開戦前
朝食兼誕生日パーティーを終えたグレンは、アスター、イリア、タズの3人に声を掛けた。
「んじゃ、俺は昨日言ったとおり、これからちょっくら出かけてくるな。おそらく奴らは天空の塔にいくためにブリズバーンの港から出ている船に乗ったはずだ。
俺もこれからブリズバーンに行って、連中の足跡を探してくる。
その後、俺自身も天空の塔に向かうからしばらく帰らないと思う。
今日からお祭りだからってかまけすぎず、きちんと修行は続けるんだぞ!」
「「はい!」」
「で、でも、グレン様、今日は平和記念日ですよ?王宮騎士試験はどうされるのです?」
イリアは、薄々返事が分かっていながらグレンにそのことを指摘した。
そもそもこんなことを言い出した当の本人であるイリアも王宮騎士の見習い騎士試験の受験を辞退していた(もちろんタズもである)。
伝説の勇者から剣の修行を直接受けられるというのは、王宮騎士でもあり得ない好待遇である。
その上、タズたちはグレンの弟子になったり、イリアは医術どころか魔法を覚えてしまったりと、当初の目的以上のものをすでに達成していた。
そのため2人は、修行を開始して早々に試験の出願を撤回していたのであった。
「世界の危機だというのに、これでも元勇者がのんびりと平和を祝っている場合じゃないさ。
試験の方はアルフレッドとか色々他にも優秀な試験官はいるし、俺が見に行かなくても大丈夫だろう。
・・・第一、俺の後継者探しという目的も既に達したしな」
前半はイリアの予想通りの回答だった。
そして、後半の話を聞いて、3人はグレンがこれまで試験官を務めていた本当の理由を知った。
だが、ということは、今後はもうグレンは試験官を務めないということにもなる。
グレンに弟子にしてもらって個人レッスンを受けられている2人にとっては、後継者はもういらないという言葉は名誉なことではあったが、平和記念日の今日、グレンに会えることを楽しみにしている王都民、特にグレンのファンや信者たちに申し訳ないことをしたなという気持ちになった。
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3人及び教会の信徒たちがグレンを教会の裏手まで見送ると、グレンはそこから高く飛び上がった。
と思ったら、降りてくることなくあっという間にその姿が見えなくなった。
それをみたタズとイリアは、
「な、なんか、空飛んでるみたいに見えるんだけど、気のせいだよね?」
「き、気のせいよ!あれはただのジャンプよ!ほら、私たちだってできるわ!」
そう言って風魔法を使って3mほど飛びあがるイリアだが、魔法ありな時点でグレンとは条件が異なっている。
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「け、稽古しよっか」
「うん」
2人はいそいそと稽古の準備に戻った。
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一方、シドル王都の北に位置する森の中にて
巨大な二本の角を生やした巨牛のような顔と強靭な肉体をした悪魔、四天王筆頭であるバトラーとエビルサタンが寄越した使い魔のコウモリが王都の様子をうかがっていた。
そして、グレンがシドル王都を出たことを確認したバトラーたちは、王都を襲撃するべく、大量の魔物を召喚し始めた。
魔族は、マナさえあれば、その配下たる魔物を大量に呼び出すことができる。
魔物と魔族の最大の違いは知性の有無である。魔物は魔族がそのマナでもって生み出す分身ともいうべき生命体であるため、姿形は親である魔族と基本的に共通していることが多い(一部の強力な魔族は、自分とは異なる姿の魔物も生み出せるし、魔王ともなると魔族すら生み出すことが可能である)。
たとえば現在地上にいるオーク族は知性があり、皆魔族であるが、かつては全く同じ姿をした知性を持たないオークという魔物も存在していた。
知性ある魔族が、知性を持たない魔物を配下にしてその種族を繁栄させているのである。
魔物は魔族と異なり、最低限の知能、いや本能とでもいうべきものしか持たないが、人族を襲わせるのにはちょうど良い。
バトラーが召喚するのも、自分によく似た魔物であった。
その魔物は、いわゆるミノタウロスと呼ばれる魔物の亜種であり、デスミノタウロスと呼ばれる魔界の猛獣である。4mはあるであろう巨体に、鍛え抜かれた屈強な身体と巨大な斧を下げ、1体現れただけでも王都は恐怖のどん底に陥れられ、大混乱は避けられない――。
それが、その数100体にもなろうとしていた。
バトラーは肉弾戦を得意としており、戦闘で魔法に頼ることはあまりない。復活したマナの使い道としては魔物を生み出すのがベストであった。
どうやら、例の少年と一緒にいる少女もまた魔法が使えるようであり、グレンが稽古をつけていることもあって、その実力は未知数。
1%もあり得ないと思われるが、バトラー単体では魔法を駆使する2人相手に後れをとる危険性がある。
バトラーは万が一にもこの作戦を失敗できない。
デスミノタウロスに襲わせて相手を疲弊させ、マナを空っぽにしてやればバトラーの敵ではない。
万が一、グレンが救出に来たとしても、王都中を魔物で襲わせれば、王都の人民を守るために動かざるを得ず、ある程度の時間が稼げる。
本日は王宮騎士試験の日でもあり、大陸中から凄腕の戦士たちがこの王都に集まってきている。
そういった連中を足止めするにもデスミノタウロスはちょうど良い相手だろう。
タズを抹殺する、その計画を遂行するため、バトラーは全力をもってその準備に力を注いでいた。
その作戦にある一点の穴があったことに気が付くことなく・・・。
そうして、第一次オストルン大戦の開戦まで残り1時間を切っていた。




