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勇者を継ぐ者  作者: 本城達也
第一次オストルン大戦【前半】
30/106

決戦の前夜(それぞれの思惑)


 一方、タズたちの様子は、エビルサタンの使い魔のコウモリによってきっちりと監視されていた。



「フッフッフ。これまではあの男がべったり張り付いていたせいで、攻める隙もありませんでしたが、どうやら明日からしばらく別行動になるようですね。

 四天王よ。わかっていますね。これからがチャンスです。奴らの下に向かいなさい」


「「「「ハッ!」」」」


 四天王たちは声をそろえて返事をした。

 四天王たちが任務へと動き出そうとしたそのとき、エビルサタンが「バトラーよ、こちらに来なさい」と言って四天王筆頭であるバトラーを呼び付けた。

 エビルサタンは目の前まで来て跪いたバトラーに対して、悪魔族召喚の闇魔法をかけた魔法具である闇の召喚陣を渡した。


「バトラーよ、念のため闇の召喚陣を持っていきなさい。

 万が一のときにはこれで私を呼びなさい。私が直々にあの坊やを殺して差し上げましょう」


「ハッ!

 ですが、このバトラー、決して油断することなく、全力で任務に当たります故、サタン様にご迷惑をおかけいたしませんのでどうかご安心ください」


 エビルサタンは、気合十分で与えられた任務に全力で取り組むといった様子のバトラーの返事に満足し、いよいよ作戦を実行に移すこととした。


―――エビルサタンの水面下の作戦は完璧に見えた。


 本来、グレンたちとエビルサタンたちがぶつかるのは3か月弱経った後の予定であったのに、まだ修行がはじまって間もない状態で、かつ、グレンと分断された状態でエビルサタン陣営とぶつかることになる。

 タズたちに絶対絶命の危機が訪れようとしていた。




 だがこの時、最愛の弟に危機が訪れようとしていることを彼女が何も気付かずに、何の対処もせずにいるはずがなかった。



 エビルサタンにとって最大の危険因子は、グレンではなく、今、自分たちに友好的に接している彼女にこそあったことにエビルサタンはまだ気が付いていない。



――ここまで彼女が大人しく付いてきて、エビルサタンらに協力していたのには深い考えがあってのことであった。



(私の方も召喚獣に転移陣を持たせておきましょう。

 ・・・あなたたちの作戦を成功させるわけにいかないわ。

 逆に私の目的達成のためにこのチャンスを使わせてもらいましょう。

 それに、エビルサタン、あなた自身は決してタズを傷つけることができない誓約があることを忘れたのかしら。

 もし私の誓約の魔法を軽視していたのだとしたら・・・

 タズを攻撃した瞬間――それがあなたの最期よ)



「ファルコン頼んだわよ」



 イリスはタズの無事を祈りながら、召喚獣をオストルン大陸へとひそかに飛ばしていた。


 イリスは、エビルサタンたちに友好的に接しながら、いくつかの切り札ともいうべき無属性魔法を秘匿していた。特に転移魔法や重力魔法は、これらを使うことができると魔族に知られれば実は直ちに魔界に行くことが可能であると知られるに等しい。

 イリスの目的――それはタズの成長――その達成のため、時間を稼ぎたかったイリスにとって、強力すぎる無属性魔法は彼らの前では決して使えない。


 本当なら毎日でも魔法を使ってタズの下に駆け付けたかったイリスだったが、やむを得ず自身の得意魔法を秘匿し、ただの少し魔法が得意で、マナの量が多く、それを渡すことができるだけ、そんな巫女を演じていた。


 


 海を挟んでエビルサタンとグレンとイリスの3人のそれぞれの思惑は、間もなくオストルン大陸の上で交わろうとしている。



 これが後世に第一次オストルン大戦と呼ばれる魔族と人族の100年ぶりの全面戦争の火ぶたが切って落とされる前日の夜のことであった。



 明日は皮肉にも100周年を迎える平和記念日。世界中が平和を祝福するその日、シドル王国は絶望の淵へと叩き落されることになる――。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 その頃、何も知らないタズとイリアは、今日も2人仲良く一緒のベッドで熟睡していた。


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