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妖怪のいない異世界で百鬼夜行をどうすんだ? ――描くたび俺が削れる妖怪ブック  作者: 雪ノ瞬キ


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11話

◇森


 夜は静かだ。

 だが静かすぎる。


 鐘はもう鳴っていない。

 それでも、余韻だけが残っている。


 世界が、こちらを見ている。


 見ているだけじゃない。


 触れている。


 気配が、

 森の外まで伸びている。


 遠くで、

 誰かが息を呑む。


 遠くで、

 誰かが目を覚ます。


 届いている。

 

 ここで起きたことが、

 世界の端まで、

 染みている。


◇帝国・魔導塔


 賢者は空を見上げた。

「世界鐘は災害ではない。登録だ」


 部下が息を呑む。

「……十が立った」



◇王国


 王国は戒厳令を敷いた。

 北部は封鎖。

 夜は閉ざされ、

 町はざわついている。


「鐘の日の森だ」

「妖魔の主が立った」


◇神殿

 古い書物に囲まれた神殿図書館。

 そこで数十の本をテーブルに積み重ね研究を重ねていた。


 神殿学者は言う。

「古文書に“妖階”という記述がある」

「十階……だが、十の項が欠けている」


 断片を黒板に書き並べていた。

 一:獣

 三:群

 五:領

 七:主

 九:災

 十:――欠損


 学者は黒板を見つめる。

「十は欠けているのではない」

「意図的に読めない」


 汗が落ちる。


 誰かが、消した。

 記録から。

 歴史から。

 世界ごと。


 なぜだ。


 学者の手が、わずかに震えた。


 気づいてしまった。


 欠けているんじゃない。


 隠されている。


 読めないように、

 触れられないように、

 存在そのものを、

 遠ざけている。


 ……危険だからだ。


 記録に残せない。


 残せば、

 再現される。


 だから、

 消された。


 十は、

 そういうものだ。



◇森では。

 

 ユイが報告に上がる。

「零さま。森外三百歩圏で自然発生確認」


「描かずとも増えるのか」


「はい。主の影響が外へ出ています」


「分かるのか?」


「影は、主の変化を拾えます。常に隣にいますから」


 つまり、俺の影だから分かるってわけか。


 その時だった。


 空気が一瞬、張り詰める。


 雪が小さく身を抱いた。

「……寒い」


 空気が変わった。

 森の奥で、枝が一度だけ軋んだ。


「何がだ」


「世界が、零さまを受け入れました」

 その言葉が妙に残る。


 重い。


 空気が、

 一段沈む。


 押されている。


 上から。


 どこからでもない、

 “全体”から。


 ……見られている。


 選ばれている。


 拒否も、

 逃げも、

 もうできない。


「受け入れられた覚えはねぇがな」


 息を吸う。

 霜が一段濃くなる。

 受け入れられた。

 つまり――

 測られる側から、

 測る側に回ったってことか。


 ユイは報告を続けた。

「噂ですが住民に広がり続けています」


「教えてくれ」


「はい。北の森の夢を見る者が増えています。

鏡の影が遅れる、井戸水が冷たい。

皆、無意識に北を向くそうです」


「なるほど、空気が変わったか」


 ユイは神妙な顔をして言う。

「はい。そうだとみるべきです」


《第十妖階 到達》。

 あの日から、世界が変わった。


 雪は新たな憶測をのべた。

「零さまの影響が、外へ出ています」

「外縁は影響圏です」


 凛は、わからず質問をする。

「外縁を抑えるのか?」


 雪は淡々と答える。

「いいえ。昇格させます」

「外縁を“管理圏”へ」


 凛は外縁警戒強化。

 カワは水脈を外周へ。

 ぬりかべは境界厚調整。


 俺は命じない。

 雪が動かす。


 描いていない。

 それでも増えている。

 ……悪くない。


 雪は目を輝かせながら言う。

「町は封鎖されました。今が好機です」


 俺はこの機会を逃さない。

「確かに、封鎖は好都合だ」

「夜域も世界も寄ってるのか?」


 雪は即答した。

「違います」

「零さまが“基準”になったのです」

 

 凛は不思議そうに雪をみて言う。

「基準?」


 雪は続ける。

「夜域の法則が、森外へ漏れ始めています」

「ならば――統治圏として整備します」

 

 俺は雪に任せた方がいいと判断した。

「雪任せる」


 雪は恭しく礼をする。

「はい。零さま」


 そのまま雪は指示を始めた。

「凛。外縁警戒を二重化」

「カワ。水脈を外周に伸ばし、滲みを止めて」

「ぬりかべ。境界厚を調整。抜け道を潰します」

 

 俺は口を挟まない。

 その辺りは、雪に任せないと俺がもたない。



◇帝国側の賢者


 賢者は険しい顔つきで述べる。

「北部王国に階位十の主」


 部下は即反応した。

「討伐しますか?」


 まるで出来ることが前提のように言う。


 賢者は即、否定した。

「違う。――観測だ」

「十は、世界が試す」


 賢者は思う。

 窓から吹き込む風かいつもの香りと違った気がした。



◇再び森へ


 森は静かだ。

 だが今は――重い。


 世界が、こちらを見ている。

 息を吸う。

 吐く。

 霜が広がる。


「……見てるなら見ろ」


 俺は目を閉じる。

「測るなら――

俺の基準で測れ」


 森の鼓動が、一段だけ深くなる。


 世界は、静かに配置を変え始めた。


 変わっている。


 遠くの気配が、

 少しだけ近い。


 境界が、

 曖昧になる。


 内と外の区別が、

 薄れていく。


 森の外。


 そのはずの場所が、

 もう“外”じゃない。


 触れている。

 

 繋がっている。


 夜域の一部として、

 扱われ始めている。


 ……侵食じゃない。


 これは――


 上書きだ。


 世界の側が、

 定義を変えている。

 

 俺を基準に。


 静かに。

 

 確実に。


 誰の許可もなく。


 誰にも止められず。


 進んでいる。


「……面白ぇ」


 思わず口の端が上がる。


 逃げ場がないなら、

 作ればいい。


 与えられないなら、

 奪えばいい。


 測られる側じゃない。


 最初から――


 測る側だ。


 森が、応える。


 霧が、深くなる。


 夜が、一段濃くなる。


 世界はもう、

 元には戻らない。

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