第107話 一人で行かせる理由
連続投稿です。
106話からお読みください。
朝。
町の門が、
完全に開ききる前。
ギルドは、
もう動いていた。
掲示板の前に、
人は少ない。
上段は、
昨夜のまま。
下段に――
一枚だけ、
見慣れない札がある。
距離:町外縁
時間:日没前
内容:確認・回収
報酬:銅貨五枚
(……昨日、言われたやつだ)
条件は、
重すぎない。
だが――
“半日仕事”ではない。
人目はある。
だが、常にではない。
一人で動くことを、
前提にした札。
トアは、
札を剥がした。
受付に出す。
名前。
木札。
確認。
「……今日は、一人ね」
「……はい」
受付の女は、
何も足さない。
代わりに、
依頼書の端を指で叩く。
「戻りは、日没前」
「無理だと思ったら、引き返していい」
まただ。
“やれ”じゃない。
“判断しろ”。
(……分かった)
門を出る。
朝の外縁は、
静かだ。
農具を担ぐ人。
荷車。
見回りの兵。
危険は、
ない。
だが――
油断は、
生まれやすい。
道を、
覚えて歩く。
近道は、
使わない。
人の通る線を、
なぞる。
(……急がない)
依頼地点。
木の印。
この前と同じ形。
位置は、
変わっていない。
倒れてもいない。
動かされてもいない。
(……管理されてる)
誰かが、
“触らずに見ている”。
それが、
分かる。
周囲を見る。
足跡。
土。
草。
異常は、
ない。
だが――
少しだけ、
“流れ”が違う。
(……弱い)
魔獣じゃない。
精霊でもない。
残り滓。
ここで――
何かが起きた。
だが、
もう終わっている。
(……やることは、ない)
印を、
回収する。
無理に、
追わない。
確認して、
引く。
それが、
今日の仕事だ。
帰路。
日が、
高くなる。
腹は、
少し鳴る。
(……戻ってからだ)
途中、
別の依頼の一団とすれ違う。
三人。
軽装。
余裕の顔。
一瞬、
視線が交わる。
(……違う世界だな)
だが――
羨ましさは、
ない。
夕方。
ギルドへ戻る。
依頼書。
印。
「……問題なし」
受付は、
一拍置いてから、
銅貨を置いた。
五枚。
「判断、良かったわ」
それだけ。
評価は、
短い。
だが――
はっきりしている。
外へ出る。
夕方の空。
町は、
今日も変わらない。
だが――
自分の立ち位置だけが、
少し変わった。
一人で行かせた理由。
それは、
強いからじゃない。
“戻れる判断をする”と、
見られたからだ。
ローディス王国領の町、
オーレム。
少年は、
一人で行った。
だが――
一人で抱えなかった。
それが、
次に進む条件だった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
小さな選択の積み重ねを意識して書いています。
何か感じた点があれば、感想で教えていただけると嬉しいです。




