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妖怪のいない異世界で百鬼夜行をどうすんだ? ――描くたび俺が削れる妖怪ブック  作者: 雪ノ瞬キ


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20話

 神殿は崩壊した。

 そこはスラムの居住区と言えるほどだ。


 瓦礫。


 黒く染まった祭壇。

 聖印が歪んでいる。


 生き残りの聖術師が震えている。


 彼らは言う。


「聖印が……反転した」

「解析不能です」

「呪いではない、侵食でもない」


 恐怖は理論で語られる。

 もう彼らは、聖術師ではない。


 ただのおびえる一人の人間だった。

 各々が頭を抱え、黒い影にすらおびえている。


 もうこうなると、普通の生活はおろか術などもっての他だ。

 塔だけでなく、神殿の組織も人もそして心もすべて破壊された跡地だ。


 もはや、この町で神殿の存在すら許されない。


 一つ潰しただけだ。


 だが――

 これで終わるわけがねぇ。


 来るなら潰す。

 だがそれじゃ足りねぇな。


 来させない形にする。


 その証拠に、神殿関係者と神殿関係はすべて黒く染まり、それ以外は無傷。

 逆に触れよう物なら、そこから黒が伝播する。


 もう使えない土地と瓦礫が街中に出来てしまった。

 周囲一帯を封鎖するしかない。


 それがこの町の現状だった。


 騎士団の建物の地下にある会議室。


 今はここに緊急で集められている。

 

 円卓。

 集められる面々は様々だ。


 白印大司教。

 聖印枢機卿数名。

 聖騎士団長。

 生き残りの大神官。


 空気は静かだ。


 怒号はない。

 

 当たり前だった。

 抗えない力と完膚なきまでに破壊された絶望。

 それは間接的に他の者の心に深く刻まれた。


 大司教が口を開く。


「七、か」


 枢機卿が資料を出す。

 古文書の記述。


 一:獣

 三:群

 五:領

 七:主


 空気が凍る。 


 報告。


 黒い鎧。

 黒い雷。

 呪印が聖印を乱す。

 物理破壊と術式破壊の両立。

 単騎突入。


 騎士団長は冷静。


「神殿は落ちた。だが騎士団は無傷だ。」


 大司教。

「これは怪異ではない」

「王だ」


 今更という顔を騎士団長はするが口にしない。

 これだからこの町の大司教は、行動が遅いのだ。

 見れば誰でもわかる。


 問題はそこではないのだ。

 単騎で戦況を変える。

 数の戦争がひっくり返る。

 

 まさに竜のごとく。

 竜であれば、1体で国が落ちる。

 人は滅ぼされる。

 その類の化け物だ。


 そもそも我らの領土を侵したのは、彼らだ。

 だが、我々は調査目的とは言え、拉致をした。

 それが、彼らの心に火をつけた。


 まんまと返り討ちにされた。

 今まで我らが様子を見ていたつもりが、逆だった。

 見られていたのは我々だ。


 そして、余計なことをしたため、壊滅した。

 触れ得ざる者としか言えない。

 

 それが騎士団長の思いだ。

 ならば、どうするか。

 奴等は、森を広げるだけで、この町には一度も攻め込んでいない。

 むしろ、広がるのは横であり、町を避けているとすら感じる。


 しかも先の戦闘では余計な殺生はしなかった。

 完全に関係する者だけを徹底的に破壊しつくした。


 だからこそ危険だ。

 アレは相応の知性がある。

 そしてある程度の分別もわきまえている。

 ならば、こちらから火の粉を向けなければいい。


 あくまでも様子見だ。

 そうでなければ、今度こそこの町ですら灰塵になる。

 恐れているのではない、余計なことはしないということだ。


 互いが浪費するだけだ。

 和平交渉は無理だろう。

 だから、このまま様子見。

 それが一番の最善策だと、団長は答えを出していた。


 だが、神殿側は少し違った。

 対抗策だ。


 魂干渉術の研究。

 七に対抗する階位の研究。

 中央聖都への報告。


 最後に。


「観測は続けよ」

 団長は目を閉じた。


 触れ得ざる者。

 それが今の答えだ。


 だが、いつまでも答えのままではいられない。

 あれはまだ、動いている。



◇森の側


 ペタン。ペタン。

 パチン。

 

 静かな地下の工房で音が鳴り響く。

 俺は粉をこねる。


 まあ、腹は減る。


 今回はカワが川へ。


 エビ捕獲。

 元の世界のエビによく似ていいる。

 身がしまっていて、オマールエビほどの大きさだ。

 これは天ぷらにしたら最高だろ。


 ヤベ、腹減ってきたぞ。

 めんつゆに近い物は手に入れてある。

 なので再現性はかなり高い。


 焔が火加減調整。

 凛が包帯のまま座っている。


 俺は麺を包丁で切り落とした。


 凛はまだかまだかと期待の目だ。

「あたい特盛な」


 わかるがいかん。

「却下だ」


 カワは無邪気に言う。

「雪さまは二個でいいよね?」


 雪、微笑。

 まあ、雪の救出祝いだ。

 卵は2個。エビは二尾でいいだろう。


 ユイが近距離。

 なんだ?

 そんな所で跪くな。

 それじゃ丸見えだぜ?


 ああ、見たいけど見れねぇんだよ。

 クソッすげーみてぇー!


 凛が睨む。

 今はやめろほんと。


 川エビ一人一尾。

 卵一人一個。


 俺は天ぷらを揚げる。


 パチパチパチ。

 ジュワー。

 香ばしい油の音だ。


 うどんの窯は湯気があふれる。

 地下が熱で温まる。


「よし、できたぞ」

「一応言うぞ。雪以外は卵一人1個な?

後、カワが捕まえてくれたエビは一尾な?」


 カワがはしゃぐ。

 凛が笑う。

 焔が黙々と食べる。

 雪がゆっくり口に運ぶ。


 俺も食べる。


 完食。

 

 アレ?

 なんだ?

 おかしいな。


 すこし間違ったか?

 味はする。


 少し間。


 うまいはずだ。


 でも――分からない。


 味が、残らない。


 ……これ、戻るのか?


 違和感は小さい。


 雪だけが俺の顔を覗きこむ。

 なんだ?

 俺の顔に何かついているのか?


 俺は皆に言う。

「次は守るだけじゃない」


 皆が頷く。


 湯気の中。


 雪の視線だけが静かだった。

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