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第108話 静かに分けられる札

連続投稿です。

106話からお読みください。


朝。


ギルドの掲示板は、

いつも通り埋まっていた。


銀貨。

銅貨。


距離。

時間。

危険度。


だが――

よく見れば、

並びが少し違う。


(……あれ)


下段の一角。


銅貨札が、

三枚。


距離は短い。

人目がある。

期限は日没前。


内容は地味だ。

•町外縁の見回り補助

•倉庫裏の確認

•水路沿いの異物確認


報酬は、

銅貨四〜五。


(……まとめられてる)


偶然じゃない。


昨日まで、

これらは別々の位置に貼られていた。


今は――

“同じ列”だ。


トアは、

何も言わずに近づく。


読む。


全部、

読める。


危険は低い。

だが――

判断を間違えると、

一気に厄介になる内容。


(……向いてる)


自分に。


一枚、

剥がす。


水路沿いの確認。


受付に出す。


女は、

書類を一度見て、

次に掲示板を見る。


一瞬だけ、

視線が戻る。


「……これ、今日中でいいな」


「はい」


「じゃあ、これも一緒に」


差し出されたのは、

小さな紙。


“追加確認”。


報酬は、

変わらない。


だが――

内容は、

少しだけ踏み込んでいる。


(……増えたな)


断る理由は、

ない。


受付は、

淡々と続ける。


「終わったら、

どっちも報告書を書いて」


「時間は気にしなくていい」

「暗くなる前なら」


それだけ。


周囲は、

気にしていない。


だが――

一人だけ、

見ている者がいた。


壁際。


カナ。


腕を組み、

掲示板ではなく、

“人の動き”を見ている。


(……やっぱり)


札を選ぶ速度。

迷わない手。

受付とのやり取り。


(……もう、

選ばれてる)


トアが、

外へ向かう。


その背中を、

目で追い――


一歩、

前に出かけて、

止まる。


(……まだだ)


声をかける理由が、

足りない。


仕事を奪うわけでもない。

助けが必要な様子でもない。


今は――

“ギルド側がどう扱うか”を、

見る段階。


カナは、

受付に目を向ける。


掲示板の下段。


さっきまであった札が、

一枚、

外されている。


代わりに、

似た内容の札が、

その列に追加された。


(……分けたな)


初心者向け。

失敗しても被害が広がらない。

だが――

“見て判断できる者”向け。


(……子ども用じゃない)


カナは、

小さく息を吐く。


自分が、

直接手を伸ばす前に――

もう、

居場所が作られ始めている。


「……面白い」


呟きは、

誰にも届かない。


外。


トアは、

町外縁へ向かう。


今日も、

走らない。


近道もしない。


ただ――

与えられた札を、

確実に終わらせるために。


その背中を、

ギルドの中から、

一人の冒険者が見送っていた。


声をかけるには、

まだ早い。


だが――

次に札が足りなくなった時、

真っ先に思い出される名前は、

もう決まっている。


ローディス王国領の町、

オーレム。


少年は、

まだ何も知らない。


だが――

ギルドの中で、

「向けられる仕事」が、

静かに変わり始めていた。


それは、

声をかけられる前の、

確かな一歩だった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

小さな選択の積み重ねを意識して書いています。

何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。

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