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勇者を継ぐ者  作者: 本城達也
オストルン大陸冒険へ
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突然の修行再開

「お前らのチンタラした移動を見てたらお前らの課題がよくわかった。

 このままじゃお前ら王都外に冒険に出したとしてもすぐにやられちまうぞ。

 おあつらえ向きにここは無人島で周りも海に囲まれて誰もいないようだし、QGCまでちょうど良いくらいに距離がある。今日はお前らの課題を何とかする特別訓練と行こうか」



 クロエにはグレンの言葉があまりに高次元過ぎて何が課題なのか全然ピンときていなかったが、イリアたちの方を見ると心当たりがあるかのような顔をしていた。



「お前らの課題、こうして俺に追い付かれていることや前回の戦いを経験して自分たちでも理解したようだが、要するに今のお前らは陸の上でしかまともに戦えないということだ。

 だが、魔族は陸の上で戦ってくれるとは限らない。むしろ強い魔族は大抵翼を持っているしな。前回攻め込んできた悪魔族が良い例だ。

 最低でも空の上での戦えるようにならない限りこの先厳しい。もちろん、魔界に行くなら空だけでなく最終的には水の中や炎の中、宇宙空間でも戦えるようにならなきゃならないわけだが、それには魔法の先の技術、オーラが必要になる。まずは初歩の空での戦いからだ」



「高次元すぎて私には全然ついていけてない・・・そもそもグレン様は魔法が使えないはずなのになんでそんなに速く空を移動できるんですか?

 人間がただジャンプするだけじゃ絶対にそこまで速くは飛べないはずなのに・・・。

 それに落下しないのもおかしいような・・・。

 私、さっきタズくんに抱えられて空を見てたはずなのにグレン様の姿は全く見えませんでしたし」



「王女さん、わかっていないといいながら良い質問だな。まずはこれを見た方が早いだろう」



 グレンは浜辺に落ちてるボールくらいの石を拾い上げて軽く放った。


 放った石は放物線を描きながら3mくらい先の地面に落ちた。


「この石を人間だと思うとただジャンプするだけじゃこんな感じでいずれは落下してしまう。

 この石を速く飛ばすにはまずは思いっきりぶん投げるという方法がわかりやすいだろう」



 グレンは今度は拾い上げた石を投げた。投げられた石はクロエの目では全く追えない速さで飛んでいき、海岸沿いに植えている木にぶつかって粉々に破裂した。



「この方法は俺には可能だが、お前らの力じゃこれほどまでの初速をつけて飛び出すのは難しいだろう。となると方向性としては二つしかない。

 今からやるデモンストレーションをよく見ておけ」


 グレンは再び石を拾い上げ、それを真上に放り上げると、横にスイングした掌でその石をはたいた。


 石は再び目にもとまらぬ速さで飛んでいき、先ほどと同じように木にぶつかって粉々に破裂した。



「こうして空中で別の力を加えるのが一つの方法だ。

 もう一つの方法としては、鳥や魔族たちのように翼を手に入れて飛ぶというのもある。

 単純なのはこのどちらかだろうな。


 途中で推進力を得る方法としては、俺のように強引に空気を蹴り飛ばしたり、海を蹴り飛ばして推進力を得る方法もあるがお前らは魔法が使えるから飛行に適した魔法を開発するのが良いだろう。

 特にイリアは魔力コントロールが長けてるからもしかすると翼を作ることで飛べるようになるかもしれないな」



「なるほど・・・翼かぁ・・・」



 イリアは先ほどのボードで翼を作った経験からちょうど良い魔法を開発できそうな感触を得ていた。



「だが、速さを出す上で最大の敵は推進力の確保じゃない。速くなろうとすればするほど壁のように立ちはだかってくるものがある。なんだかわかるか?」



「空気、だよね。お姉ちゃんがそう言ってた」



「そうだ。速さを出す上での最大の敵はこの空気だ。目に見えないが、巨大な上、どこまでも続く壁だ。

 これを乗り越える方法も2つあるからよく覚えておけ。

 一つはこの空気を味方に付けることだ。魔法を使えるお前らは空気をうまく流してその流れに乗れるような魔法を開発すると良いだろう。

 そしてもう一つの方法はこの壁を飛び越えてしまう方法だ。空気の壁は空高く上がれば上がるほど薄くなっていく。雲の遥か上まで行けばほとんど感じなくなってくる。俺の場合はそうやって雲よりも遥か上空へ行きつつ、加速しているから地上からは見えないってわけだ。まあ、本当は他にも色々裏ワザがあるんだが、それはおいおいでいいだろう」



「なるほど・・・雲の上よりもさらに高いところにいたんじゃ私からは見えないわけだね」



「というわけで、今からQGCに戻るが、まずは空気が壁に感じるような速さで戻りつつ、その壁の突破方法を身体で覚えろ。覚えられなきゃできるまで繰り返すまでだが、お前らなら一回でできると確信してるぞ・・・」


 グレンの説明はクロエにも理解できるものだったが、これからグレンがやろうとしていることはよく理解できなかった。


 タズやイリアは空気が壁になるような速度が出せないから問題なのだ。できないことを身体で覚えろとは一体どういうことなのか・・・。



 だが、クロエがタズたちの方を振り返ると、タズたちは覚悟を決めたような真剣な顔をしながら何かを待っている様子だった。



 そんな2人を見ながら、グレンは手首をコキコキならしながらさらに近づいていった。



「さて・・・どっちから行く?」



「タズが・・・」「お姉ちゃんが!」



「ちょっとタズ!なんでよ!!」「うぅ・・・だってお姉ちゃんすごく試したいことがあるって顔してるよ?」



「それはそうだけど・・・」



「ほう?イリア、ずいぶんやる気満々だな!さあじゃあまずお前から行くぞ。一気に上空に上がることになる上、横へ強い力が加わるからな。身体を守る魔法の準備も忘れるなよ。

 あと、失敗したらここまで戻ってきてやり直しだからな」



「は、はいぃ・・・」



「タズもイリア飛ばしたらすぐに行くから準備しとけよ」



「う、うん・・・」



 クロエは一体何がはじまるのかとワクワクしていたが、グレンがイリアを抱き上げた辺りからこれから起こることがわかってしまい、青ざめた。



 どうやらグレンはこれから二人を先ほどの石と同じように放り投げようとしているのだ。



 さきほどの石を使ったデモンストレーションは、本当にデモンストレーションであった。石が人になるという違いはあるだろうが、グレンからすると石と人の差は大した差ではないようだ。



 想像しただけで頭が痛くなる話だが、これからグレンが先ほどの石と同じように目に見えない速さで二人を上空へと打ち上げ、そして雲の上まで打ちあがったところで何らかの外力を加えて真横に飛ばすということだ・・・。空気を味方に付けて空を飛ぶという課題以前にその舞台に上がるだけでも3回くらい死にそうな話だ。



「こ、これがタズくんたちから話に聞いてた地獄の特訓・・・。

 成功しないと間違いなく死んじゃうよぉ・・・」

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