第二話:ここは天国(眼福)ですか? 戦乙女たちとの遭遇
ふわり、と。
背中を包み込むような、極上の柔らかさを感じた。
(……あれ? 俺、死んだはずじゃ……)
冷たくて硬い救命艇のシートの感触はない。無味乾燥なチューブのペーストの味も、喉をかきむしりたくなるような渇きもない。
代わりに鼻腔をくすぐるのは、ふわりと香る、甘くて清潔な花の匂い。そして、肌に触れるシーツは、帝国の自室にあった最高級の絹よりもさらに滑らかで心地よかった。
「ん……む……」
重い瞼をゆっくりと押し上げる。
視界に飛び込んできたのは、見慣れた無機質な宇宙の星々ではなく、清潔な乳白色の天井だった。暖色の柔らかな照明が、痛む目を優しく労ってくれる。
「おや、目が覚めたかい? 迷子のお姫様」
不意に、上から鈴を転がすような、それでいてどこか芯のある艶やかな声が降ってきた。
声の主を見上げようとした瞬間、視界が何かに『覆い隠された』。
「——っ!?」
それは、暴力的なまでの『質量』だった。
豊かな金糸の髪を揺らし、ローゼリアの顔を覗き込んできた大人の女性。彼女が身を乗り出したことで、軍服(あるいは制服)の胸元を押し破らんばかりの双丘が、ローゼリアの顔のすぐ目の前に迫っていたのである。
いや、迫っているどころではない。ふんわりとした甘い香りと共に、その柔らかな感触が頬に微かに触れていた。
「あ……う……?」
「ふふっ、まだ意識がはっきりしないかい? 無理もない。あと半日発見が遅れていたら、本当に宇宙のチリになっていたところだからね。よく頑張って生き延びた、偉い子だ」
女性は慈母のような、海より深い包容力に満ちた微笑みを浮かべると、ローゼリアの頭を優しく撫で始めた。
その瞬間、ローゼリアの脳内の処理速度が限界を突破した。
(——キタキタキタァァァッ!! なにこれ!? 誰この超絶グラマーな美人お姉さん!? てか胸! 胸当たってるから! 匂いヤバい! 最高の天国かここは!?)
前世の男としての本能が、歓喜の産声を上げてスタンディングオベーションを繰り広げている。
だが、表向きは『尊大で古風な大魔女』を演じている手前、ここで鼻の下を伸ばしてデレデレするわけにはいかない。ローゼリアは必死に顔の筋肉を制御し、咳払いを一つして、どうにか威厳のある態度を取り繕った。
「ふ、ふん……。妾を助けるとは、殊勝な心がけじゃ。大儀であった。褒めてつかわすぞ」
「おや」
尊大に言い放った華奢な美少女を見て、女性は気を悪くするどころか、目を丸くした後に「あははは!」と愉快そうに笑い声を上げた。
「これはまた、ずいぶんと威勢のいいお姫様だ。見た目は綿毛のように儚いのに、中身はライオンみたいだね。嫌いじゃないよ、そういう生意気な子は」
「なっ……生意気とはなんじゃ! 妾は……!」
「私はブリュンヒルデ・ローレンス。しがない傭兵団『戦乙女』を束ねる団長であり、この母艦『エインヘリアル』の艦長を務めている。よろしくね、小さなお姫様」
ブリュンヒルデと名乗ったその女性は、ウインクをして見せた。
(傭兵団『戦乙女』……! どこかで聞いたことがある。たしか、構成員がうら若き女性だけで編成されているっていう、宇宙でも有名な凄腕の傭兵団……! ってことは、この艦に乗ってるのは全員女の子!? マジで天国じゃん!!)
内心でガッツポーズをキメるローゼリア。
帝国での地獄のような扱いや、宇宙空間での絶望的な放浪の記憶が一瞬で吹き飛ぶほどの僥倖だった。神様、仏様、転生を司る何らかのシステム様、本当にありがとうございます。俺、この世界で強く生きていきます。
「それで?君の名はなんというのかな?」
「妾はローゼリア……ローゼリアじゃ。訳あって家を出て、宇宙を旅していたのじゃが、少々不運に見舞われてな」
流石に「エーベルヴァイン帝国の第二皇女です。実の兄にポイ捨てされました」と馬鹿正直に言う気にはなれず、ローゼリアは適当にお茶を濁した。
ブリュンヒルデは、彼女のボロボロの衣服や、救命艇の状況から事情を察したのか、それ以上は深く追及してこなかった。
「そうか。まあ、宇宙は広い。訳ありの過去なんて、星の数ほど転がっているからね。……さて、ローゼリア。君はまる二週間も漂流していたせいで、酷い脱水症状と栄養失調を起こしている。まずは身体を綺麗にして、流動食を摂るのが先決だ。立てるかい?」
「ふん、妾を誰じゃと思っておる。これしきの事……」
バッ、とシーツを跳ね除け、ベッドから降りようとしたローゼリア。
しかし、ただでさえ極端に低い身体能力に加え、二週間の飢餓状態にあった肉体は、彼女の精神に全く追いついていなかった。
足に力が入らず、生まれたての小鹿のように膝がカクンと折れる。
「あわわっ!?」
「おっと、危ない」
床に顔面から激突する寸前、別の誰かの腕が、ローゼリアの華奢な身体をふわりと抱き留めた。
「——無理はいけません。あなたの身体は、とうに限界を超えているのですよ」
凛とした、美しい声だった。
ローゼリアが恐る恐る顔を上げると、そこには、腰ぐらいまである長い金髪に透き通るような碧眼を持つ、息を呑むほど美しい女性が立っていた。
無駄のない引き締まった肢体を、実用性を重視したスマートな軍服に包んでいる。その佇まいは、古の絵画に描かれた高潔な聖騎士そのものだった。彼女の腕の中にすっぽりと収まったローゼリアは、その端正な顔立ちと、見つめてくる真摯な瞳に思わず心臓を跳ね上げさせた。
(えっ、待って。誰この超絶イケメン……じゃなくて、超絶美人なお姉様!? 顔面偏差値どうなってんのこの船!?)
「紹介しよう。彼女はリアンヌ・ヴァーミリオン。私の右腕であり、この傭兵団の副団長だ」
「リアンヌです。……こんな小さな子を、たった一人で宇宙に投げ出すなど。どんな事情があるにせよ、到底許される行為ではありません」
リアンヌは、ローゼリアのボロボロになった衣服と、痩せ細った身体を見て、眉間に微かにシワを寄せた。それは怒りだった。ローゼリアを虐げた『見えざる敵』に対する、純粋で高潔な怒り。
「リアンヌ、お風呂の準備はできているかい?」
「ええ、団長。大浴場を貸し切りにしています。私がこの子を連れて行きます」
「頼んだよ。ローゼリア、リアンヌは少し真面目すぎるきらいがあるけど、根はすごく優しいから安心して身を委ねるといい」
ブリュンヒルデが微笑みながら去っていくと、リアンヌはローゼリアを抱き上げたまま、歩き出した。
いわゆる『お姫様抱っこ』である。
(おおおおお!? ちょっと待って、恥ずかしい! でもめちゃくちゃいい匂いがする! このリアンヌって人、歩き方も全然ブレないし、腕のホールド感が凄まじい……! 騎士様だ、これリアル騎士様だ!!)
内心で限界オタクのように歓喜の声を上げるローゼリアだったが、表向きは必死に顔をしかめて抗議した。
「り、リアンヌとやら! 降ろせ! 妾は自分で歩けるぞ!」
「いけません。あなたは今、歩くどころか立つことすらままならない状態です。意地を張らず、私に頼ってください」
「くっ……妾を子ども扱いしおって……!」
「ふふ、子どもではありませんか。私の半分ほどの体重しかないのですよ」
リアンヌは、ローゼリアの抗議を柳に風と受け流し、どこまでも優しく、慈愛に満ちた微笑みでローゼリアの頭を撫でた。
その『聖女の微笑み』を至近距離で浴びたローゼリアは、(あ、これあかんやつや。好きになっちゃう……!)と直感し、顔を真っ赤にして俯くしかなかった。
エインヘリアル艦内の大浴場は、帝国の上級貴族が使うような豪華な造りだった。
広々とした空間に、湯気を立てる巨大な浴槽。白い大理石の床には、心地よい温水が絶えず流れ込んでいる。
「さあ、服を脱がせますね。バンザイしてください」
「なっ!? ば、ばかもの! 妾は自分で脱げる!」
脱衣所にて。リアンヌがごく自然な動作でローゼリアの服に手を掛けようとしたため、ローゼリアは慌てて距離を取った。
前世は男である。絶世の美女に服を脱がされるなど、刺激が強すぎる。
「ローゼリア。先ほども言いましたが、今のあなたに一人で服を脱ぐ体力はないはずです」
「あ、あるわ! 見ておれ!」
ローゼリアは意地になり、着古した服のボタンに手を掛けた。
しかし、指先が震えてボタンが外せない。もどかしさで力を込めた瞬間、足元がふらつき、大理石の床に背中から倒れ込みそうになった。
「危ない!」
リアンヌが瞬時に手を差し伸べ、ローゼリアの身体を抱きとめる。
「……っ。ほら、言った通りでしょう。あなたは私が思っている以上に、身体が弱っているんです。恥ずかしがる必要はありません。私たちは皆、家族のようなものなのですから」
リアンヌの瞳に、一片の邪念もなかった。
そこにあるのは、傷ついた小鳥を保護するような、純度百パーセントの『親愛』と『保護欲』だけだ。
(ううっ……こんな真っ直ぐな瞳で見つめられたら、断れるわけがないじゃないか……。それに、同性同士(今は)なんだから、お風呂で世話を焼かれるくらい普通……普通なんだよな!?)
ローゼリアは諦めて、目をギュッと瞑り、両腕を上に上げた。
「……すきに、せい」
「はい。いい子ですね」
リアンヌの手が、ローゼリアのボロボロの服を優しく脱がせていく。
汚れた布が取り払われ、ローゼリアの白磁のような、しかしひどく痩せ細った裸身が露わになる。リアンヌはそれを見て、一瞬だけ痛ましそうに瞳を伏せた後、手早く自身の軍服も脱ぎ捨てた。
(開眼……ッ!!)
ローゼリアは薄目で、リアンヌの脱衣を盗み見た。
無駄な脂肪が一切ない、それでいて女性らしい柔らかな曲線を描く完璧なプロポーション。真白な肌に、鍛え上げられた腹筋のラインが微かに浮かんでいる。まさに戦いを司る女神の肉体美。
(眼福……! 生きててよかった……帝国のゴリラ兄貴、宇宙に捨ててくれてありがとう……!!)
鼻血を出しそうになるのを必死に堪えながら、ローゼリアはリアンヌに抱えられて洗い場へと向かった。
「お湯の温度は熱くありませんか?」
「うむ……ちょうど良い」
温かいお湯が、二週間分の汚れと冷え切った身体を優しく洗い流していく。
リアンヌはスポンジにたっぷりの泡を立てると、ローゼリアの背中を、まるで壊れ物を扱うかのように優しく洗い始めた。
「……綺麗な金髪ですね。月光を紡いだようです。洗うのがもったいないくらいだ」
「ふ、ふん。妾の美しさに平伏すが良い」
「ふふ、はいはい。我が姫君」
リアンヌがくすくすと笑いながら、ローゼリアの髪に泡を馴染ませていく。
その手つきがあまりにも優しく、心地よくて、ローゼリアの強張っていた身体からすっと力が抜けていった。
(あかん……リアンヌ様の「マイ・プリンセス」、破壊力高すぎる……。心臓が持たない……)
「ローゼリア。あなたは、とても不思議な子ですね」
背中を流しながら、リアンヌがぽつりと呟いた。
「なんじゃ、突然」
「先ほど、あなたの脈を診たのですが……極端に身体の基礎代謝が低い。まるで、常に『別の何か』にエネルギーを吸い取られているような、そんな不自然な虚弱さを感じました。生まれつきの病か何かですか?」
ローゼリアは言葉に詰まった。
リアンヌの洞察力は鋭い。ローゼリアの極端な虚弱体質は、生まれつきのものではあるが、その最大の要因は『規格外の魔力』が常に身体のキャパシティを圧迫し続けているためだ。帝国では、その魔力を無理やり抽出され続けていたため、常に慢性的な疲労状態にあったのである。
「……病ではない。ただ、少しばかり魔力が人より多いだけじゃ」
「魔力、ですか……」
リアンヌは少し考え込むような素振りを見せた後、温かいシャワーでローゼリアの身体の泡を洗い流した。
「さあ、綺麗になりましたよ。湯船で温まりましょう」
ちゃぷん、と温かいお湯に身を沈める。
極楽だった。二週間の地獄の宇宙漂流から一転、絶世の美女とお風呂に入り、背中まで流してもらえるなんて。
「はぁ〜……極楽じゃ〜……」
思わず素のトーンで間延びした声を出してしまったローゼリアを見て、リアンヌが微笑む。
「無理して大人ぶらなくてもいいんですよ。ここでは、誰もあなたを傷つけたりしません。ゆっくり休んでください」
そう言って、リアンヌはローゼリアの隣に座り、ごく自然な動作で、ローゼリアの小さな身体をぎゅっと抱き寄せた。
「——っ!?」
「こうすると、温かいでしょう?」
「り、リアンヌ!? ち、近……! 肌が、胸が……!」
「ふふっ、顔が赤いですよ。のぼせましたか?」
リアンヌに悪気は一切ない。彼女にとってローゼリアは、守るべき小さな妹のような存在なのだ。だからこそ、防御力ゼロで無防備なスキンシップを図ってくる。
だが、中身が男であるローゼリアにとって、濡れた素肌と素肌の密着、そしてリアンヌの豊満な胸の感触は、刺激が強すぎて文字通り脳の処理が追いつかなかった。
(やばいやばいやばい! いい匂いする! 肌すべすべ! 違う、俺は立派な皇女(?)だ、ここで鼻血を出したらすべてが終わる! 耐えろ、俺の理性!!)
ローゼリアは必死に虚空を睨みつけ、般若心経を心の中で唱えながら、長すぎるお風呂の時間をなんとか耐え抜いたのだった。
入浴後、すっきりと清潔な船内着に着替えたローゼリアは、医務室へと連れて行かれた。
そこで待っていたのは、油まみれのツナギをだらしなく着崩した、小柄な少女だった。ボサボサの髪の奥から、度のキツそうなゴーグル越しにギョロリとした瞳がローゼリアを舐め回すように見ている。
「ひゃはは! こいつが行き倒れてたっていうお姫様? なんだよ、腕なんか枝みたいに細いじゃん。こんなの、戦闘機のG(重力)がかかったら一秒でミンチになっちまうぜ?」
「言葉を慎みなさい、フィーネ。彼女は患者ですよ」
リアンヌがピシャリと嗜めると、フィーネと呼ばれた少女は「へいへい」と肩をすくめた。
「彼女はフィーネ・ライオット。この艦の整備班長であり、メカニックの責任者です。口は悪いですが、腕は確かです」
「ふん、機械弄りの小娘か。妾をミンチなどと、ずいぶん舐めた口を利くではないか」
ローゼリアが尊大に鼻を鳴らすと、フィーネはニヤリと笑った。
「威勢がいいねぇ。まあいいや、団長からの命令でね。あんたの身体データと、一応『魔力量』も計測しておくことになってる。そこのカプセルに入んな」
フィーネに促され、ローゼリアは医療用のスキャンカプセルに身を横たえた。
ウィーン、という機械音と共に、カプセル内部に緑色のスキャン光が走る。
モニターの前でデータを眺めていたフィーネは、最初は「ふーん、やっぱり筋力も骨密度も平均の半分以下じゃん。完全なもやしだね」と鼻で笑っていた。
だが、スキャンが『魔力測定モード』に切り替わった瞬間、フィーネの顔つきが一変した。
「……は?」
ピーーーッ! と、医務室内に甲高い警告音が鳴り響く。
モニターに表示された魔力数値のグラフが、通常のパイロットの基準値を軽々と突破し、上限を振り切ってエラーを吐き出していた。
「な、なんだこれ!? 計測器のバグか!? いや、違う! 演算機が……熱暴走してやがる!」
フィーネが慌ててコンソールを叩くが、エラー表示は消えない。
彼女は信じられないものを見るような目で、カプセルの中のローゼリアを凝視した。
「おいおいおい……マジかよ。常人の数百倍……いや、それ以上だ。こんな魔力タンクみたいな人間、存在していいのか? これなら……あの『お蔵入り』になってるバケモノ機体すら……!」
「フィーネ? どうしたのですか?」
ただならぬ様子に、リアンヌが怪訝な顔で近づく。
フィーネは、興奮のあまり鼻からツーッと一筋の鼻血を流していることにも気づかず、狂気じみた笑みを浮かべた。
「ひゃはははは! 当たりだ、リアンヌ! とんでもないお宝を拾ってきたな! この子、身体能力はゴミカスだけど、魔力と神経系の反応速度は宇宙一のバケモノだぜ!!」
「……どういう意味ですか?」
「マギアナイトに乗せろって言ってんだよ! この子の魔力なら、艦隊の一個や二個、単機で消し飛ばせるかもしれねぇ!」
フィーネの物騒な言葉に、リアンヌは顔をしかめた。
「馬鹿なことを言わないでください。マギアナイトの操縦には、強靭な肉体が不可欠です。この子のような華奢な身体で操縦桿を握れば、機体の負荷に耐えきれず命を落とします」
「それは古い常識だろ! 魔力駆動の機体なら、魔力による疑似的な反発シールドでGを相殺できる! この子レベルの魔力があれば、肉体の負荷なんて完全にゼロにできるはずだ!」
「仮定の話で、この子を危険な目に遭わせるわけにはいきません。彼女は非戦闘員として、この艦で保護します」
リアンヌはきっぱりと断言した。
ローゼリアを戦場になど絶対に出さない。それは、彼女なりの優しさと庇護欲の表れだった。
しかし、ローゼリアにとって、それは由々しき事態だった。
(待て待て待て! 非戦闘員として保護って、それじゃあただの「居候」じゃないか! そんなんじゃ、いつかこの艦を降ろされちゃうかもしれない。俺の美少女ハーレム(予定)眼福ライフが!!)
この天国のような『戦乙女』にずっと居座るためには、自分が彼女たちにとって「必要な存在」であることを証明しなければならない。
ガチャリ、とカプセルを開けて、ローゼリアは身を起こした。
「——リアンヌ。フィーネの言う通りじゃ」
「ローゼリア?」
「妾を侮るな。マギアナイトの操縦など、妾にとっては手足も同然。造作もないわ。妾がただの『もやし』ではないこと、証明してやろう」
ローゼリアは、長い金髪をふわりと揺らし、尊大な笑みを浮かべた。
リアンヌは戸惑うようにローゼリアを見つめ、やがて小さくため息をついた。
「……分かりました。そこまで言うのなら。ですが、実機に乗せるわけにはいきません」
「ほう?」
「まずは、艦内のVRシミュレーターでテストを行います。相手は、この艦で最も厳しい『教官AI』プログラム。もしあなたが数秒でも生存できたら……あなたの実力を認めましょう」
リアンヌの提案に、フィーネが「ひゃはっ、面白ぇ!」と手を叩く。
「よかろう。その教官とやら、妾が完膚なきまでに叩き潰してやるわ」
ローゼリアの宣言により、事態は急転直下、彼女の入団を懸けたシミュレーターテストへと突入していくのだった。
それが、宇宙の常識を覆す『黒き死神』誕生の、最初の目撃者となることを、リアンヌたちはまだ知らない。




