第35話
約束とは、そこに根を生やしては縛り付ける呪いの言葉。
ううん、違うかな。
それはあなたを守るための唯一の嘘。
こんなにも、「おはよう」と一言伝えるのが怖くなった日はなかった。
それを言ってしまえば一日が始まる。新しい時間が進んでしまう。
昨日とはなにかが変わってしまう……。
栄枯盛衰。盛者必衰。そんな言葉がある。だからこそ不変なものなど存在せず、なにものであれ……老いて古びて腐って失せていく。
そのくせ、時間とはその均衡を崩しはしない。その感覚を狂わせたりしない。一秒一秒を確かに正確に刻んでいく。
それをこれ以上憎いと思ったことは私も初めてだった。
だって、今日が始まれば私は笑美を違う視点から見てしまうから。笑美を自然には見られないから。
ずっと警戒して注意して気を張っていなければ突然いなくなってしまうかもしれないから……。
「あ、おはよう涙お嬢」
その口元から音符でも舞っているのかと錯覚させるほど、この子は軽やかに挨拶をしてくる。
ベッドで並びあい、横たわりながら見つめ合う姿勢のまま。
「ええ、おはよう。笑美」
対して、私の挨拶は果たしてちゃんと笑えていただろうか。
口角を自意識上では上げていたつもりだった。それでも、心がそんなにも穏やかになってくれるわけでもないもの……。
昨晩は最悪の夜を過ごした。できるだけ目を瞑っても、暗闇の視界の中で思い描かれるのは笑美のことばかり。
ふと意識が飛んで眠りについたかと思えばむたすぐに覚めては笑美がちゃんとそばにいるかの再確認の繰り返し……。とても休まるどころではなかった。
おかげで寝不足ということもあり、今は少し頭が重い。
「もうなんかこの生活に慣れちゃったからさ、夏休みが終わったら元に戻れなさそうな気がする」
そう言いながら笑美はころころと笑う。
「あ、そういえばさ。まだ途中だけど、宿題だいぶ終わってきたじゃん? まだ夏休みあるじゃん? たまには一緒にどこか行かない?」
今度は少しおねだりするようなうるうるとした瞳で私を見てくる。それはいわば、私が宿題を終わらせてからなしなさいとでも言うと思っているのはかしら。
残念ながら、私はあなたの母ではない。あいにく僥倖ながら、私はあなたにとことん甘いようなのよ。
「ええ、いいわよ。それなら……一度学校とかどうかしら?」
「え、学校……?」
なんで? とあからさまに不審に思っている顔をしている。
それもそうで、笑美はまだ自分が置かれている状況を把握していない。自らの携帯を開かなければ確認できない事実を、私はフライングして言及している。
「その、申し訳ないのだけれど……昨日あなたの携帯が少し見えてしまって」
「え…………」
見るからにかなり焦った様子に切り替わった。さっきまでのふわふわした雰囲気が一気にぴりっと凍りつく。
もしかすると地雷を踏んでいるのかもしれない。というよりも絶対に笑美からすれば見られたくないものに違いなかった。
でも、だからこそ。
これを私がいないときに笑美が見て、勝手に一人で危険な目に遭わされる方がいやだった。
せめて、私にだけは一緒に立ち向かわせてほしいのよ。
そこで笑美は急いで後ろに振り返り自分の携帯を掴み取る。開いてはその中身を確認しているのでしょう。
「あ、ほんとだ……ママからだ」
「ほんの少ししか見えてなかったから、私もほとんど内容は見てないわ……」
「ううん、気にしないで。むしろありがとう、教えてくれて」
あなたは私の嫌なことをしたつもりだろうけれど、気にしないで。そう言われた。でも実際、笑美にとって私がしたことは逆鱗に触れていてもおかしくはない。
だというのに……この子は、おそらく。
「それで学校かぁ……いやいや違うでしょお嬢」
「え?」
「これは私が一人で行ってくるよ。なんか進路希望の紙を夏休み前に提出してほしいって言われてたらしいんだけど、私忘れちゃってたみたいでさ」
「そ、そうなの……」
案外、普通の連絡で安心した。もしかすると笑美が今、咄嗟に捏造している作り話かもしれないと一縷の懸念を秘めながら……。
「だから今日私、朝一人で学校行ってぱぱっと渡して帰ってくるなら、お昼からどこか散歩でもなんでもいよ!」
「え、ええ……」
「そんな心配そうな顔しないで!大丈夫だから!もしなんかあってもすぐ走って帰ってくるから」
「いや、でもそれくらいなら私も付いていくわよ……」
「ううん、大丈夫だから! なんかお嬢まだ眠そうだしゆっくりしてて。あ、でもなんかあったときお嬢に連絡するからそのときはすぐにでてよ!」
「ええ、もちろんすぐに出るわ」
「おっけ。じゃあなにも問題ないよ! あ、あと私が出て行ってる間にどこ行きたいかお互い考えてようね! 約束!」
「…………分かったわ」
内心、納得なんて当然していない。
危険度が高いことなんて承知の上だろうし。笑美の言っている内容には確かに問題点はないだろうけれど、決して拭えない猜疑心は私に衝動を駆らせる。
それよりも、そのあと楽しみたいから。このまま私が付いて行っても、そこで得られるのは私が証人になれることだけ。
私だけがその事実を理解できてすっきりするだけ。
だったら、待っているのも一つの正解なのよね……。
私は笑美を信じることにした。なにかを隠していることは知っている。その中身についても察しはつく。
それでも、私は信じることを選んだ。
「じゃあ、行ってくるね!」
準備を済まして、制服姿になった笑美は、私に笑ってみせた。
「ええ、待ってるわ」
どうもおはようございます雨水雄です。
ようやく日照時間も長くなり、気温も落ち着いてきて過ごしやすい時期になってきたなと日々過ごしながら実感してます。あ、これは別に冬に反抗してるわけではないですからね!決して!
とまぁ、4月も半ばごろになり、新しい生活が始まった多くの方々も環境に慣れたり親しい友人ができたり、いやはやまだまだ苦労の毎日ですよだったり様々だと思います。
雨水自身は正直もうあまり大きな変化があるような春をここ数年はないのですが、それでもなにかしら考えて動いて新発見をいつも探しています。
そんな今年は!まぁ、たぶん5月にはなっちゃうと思うんですが!念願の!
歌ってみたとか動画投稿してみたいなぁ……とか企んでたりしてます。まぁ、なんか影でこっそりやってるラジオでは勝手に歌ったりしてるんですけどね……でもやっぱり歌ってみたはちょっと気合いの入りようが違うというかなんというか……ワクワクしてます。
とまぁそんな感じなので、もしお暇があればまた雨水の部屋でも覗いてみてください。
さて今週もここまで読んで下さりありがとうございます。
では来週もよければここで。




