ハーレム王に俺はなるっ!
一面真っ白な世界。
あぁ、俺死んだんだ。
何故か現状を素直に受け入れることが出来た。
だってそうだろ?俺の最後の記憶は迫りくるアスファルト。
あの時俺は……。
◇
「危ないっ!」
そう言って少女に飛びつく俺。
その少女が目に入ったのは偶然だった。
気まぐれで登ってみた建物の屋上。以前よく来ていたので馴染みはあるが、その日、その時間に行ったのは、本当にたまたまで、あの時階段に目を向けず、左へ移動していたら、運命は変わっていたのかもしれない。
とにかく、俺は気紛れで登った屋上で、落下防止のフェンスに寄り掛かろうとしていた少女の姿を、偶然目にする。
そして俺はたまたま知っていた。そのフェンスが壊れていて、体重をかけようものなら、そのまま落下するであろうことを。
だから俺はとっさに飛びついた。
なにか考えていたわけではない。
その時の状況を一言で表すなら「反射」だ。
危険から女の子を助ける……その思考が反射的に身体を動かした……のだと思う。
「キャッ、いやァァァ!」
しかし、少女は飛びついてきた俺を、痴漢か何かと勘違いしたらしく、悲鳴をあげて躱す。
ウン、その行動は間違いじゃない。誰だって、見知らぬ男が飛び掛かってくれば逃げようとするよね?
だから避けたことについて、文句をいう気はない。
ただ、結果として、避けられた俺の身体が、壊れかけのフェンスにぶつかり、そのまま落下した。それだけのことだ。
◇
「あ~、じゃぁここが死後の世界?なんにも無いんだな。」
「ぶっぶー。違いますぅ。ココは魂の一時的保管場所ですぅ。」
誰も居ないはずの場所で、俺の独り言に応える声が聞こえる。
「誰だっ!」
「私だっ!」
「……。」
「……。」
二人の間に沈黙が降りる……。ってか、今のにどう反応しろと?
眼の前に突然現れた少女は、小柄な身体を覆う、フワッとしたドレスを身に纏っている。
腰まであるゆるふわウェーブの金色の髪。クリっとした瞳に、小さな唇。それらの各パーツが、見事なまでに「美少女」を形作っている。
可愛らしくも、どこか神秘的なオーラをまとう少女と見つめ合う俺。
しかし、二人の間には、なんとも言えない気まずい空気が漂っている。
その沈黙を先に破ったのは少女の方だった。
「……コホン。あー、伊藤颯真さん29才童貞で間違いないですね?」
「違っ……。」
思わず反射的に否定するが……。
「違うの?伊藤さんですよね?」
「ハイ……。」
「名前は颯真さんで合ってる?」
「……ハイ。」
「29歳ですよね?」
「……………ハイ。」
「で、童貞。」
「………。」
「童貞ですよね?」
「………………………ハイ。」
「最初から、素直にそう言えよ。これだから童貞は。」
……オイ、今この人、全国何万人もいる(と思う)DTさんたちを敵に回しましたよ。
「えーと、颯真さん。あなたには黙秘する権利があります。」
「何でいきなりミランダ警告っ!」
「…………間違えました。2つの選択権があります。」
「落差激しいな。それでその2つって?」
「1つ目は、このまま戻ること。」
「戻るって……俺死んだんじゃ無かったのか?」
「まだ死んでませんよ。今すぐ戻れば命だけは助かります。」
「命だけって……?」
「えぇ。落下事故による後遺症で半身不随……つまり一生童貞が決定しますね。」
「言い方っ!」
「それから婦女暴行未遂で訴えられますので、その後どのような結果になろうとも、社会復帰は難しいでしょう。」
「何、その罰ゲームっ!却下だ!その選択肢は無い。」
「じゃぁ、もう一つの選択ということでよろしいですね。」
「待った。一応もう一つの内容を聞かせてくれ。」
無いとは思うが、もう一つの選択のほうがもっと酷いということもある。俺は慎重に事を運ぶ質なのだよ。
「ウザっ。」
「何か言ったか?」
「イエイエ。もう一つの選択肢は、別の世界で人生をやり直す事です。」
異世界転生キターーー!
「それで!」
「分かりました。では素晴らしきミジンコ人生を……。」
「チョット待てぃっ!」
「何か?」
「ミジンコ人生って何だよっ!大体ミジンコだと人生とは言わないだろうがっ!」
「男のくせに細かいですねぇ。これだから童貞は……。」
「童貞関係ねぇっ!ちゃんと人間としてやり直させろよ。」
「えー、面倒。」
「面倒言うなっ!」
「ハイハイ。んーと、これでいいか。じゃぁサイコロ振って。」
「は?サイコロ?」
俺は手渡されたサイコロを見る。普通のサイコロと違って、0から9の数字がある……10面ダイスと言うやつだ。それが2つある。
「いいから早く振りなさい!」
その声に促され、俺は反射的に2つのダイスを転がす。
出た目は0が2つ。
「ほわぁ……、珍しい。けどまた面倒な……。」
「な、なぁ、どういう意味だよ。」
少女の不穏当な言葉に不安を覚えた俺は、このダイスの目が意味するところを聞いてみる。
「コレは運命のダイス。出た目によって、あなたの運命の方向性を決めるの。」
「運命って…………。ところでこの目は良いんだよな?」
0のゾロ目って普通に考えて、普通じゃ無いよな。
何を言っているか解らないだろうが安心してほしい。俺にもわからないから。
「運命の内容を教えるわけ無いでしょ。それよりあなたは特典を選ぶことができるの。何がいい?」
「金持ちでハーレムを作る!」
特典と言われて、間髪入れずにそう答える。
異世界って言ったら、チート能力で、俺THUeeeeしてハーレムでウマウマっていうのが定番だよな。
「そういうのは自分で何とかしてください。ここで選ぶのは能力的なものです。」
蔑む様な目で、少女は、俺を見ながらそういう。
「能力か……。」
これはチート能力がもらえるってやつだな。だとすると、『鑑定』『無限収納』『空間転移』の三種の神器に『スキルメーカー』とか『スキル奪取』といったスキルを自在に操れる能力あたりか……。
あっ、無限の魔力とか全属性持ちといった、魔法関連も必要だよな。
「……一応言っておきますが、選べるのは一つだけですよ?」
「……そうなのか?」
「当たり前ですぅ。神の如き凄まじい力に矮小な人の器が耐えられる筈がないでしょ?常識で考えなさい。」
……転生だとかチート能力だとか、すでに非常識なんですが?
俺のその言葉が形になることはなかった。何故なら、業を煮やした少女がカウントダウンを始めて急かすのだから。
時間内に決めないと、勝手に選ぶと言われれば焦りもする。
結局、時間ギリギリで何とか答えたのだが、その直後に、俺は放り出され、気付けば、見知らぬ森の中で佇んでいた。
こうして、俺の異世界生活はスタートしたのだった。
よろしければ、ブクマ、評価をお願いします。