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第二十一話 つながる未来

シオンの意識が深い深い夢に落ちた。そこで見るのは自分の過去なのか。あるいはーー

 シオンは夢のなか、街を歩いていた。時々お店の前で止まったり。何気なく空を見たり。かなり自由に見て回っている。

 そんなとき、声をかけられた。

「あ、いたいた。おーいーー!」

 シオンはその声に耳を疑う。ノイズが走ったように、声が歪んで聞こえた。それに、"シオン"の発音ではなかったのを、彼も気づく。

 振り返ると見たこともない男女がいた

「もう、君ったらこんなところまで散歩に来ていたんだ?」

「今日はパトロールって伝えていただろ?」

 赤髪の男性と金髪の女性。二人はこちらを見て親しげにほほ笑んでいる。

 シオンが考えるより先に、口が勝手に動いていた

「ごめんごめん、天気が良くてさ。」

「はぁ、お前は本当に呑気だな。ほらいくぞ。」

 赤髪の男性は自分の手をつかんで奥へ奥へと歩いていく。無理やりではなく、連れ出すような力加減だった。





 いろいろ、尋ねたいこともあったがシオン自身が話しかけることはできないようだ。時々相槌をしたり、目線を運んだり。


 まるで自分の体が自分のものではないように。


 そんな夢ううつのまま歩みを進めているとふいに赤髪の男性が首を傾げた。

「そういや、お前。ミツバからお誘い来てんだな?すごいよな。あんな大きなギルド組織見たこともないぜ。」

 ミツバ。夢を見る前に、リンに言われたギルドの名前だ。どうやら、ここはそのお誘いが来てからという記憶のようだ。

 自分はそれに小さく微笑んで顎に手を当てて答える。

「うん。でも、僕は断るよ。ここがいいから。」

「ええ〜?もったいないよ。」

 金髪の女性がそういい、自分の肩に手を乗せた。

「だって、君つよいじゃん。」

 柔らかい笑みを浮かべて、こちらを見ている。


 僕が、つよい?


 今のシオン、記憶を失った自分は戦闘方法はおろか、自分が魔法を使えるのかどうかさえあやふやだ。

 なのに、ここにいる人たちは自分のことをつよいと言った。

 そうなのだろうかと、

 いやなわけないと、


 シオンは言葉を詰まらせる。その様子に金髪の女性はぽんぽんと肩をたたく。

「もう、自覚ないんだから。"あの"属性を使いこなせるのきっとこの世界で君だけだよ。ただでさえ貴重なのに君はどんどん見つけていく。扱っていく。私も二つしか使えませんよ。」

「いやいや、あんたもすごいって。俺なんて一個も使えねぇよ。」

 二人は本当に親しげに話している。自分もそのなかに加わっている。


 シオンだけが理解していない。

 あの属性とはなんだろう。

 この人たちの名前は?関係は?

 パトロールをするのは仕事からか?


 そう思考が回りだすと視界が揺らぎ始めた。レンガの輪郭が彼らの表情がぼやけて、あいまいになっていく。「赤や黄色、茶色の景色が渦を巻くように回り始める。


 シオンは手を伸ばした。


「まって……僕の名前は……?その属性は?二人の名前は?」


 そこで、夢は終わった。




 どこからか声が聞こえる。

「……主殿?気が付いたか?」

 目を開けると、赤紫色の髪をした使用人アヤメがいた。シオンの頭を優しく撫でながらいう。

「疲れがたまった……というわけじゃないな。何か見たのか?」

 まだ意識がぼんやりしている。シオンはまばたきを繰り返していた。アヤメはその姿を見てふっと息を吐く。

「今は休みな。後でゆっくり聞かせてもらうよ。おかゆ温まってるから食べな。」

 アヤメが指さしたのは、まだ白い煙の立つおかゆだった。青髪の使用人ブルーが作ってくれたのだろう。優しい香りが部屋を包み込んでいた。

 シオンはアヤメを見て「ありがとうございます。」と感謝を述べる。彼女はコクリとうなずくと部屋を出ていった。


 シオンは再び一人になる。だが、寂しい気持ちはしなかった。窓の外はすでに暗くなっており、紅葉の色も見えにくくなっている。赤、黄色、そのほかの色もちらついていた。


「あの人たちはいったい……。」


 混乱しているだけでは何も変わらない。そう思ったシオンは手帳にメモを残した。

 かつての記憶の断片がびっしり書かれている。と思ったが、実際にはまだ一ページほどしか進んでいない。


 レンガの道。

 高く並ぶ建物。

 声をかけてくれた男性と女性の特徴。


 意外にも覚えていた。だが、名前やどんな場所だったのかなどの詳細は忘れてしまったらしい。シオンは眉をひそめた。

 今までで一番近い記憶の断片だったのだ。


「どうして、思い出せないんだ。」


 いつもの敬語が崩れた。シオンは頭を抱えて目を伏せる。


 ずっとそうだ。

 何も思い出せない。

 手がかりも何もない。


 何かをしようにも何をすればいいのかわからない。


 まるで、体は大人でも中身は赤ん坊のように空っぽだ。言われたことしかこなせない、ロボットだ。

 最近は抱えてこなかったはずの恐怖がシオンの心を襲う。聞いていないはずの幻聴が耳を支配する。

<記憶の管理者が記憶喪失?笑わせるね。>

<それって本当に主としてふさわしいの?>

 そのとき、扉の音がした。


 そこには例の金髪の男リンが目を細めてそこに立っている。見られたと思い、シオンが目を見開くとリンはクスッと笑った。

「なーんか、安心したわ。記憶がなくても性格変わんなくて。」

「え……?」

 リンは特に制限なくこの館にいるのか、そっと近くの椅子に座る。そしてにやりと笑う。


「お前は昔からそうだ。強いとか弱いとか関係なしになんでも先を見て行動する。ああすればみんなはこう反応する。しなかったら好反応する。そう信じて疑わない。」


 頬杖をついてさらに言う。


「それに、だれにも頼らず自滅する。今もそうだろ?周りは手を差し伸べているのに気づきながら、自分だけで悩む。壁を立てて引きこもっている。でも……」


 リンは立ち上がって言う。

「一番考えてる。それができないやつに俺はぜったいスカウトなんかしないわ。」


 その笑顔はシオンにとってとてもまぶしかった。

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