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外伝 Ⅹ 勇者と聖女~はじまりの物語~⑦

明日、単行本11巻発売です!!

すでに書店に並んでいるところもございます。

お立ち寄りの際には、ぜひよろしくお願いします。


挿絵(By みてみん)

「ごめんなさい」


 パフィミアの第一声は謝罪から始まった。

 レオハルトは意味がわからず、ボケッと少女の小さな背中を見つめる。


「シャロンを護衛しろと言われていたのに……。持ち場から離れてしまいました」


 レオハルトはそれを聞いて、何か言いかけたが、叱責することはなかった。

 こんな状況に誰がまねいたのか。

 それがわからないほど、レオハルトは馬鹿ではなかったのだ。


「レオハルト様。まだ動けますか?」


 パフィミアの言葉は、実に冷静に響いた。

 フロストファングの吹雪よりも、レオハルトのカッカした頭には良かったらしい。

 少しだけだが、状況を理解する余裕が生まれる。


「足の怪我は……正直、走るのは難しい。戦闘は無理だ」


「歩けるんですね。……なら撤退してください」


「簡単に言うな。今の状況をわかっているのか?」


 レオハルトは苦虫を噛みつぶしたよう顔をする。

 この状況を招いたのは、間違いなく自分であることは理解した表情だった。


「怪我人が3人もいるんだ」


「いいえ。2人よ」


 声がしたほうに顔を向けると、ミレイユが立っていた。

 先ほどレオハルトが戦っている間に、シャロンが回復魔法で回復させていたのだ。


「ミレイユ! 気づいたのか! よし。それなら」


「いいえ。撤退しましょう!」


「何故だ? 回復役のお前がいれば」


「あなたたちを回復させている間に攻撃されるのがオチよ」


「ぐっ!」


 レオハルトは唇を噛みしめた。


 この3人の中で、敵の動きを止める役目を負うのは、ガルドだ。

 そのガルドが負傷し、満足に戦えない以上、フロストファングに対して時間を稼ぐ者はいない。


「ボクが壁役になります」


「パフィミア!」


「はあ!? お前が――――」


 レオハルトは眉尻を上げる。


 しかし、パフィミアは本気だ。


「ボクの身体の頑丈さは、レオハルト様がよく知ってるでしょ」


「――――!!」


「その代わりと言っちゃなんだけど、シャロンを安全な場所に届けてください」


 沈黙が降りた。

 いや、その間もフロストファングは待ってくれない。

 ドン、と巣穴の中で地響きを起こしながら、すっかり動かなくなった獲物たちのほうへと歩いてくる。


 時間はなかった。


「パフィミアにやらせるしかねぇ」


 ガルドは腕をかばいながら、近づいてくる。

 ミレイユも頷いた。レオハルトも渋々といった様子で頷く。

 1人反対したのは、シャロンだった。


「パフィミア! ダメです」


「大丈夫だよ、シャロン。別に死ぬわけじゃない。みんなが逃げたら、ボクも適当に逃げるからさ」


「本当ですか?」


「うん。安心して。フロストファングの扱いには慣れてるからさ」


 パフィミアはシャロンを安心させるように笑う。

 そしてシャロンの身を手負いの勇者候補に預けた。


 4人が撤退するのを見ながら、パフィミアは振り返る。


 そこには自分の背丈よりも4倍は大きいフロストファングが立っていた。


「さて。フロストファング。ボクとちょっと遊んでもらうよ」



 ◆◇◆◇◆



「クソ! まさかこのオレが逃げることになるとは!」


 巣穴から無事離脱したレオハルトは、開口一番に悪態を吐いた。

 気位の高い魔法騎士は、憎々しげに巣穴のほうを睨む。

 そんな同僚を治療しながら、ミレイナは軽くため息を吐いた。


「生きてるだけいいわよ。あの子に感謝しなくちゃ」


 指摘されてレオハルトは怒鳴り散らしていた口を閉じる。

 奥歯を強く噛みしめ、悔しそうに眉根に力を入れた。


 わかっているのだ、レオハルトは。

 身分が下のパフィミアに救われたことに……。


 レオハルトは下郎というわけではない。

 一般的な思考を持つ騎士階級の人間だ。

 そして騎士とは国、王、そして民を守る責務がある。

 国民を守護する立場にあるからこそ、胡座を掻いていられる。

 そういうことがわかっているタイプの騎士だ。


 そんな騎士が、獣人とはいえ国民の1人でもある少女を置いて逃げてきた。

 しばらく騎士団の笑い草になるのは間違いない。

 いや、それぐらいならまだマシだ。


「態勢を立て直したら、すぐに戻るぞ」


 レオハルトが言葉を搾り出すと、ミレイナは笑った。


「おい。ちょっと待て」


 と言ったのは、腕の傷を抑えたガルドだ。

 血相を変えて、辺りを見回している。

 察しのいいミレイナも、はたと気づいて辺りを伺った。


「シャロン様は?」


「何? いないのか?」


 レオハルトも立ち上がって、辺りを見回した。

 しかし、どこを見ても、小さな聖女の姿はない。

 そもそもいつからいないのかすらわからなかった。

 慌ててたとはいえ、レオハルトたちは自分たちの迂闊さを呪う。


「逃げるときはいたわよね」


「じゃあ、まだ巣穴にいるときか。たぶん引き返したんだ」


「ミレイナはガルドの治療を。オレは先に戻る!」


「ちょっ! 待ちなさい、レオハルト!! ――――ああ。もう!」


 拙速なレオハルトの行動に、ミレイナは頭を抱えるのだった。


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挿絵(By みてみん)


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挿絵(By みてみん)

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