないだろうと思いながら……。
「きゃぁぁぁぁぁっ!」
横になってしばらくすると、遠くで、かん高い悲鳴が聞こえる。
「今の悲鳴って女の子……だよなぁ。」
あれだけ探し回って見つからなかったのに、探すのをやめようと決めた途端に見つかる……よくある話だ。……踊らないけどさ。
俺は、少し太い薪に焚火から火を移し、それをたいまつ代わりに持って、森の中へと分け入る。
時々聞こえる悲鳴を頼りにしながら、10分ほど歩くと、前の方で薄明るくなっているのが見える。
「いやっ、いやっ、いやぁぁぁぁ~……。」
それと同時に聞こえた女の子の声。どうやらあの明かりの場所にいるのは間違いないらしい。
そして声の感じから、だれかに襲われているのだろうということはわかる。
俺は、そろーり、そろーりと明るいほうへ近づいていく。
開けた場所の近くの大木に身を隠しながらそっと覗く。
そこには、無残にも服が切り裂かれ、醜悪な小人たちに四肢を押さえつけられている女の子の姿があった。
女の子、キターーーーーーーっ!
女の子を襲っているのは、ファンタジー定番のゴブリンだとおもう。
体色がやや緑がかっていて、顔つきは醜悪。額や頭の横から1本ないし2本の小さな角が生えているのが特徴的で、それがゴブリンどもが小鬼と呼ばれる所以だろう。
女の子は、体中をまさぐられてはいるが、まだギリギリのところで手遅れにはなっていないようだ。もっとも、それも時間の問題だろう。
ここで俺がさっそうと姿を現し、あの醜悪な小鬼どもを蹴散らす。
そして、純潔(かどうかは知らないが)を散らされそうになった寸前で現れたヒーロー(俺だ、俺)に対し、吊り橋効果も相乗して、多大なる好意を抱く、というわけだな。
見れば、ゴブリンたちは5匹。
奇襲をかけて2匹を倒す。そこで気づかれるだろうけど、まだ戦闘準備ができていないだろうから、その隙にさらに2匹を屠る。さすが、そこまですれば相手も準備が整うだろうけど、その時残っているのは1匹のみ。
1対1ならゴブリンごとき雑魚は敵じゃないな。
俺は頭の中でそうシミュレートする。うん、完璧だ。
そして俺は、こちらに背中を向けているゴブリンに向かって飛び出していった。
◇
……俺の計画は完璧だった。
あの状況では、いかなる軍師であろうとも、俺と同じ答えを導き出すことは間違いがない。そう自負できるほど、まったく非の打ちどころのない計画だった。
その計画にのっとって行動した結果……俺は今天を見上げている。
疲れたのか、目の前がかすんでいく。
ゴブリンとの戦いで負った傷の痛みもすでになく、近くでギャッギャッと騒いでいた小鬼たちの声も、泣き叫ぶ女の子の声も、もう聞こえない。
もう一度言おう。俺の計画は完璧だった。
ただ、一つだけ誤算があったとすれば、俺は武器を持っていなかったということだ。
松明代わりの薪1本ではさすがにゴブリンを瞬殺、というわけにはいかず、俺は腹に手痛い一撃をもらってしまった。
もう一つ誤算があった。
俺は平和な日本で生まれ育った、平均的な軟弱男子であり、戦い方など知らなかった。
だから当然、俺が滅茶苦茶振り回す薪はゴブリンどもに掠りもせず、逆に、ゴブリンどもの剣やナイフが、俺の体中に突き刺さる。
滅茶苦茶痛くてその場でうずくまる。そして、そうなってしまえば、あとは数の暴力だ。
俺の体を小鬼どもは笑いながら、剣で突き刺し、ナイフで切り刻む。
犯される女の子の悲痛な悲鳴をBGMに、俺の意識は深い闇へと沈んでいった。
異世界転生1日目にして、俺は死んだ……。
第2話にて、いきなり主人公の死……これからどうなることやら。
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