外伝 Ⅸ ある魔王の最期(後編)
☆★☆★ 3月9日 単行本11巻発売! ☆★☆★
《「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる》の単行本11巻が発売されます。ついにセイホーン王国篇がラスト。新章も新キャラに加えて、ついにブレイゼルのお話に片足を突っ込みます。見所満載なので、予約をよろしくお願いします。
言っちゃあなんだが、魔王というのは因果な存在だ。
名君と持ち上げられる一方で、魔王ゾーラという存在によってこの世から存在を消された者たちは数知れない。
特に魔王ゾーラ様は、旧魔王ブージャルガとの魔界内戦において、多くの魔族と敵対し、勝利した。それによって救われた命もあれば、散っていった命もあって、かつゾーラ様を恨む魔族もまた少なくない。むしろ賛美の声よりもずっと多いかもしれない。
敗者となった魔族たちが、ゾーラ様に向けたのは、特大の呪いだ。
自分の死によって完成される呪いは、呪法の中で一番きついヤツである。
ゾーラ様はブージャルガの次に魔王になることによって、その呪いのすべてを受けている。
おかげで、全盛期の半分の力も出せてないらしい(本人談)。
正直、その呪いを消すのは不可能だが、俺の死属性魔法――具体的にいうと、【即死】の魔法は対象を理解すれば、あらゆるものを消すことができる。
呪いもしかりだ……。
ゾーラ様を蝕む呪いを即死させることができれば、寿命を延ばすことができるかもしれない。
――なのだが。
「お断りだよ」
「は?」
一瞬、何を言ってるかわからず、俺は最強の魔王を前にして唖然としてしまった。
え? 何? 今、断られた???
嘘だろ。寿命が延びるんだぞ、
手放しで喜ぶのが普通だろ。
(この魔王様はなにを考えているんだ??)
「り、理由を聞かせてもらっても……」
「責任だよ」
「責任?」
「ほら。僕って強いじゃない」
自分で言うのか……。
まあ、間違ってはいないけどよ。
「人も同族も結構殺しちゃってるわけよ」
「まさか後悔してるんですか?」
「いやいや。まさか……。僕が殺さないと、今の魔族も――てか、君も生まれてこなかっただろうさ」
それはそうだが……。
「でもさ。命を奪うのってあんま気分のいいものじゃないじゃん。亜屍族の君に言うことでもないけどさ。……殺されたら殺されたで、恨み辛みがあるのは当たり前なんだよ」
「それは理解できますが」
俺が同意すると、ゾーラ様は「プッ」と噴き出した。
部下を笑ったり、いじったり、この主君は何をしたいんだ?
「理解って……。カプソディアくん。君さ。やっぱノンデリっていうか、魔族らしくないよね。やっぱ亜屍族だからかな。今の僕の言葉を聞いて、魔族の口から『理解』なんて言葉は出てこないよ、普通」
それもそうかもしれない。
仮にブレイゼルなんかが聞いたら、「女々しい!」と魔王様を呪った者たちに向かって激昂したに違いない。
そういう意味では確かに俺は、一般的な魔族と比べて死生観が異なる。
ゾーラ様の言う通り、俺が亜屍族であることが影響しているかもしれない。
「改めるべきですかね?」
「いいや。むしろ心強いよ。それはたぶん未来に魔族のあり方において重要だと思うよ。仮に人類と和平的な解決をする時とかね」
「は? 人類と和平?」
そんな未来あり得ないだろう。
「わからないよ。……案外、君が和平の大使になっていたりしてね」
「それも【未来視】による未来ですかね」
「さて、どうだろうか」
ゾーラ様は悪戯っぽく笑ったように思えた。
ここがはっきり言えないのは、やはりその表情が見えないからだ。
「話は戻しますが、責任とは?」
俺は話を戻す。
この主君と喋っていると、脱線ばかりだ。
「君主ってさ。言わば、最高責任者なわけじゃない。敵味方関係なく、君主ってのは命の責任を負わなければならない。少なくとも僕はそう思っている。彼らの恨みが呪いとなって降りかかっているなら、それも負わなければならない。簡単な理屈だろ?」
「でも、その呪いでゾーラ様が死ぬんですよ」
「それが僕の寿命ってことさ。……むしろ僕は自分だけに呪いが向けられたことをホッとしているぐらいなんだよ」
その話を聞いて、俺はハッとした。
最近ではすっかり丸くなられたが、昔のゾーラ様はかなり怖かったそうだ。
敵に見せつけるように残虐な殺しもしたという。
でも、それは自分に呪いを一身に受けるためだったなら、今と昔の差も説明がつく。
「それにね、カプソディア。僕の呪いに占められている大部分はブージャルガのものだ。君はそれをどうするつもりだい?」
「それは勿論即死させますよ」
「君の命を使ってかい」
「……!」
思わず息を呑むと、ゾーラ様はまた「プッ」と笑った。
「何を意外そうな顔をしてるのさ。言っただろ。君は薄情のヤツだと。いざとなれば、友達の命を差し出すと。そんなヤツが真っ先に差し出すのは、決まって自分の命なんだよ」
「……知っていたんですね」
「先に言っておくけど、【未来視】じゃないよ。君ならそうする。【未来視】なんて使わなくても、大事な部下がやりそうなことぐらい予想はつくさ。馬鹿だねぇ。死んでる亜屍族の君が自己犠牲になんて本当に笑えない冗談さ。何のために君にその身体を与えたと思ってるんだい?」
「身体? ゾーラ様は俺の身体について何か知っているんですか?」
親父が言うには、俺の身体は割といわくがあるものらしい。
なんでも俺にマッチする身体がなくて、人類圏から死体をかっぱらってきたとかいう話だが、詳しくは教えてくれなかった。
「おっと……。これは口が滑ったな」
「あ。ちょっと……」
「子どもが生まれるんだよね」
「え? は?? ちょ、ちょっと!!」
俺の身体の話は??
めっちゃ気になるけど、魔王様の子どもの話が気になる。
え? てか、結婚してたのか?
いつ、子どもをこさえていたんだ。
あんた、俺以上に激務だよな。
「ああ。あんなものは5分でできるんだよ」
「下ネタですか」
「いやいや。名言だよ、これ」
ゾーラ様が膝を叩く音が聞こえた。
自分で言って、自分でウケてるらしい。
時々、こんな主君が総大将で大丈夫か不安になってくる。
「一人目でも、あと2年はかかる。僕の子どもだからね。ちょっと時間がかかりそうだ。その代わり、すっごく魔力は高そうだけどね」
確かに……。
ゾーラ様の力を継いだ子どもが強くないわけがない。
「ちなみに奥様は?」
「気になる? でも、残念ながら教えられないな。僕の奥さんなんて紹介したら、たちまちいろんな陣営の標的になるだろ」
それもそうだ。
ゾーラ様とて、年に数回勇者や魔王様に未だに従わない種族の魔族たちによって、何度も暗殺未遂の被害を受けている。
家族なんていた日には、狙われて当然だ。
「パワハラ上司を殴ってみたり、魔王をやってみたり、家庭菜園やってみたり」
「家庭菜園を、神話レベルで強かった旧魔王をやっつけたことと、魔王になったことと同列であるかのように語らないでくれますか?」
「色々とやってみたけど、子育てってやったことがなかったんだ。1年ぐらいしかないけど、その1年で僕のすべてを叩き込むつもりだ」
「待ってください。ならば尚更、延命したほうが……」
「可愛い我が子を1年間抱き放題なんだ。2年もあったら、それは贅沢というものだよ」
暖簾に腕押しか……。
思えば、この主君が俺の進言をまともに聞いてくれたことがない。
こっちはしがない宮仕、向こうは王様だから仕方ないけどさ。
「わかりました」
「やっと諦める気になったかい?」
「ええ……。でも、覚悟してくださいね」
「ん?」
「俺は亜屍族で、死属性魔法の使い手です。いざとなれば、あなたを蘇生しますから。そのときは、馬車馬のように働いてください」
ビシッと指差すと、ゾーラ様は一笑した。
「お手柔らかに頼むよ」
3年後、魔王ゾーラ様はなくなった。
その半生は戦いの日々だったが、最後はベッドで娘に見守られながらなくなったそうだ。






