第一次オストルン大戦の終結
王都キャッスルヒル地区
突然のことに何が何だかわからなかった王都民たちだったが、次第に勝利と生還を実感した騎士たちが歓声を上げて勝利を祝い始めると、皆が勝利を祝いはじめた。
そして、皆が勇者の再誕に歓喜し、この勝利と奇跡をもたらした少年・・・今はすべてを出し尽くして眠ってしまった少年が目を覚ますのを見守っていた。
タズはイリアの膝枕の上で健やかに寝ていた。
なお、タズの膝枕をイリアとクロエのどちらがするのかで戦争が勃発しそうになったことはいうまでもあるまい。
どちらも決して譲らず、クロエがイリアより年上のくせに大人げなく「ヤダ!ヤダ!私がやるの!」と駄々っ子を発動したそのとき、クロエの背後からクロエの保護者が現れ、慣れた手つきでクロエの頭を撫でて、なだめはじめたのである。
「クロエール王女様ですよね?
私です。アルフレッドです・・・
王女様・・・生きておられたのですね・・・。
うぅぅぅ・・・私・・・もう会えないかと思っておりました・・・
グロ゛エ゛―ルざま゛あ゛ああああああああーーーーー!」
王宮騎士団長がクロエの頭を撫でながら次第に号泣し始めたのでクロエも駄々っ子を解除して思わずポカンとしてしまったのである。
アルフレッドはヘルミノタウロスから致命傷を受けた際、泣き叫びながら駆け寄ってきてくれた少女が何者であるのか、完全に確信した。
そして、最愛の少女と再会できたことに感極まって泣き叫んでしまっていた。
だが、
「(ア、アルフレッド・・・。)
(ちょ、ちょっとやめてよ!)
(目立つじゃない!)
(ダメよ・・・)」
クロエはぼそぼそとそう言いながら、号泣して突然屈んでガバっと抱き寄せてきたアルフレッドの鎧をパカパカ叩くが、鎧を着ているアルフレッドはビクともしなかった。
(この!この!
このバカ! 離してよ!
バレちゃうじゃない!
・・・・・・。
・・・ふーん。
離さないっていうならいいわ。
今まで散々放置してくれた恨み、ここで晴らしてやる!)
クロエはやむを得ず、禁断の手段に出る。
「キャーー―――!
変態よーーーー!!犯罪者よーーーーー!!
助けてーーーー!」
クロエは恐るべき手段に出た。
相手を社会的に抹殺する禁断の魔法
「青少年健全育成条例違反」
の発動である。
その瞬間、騎士団のメンバーたちのアルフレッドを見る目が一気に変わった。
「(変態だ・・・。団長はロリコンだった・・・)」
「(いや、もともと団長はロリコンだったろ・・・)」
「(そういえばこの年でもまだ独身だもんな・・・)」
「(街中でロリに抱きついて泣き喚く団長・・・もうこの国はダメだ)」
アルフレッドの株は垂直落下した。
・・・・・・・・・・・・・・・・
「お、王女様!?
い、一体何を?」
「うるさい!そこの変態!私は王女じゃないわ!
ただのクロエよ!
間違えないで!」
少女は、アルフレッドの拘束から逃れると、ビシッと指を指してアルフレッドにそう指摘した。
アルフレッドは混乱して呆然としていたが、その少女はそんなアルフレッドに近づき、アルフレッドの鎧にコツンと、いつかアルフレッドが王女にプレゼントした小さなハサミを当ててきた。
そのハサミを持っていること自体が、髪が短く切られて以前と印章が全く変わっているものの、その少女がクロエール王女であることの何よりの証であることを、それを渡したアルフレッドだけはわかっていた。
そして、少女はアルフレッドの耳元でそっと耳打ちする。
「(私は王女じゃないわ。)
(だって私はあなたの娘だもの。)
(アルフレッド・・・ううん、パパ、私のことはクロエって呼んでね。)
(パパ、好きよ。)
(ハサミありがとう。ずっと私を守ってくれたお守りなの)」
アルフレッドはクロエの指摘にすべてを察した。
そして、声を上げずにさらに号泣した。
どうしてクロエが王宮から消えたのか、死んだ扱いにされていたのか、そして、なぜ今クロエール・エアーハートという名前を名乗れないのか、どうして王女ではないのか、その全てを察し、そのことを悲しむと共に、今まで気づいてあげられず、切られた髪の毛とハサミを見て王宮からいなくなってからの数年間悲惨な生活をさせてしまった自分の情けなさ、自分の不徳に涙した。
そして、今日まで生きていてくれたこと、もうダメだと思ったそのときに少年に助けてもらったことにも感謝して涙した。
アルフレッドは自分の子どもの頃の面影を感じさせるその少女の顔、愛娘の顔を見て決めた。
アルフレッドは今日をもって王宮騎士団を辞めることを決意した。
そして、これからはこの愛娘と一緒に郊外で暮らして、長い間失わせてしまった家族との時間を取り戻していこうと、そう固く決意したのであった。
・・・・・・・。
――断じて幼女にわいせつ行為を働いた罪で懲戒免職になるのではない。
――自発的に辞職するのである(問題になる前に)。
・・・・・・・・・・・・・
「パパ、ごめんね。
全部、パパの言う通りだった。
勇者様なんて現れない方が良かったわ・・・」
クロエは悲し気な顔を浮かべてアルフレッドにあの頃のわがままを謝った。
しかし、その悲し気な顔は、見る見るうちに赤みを帯びていき、はにかんで、幸せそうな顔になっていった。
「でもね、パパ、
勇者様はね、
やっぱりお姫様のピンチにちゃんと駆けつけてくれたよ!」
クロエはそう言うと、泣きながらアルフレッドに抱き着いた。
クロエの幸せな生活は、今日も含めて、これからも、少年との出会いからずっと続いていくのであった。
(クロエ、良かったわね。お父様にちゃんと会えて)
イリアはそんなことを思いながら、ちゃっかりとライバルが消えた隙を見逃さず、タズに膝枕をしてタズのふわふわの髪の毛を思う存分ナデナデし、可愛い耳をいじいじして堪能し、しまいには周りをキョロキョロして皆がアルフレッドを注視して誰も見ていないことを確認すると、そっとタズの唇に口づけをしてマナ(?)の回復を図るのであった。
(私だってがんばったんだから、これくらいのご褒美いいわよね!
うふふ・・・ファーストキスは私のものよ!クロエには渡さないんだから!)
・・・先ほどの自己犠牲の感動は台無しだった。
・・・・・・・・・・・・・・・
一方、王宮騎士団のメンバーは・・・
「(うわぁ団長・・・幼女にパパとか呼ばせてるぞ・・・)」
「(事案よ・・・これは完全に事案よ!)」
「(独身団長がパパ・・・金か・・・援助交際か・・・)」
「(王宮騎士団長があんな幼女と淫行・・・これは騎士団解散かな・・・)」
アルフレッドの株が垂直落下しすぎてマイナスまで到達していた。
王都の偉大なる騎士団長-アルフレッドの騎士団退団を団員たちは涙して引き止めるどころか、歓喜して送り出すことになるのであった。
・・・・・・・・・・・・・・・
こうしてたった1日だけのオストルン大戦は幕を閉じた。
しかしながら、魔族の侵攻が終わったとしても、100年ぶりに地上の平和が破られ、魔族と人族の全面戦争が今日から始まったという事実は変わらない。
ブリズバーンも含めるとかけがえのない大勢の人々の命も失われた。
王都の民たちも生き返ったとはいえ、その心に刻まれた恐怖と絶望がたやすく癒えることはない。
城壁が壊され、街が壊されたため、しばらくは復旧作業が必要となるだろう。
100回目の平和記念日のこの日、人族は、平和の尊さと命の大切さを深く心に刻みつけることとなった。
それらは失われてからは取り返しがつかないことを思い知ると共に、魔族の恐ろしさを痛感させられ、これからはじまる戦いの日々に向けて準備を迫られることとなった。
これでこの章も終わりです。
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