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勇者を継ぐ者  作者: 本城達也
第一次オストルン大戦【前半】
38/106

勇者の降臨

 タズはわんわん泣くクロエに「ごめん」と言いながら地面に下ろし、「ちょっと待ってて」と言った。


 タズは腕を切り落とされたデスミノタウロスが声を上げて怒り狂い、タズの方に向かってきたのに対して、冷静に剣をスっと正眼に構えてから、音もなく綺麗な胴払いを放ってデスミノタウロスを真っ二つにした。


 斬られたデスミノタウロスは、息絶えたのか、その巨体が消滅していく――。

 


「タ、タズくん・・・?」



 クロエは息を飲んで少年の背中を見守った。



 クロエは、あの日、目の前の少年が、逃げるクロエに信じられない速度で追いついてきたのを見たため、弱くはないと思っていたが、ここまで強いとは思っていなかった。




 タズは、さらに左右から襲い掛かってきたデスミノタウロスを素早く突きを繰り出して人間なら心臓のある位置、魔族と魔物なら核のある位置を突き刺して一撃で消滅させていった。




 王宮騎士団が防戦一方だったその魔物を、奇跡か魔法のように倒していくその技は、


 そして、さらわれたお姫様の下に颯爽と現れて救い出してくれるその勇姿は、


 いつか王宮で読んでもらった勇者の伝記に書かれていた勇者の姿そのもの。



「ゆ、勇者様・・・?」




 クロエが初めて好きになった少年は、ただの優しいだけの少年ではなかった。


 クロエが幼い頃に会いたいとずっと憧れていた人物そのものだった。



 クロエは凛々しく戦うタズの背中を見守りながら、自分の胸が信じられないくらいにどんどん高鳴っていくのを感じた。



「タ、タズくんが・・・勇者様・・・」



 そう呟いてその事実を理解していったクロエの顔も、信じられないといった様子で驚愕に染まっていくと共に、胸の高鳴りに呼応して熱を帯びていき、真っ赤に染まっていった。




 クロエに生きる勇気をくれて、人の温もりを教えてくれて、初めて人を愛する気持ちを教えてくれた少年は、



 幼いクロエが夢にまで見た、大好きで大好きでずっと会いたいと願っていた初恋の人物ー勇者様だったのである。


 そんな偶然があるのだろうか・・・。



 クロエは、この出会い(キセキ)を用意してくれた神様に感謝した。




 その出会い(キセキ)に至るまでの代償はあまりにも重く、クロエの人生を悲惨なものとしてきたが、



 辛かったクロエのこれまでの人生の全てが報われた瞬間であった。





 勇者の降臨





 たった1つのその奇跡が、クロエの願いの結果を反転させた。

 




・・・・・・・・・・・・・・・・・




 そして、絶望に沈んだ王都の人々もまた、そのたった1つの出来事に希望を見出すこととなる。




 地獄と化した王都のキャッスルヒル地区は、勇者の参戦によって劇的に状況が変化していったのである――。


 

 

 デスミノタウロスたちはその少年の存在を認めると、一斉に動きを止めたのだ。



 今もクロエと同じようにデスミノタウロスに掴まれ、喰われようとしていた者も含めて急に動きを止めた魔物たちに一体何が起こったのかと一瞬だけ呆気にとられた。



 デスミノタウロスが足を止め、掴んでいた手を放し、一点を見つめている。



 王都民たちは、ハッと気が付くと、今こそ最大のチャンスと見て一斉に逃げ出した。




 王都民たちにはデスミノタウロスたちが見つめるその先に誰がいるのかわかっていなかったし、見えてもいなかった。



 しかし、王都民たちは何が起こったのかは、理解して(わかって)いた。




 魔物たちの天敵が現れたのだ。




 そのことだけは王都民たちははっきりと感じていた。




 そして、その意味も正しく理解していた。




 魔物たちの天敵の登場・・・地上の人々は、1000年前よりその出来事のことを




 勇者の降臨



 

 そう呼んでいたのであるから。






・・・・・・・・・・・・・・・・・





 魔物たちが動きを止めたのは当然である。



 魔物たちは召喚された際に、誰を狙うべきか、それだけは召喚主のバトラーから教えられていたからである。人々を襲っていたのは狩りの本能による行動にすぎない。




 真に狙うべき者が現れ、デスミノタウロスたちは、一斉にターゲットであるその少年に襲い掛かっていく――。




 しかし、タズは襲い掛かるモンスターたちをものともせずに消し去っていった。



 むしろ、倒す度にその強さが増していっている、そんな印象すら感じさせる戦いが繰り広げられていったのであった。

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