side story:マリー 「3.光が差す方へ -1」
はじめまして、宵月の兎です。
この作品を読んでくださってありがとうございます。
楽しんでいただけますと幸いです。
ゆっくり更新ですが最後まで頑張ります。
(――わたくしはどうしてあの時……)
「……嬢? 」
(――このままでは、お嬢様は……)
「……マリーじょ……?」
(――どうしたらいいの…?)
「マリー嬢!!」
「――か、カイル様!? 一体どうされました?」
ベッドで静かに眠るお嬢様の手を握りしめたまま、いつの間にかわたくしは思考の海に沈んでいたようです。
「はぁ……。マリー嬢、何か食べて少しでも眠らないと、このままではあなたまで倒れてしまいますよ?」
護衛騎士のカイル様は少し呆れつつも、心配そうに眉尻を下げながら言います。
あの日……
お嬢様が塔の最上階にある自室のバルコニーから突き落とされ、カイル様に助けられた“あの夜”から丸二日が経ちました。
お嬢様は目を覚ます気配さえなく、静かに眠り続けています。
◇◇◇◇◇
——あの夜、わたくしは自分の目に映る光景すべてが信じられませんでした。
本邸の洗濯場からの帰り道。
ゆるく傾斜になっている坂を上り切った所で、一度立ち止まり「ふぅ」と一つ息をつきます。
視線の先に見えるのは……暗闇の中、明るい月に照らされて浮かび上がる真っ白な塔。
まだ少し遠いそれを視界に捕らえたわたくしは、『早く戻らなければ!』と気合を入れ直して先を急ぎます。
両手で洗濯籠を抱え直し、月明かりを頼りに歩いていたわたくしは、転んでしまわぬよう足元ばかりを見ておりました。
~♪
「――え?」
(今なにか……鈴の、音?)
耳鳴りのような静けさの中で、
不意に耳元で聞こえた鈴の音に誘われるように、わたくしは顔を上げました。
まだ少し遠い塔の最上階のバルコニーの端。
かすかに見えたのは——
「……なっ! どうして!?」
半刻前、確かにわたくしが寝支度を整えて差し上げたお嬢様が、白いネグリジェの裾をはためかせながら、バルコニーで何者かに追い詰められている姿が目に飛び込んできたのです。
「そんなっ! 一体何が起こっているの!?」
一瞬、動揺で頭が真っ白になりましたが、犯人は分かりきっています。
わたくしは唐突に、今日あったこと全てが“仕組まれていたのだと理解しました。
「――ッ!! 迂闊だった……よりによって、お嬢様おひとりのところを狙われるなんて! 」
思えば、あの嫌がらせをしてきたハウスメイド達は皆、奥様のお部屋付きの者たちばかりでした。
理解したところで、事態はすでに最悪に向かって動いてしまっています。
わたくしは洗濯籠をその場に投げ出し、脚に纏わりつくスカートの裾をたくしあげながら精一杯走ります。
しかし――
依然として目指す塔は遠く、到底わたくしの脚では間に合いそうもありません。
この状況に絶望しながらも、視線の先には……
背筋をピンと伸ばし、恐怖に負けることなく顔を上げ毅然と立ち向かう小さなお嬢様がいらっしゃいます。
わたくしは、主のその気高いお姿から片時も目を離すことがでませんでした……
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
あの夜に起きた出来事を、マリーの視点から紐解いていきます。
恐怖と焦りの中、それでも走り続けたマリーが見たものとは——。
次話もお付き合いいただけたら嬉しいです。
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