麦が食べれないのなら小麦を食べれば
ここから3話程度第3者視点となります。
その年はアマデウス公爵領をのぞきユーノス王国全土は飢饉と呼べるほどの不作だった。
そもそもアマデウス公爵領はユーノス王国最大の穀倉地帯である。
王国全土の全食糧の30%を超える量の食料を他領へと供給していたのであるが、
その輸出を現在のユーノス王国による閉鎖政策をおこなっているため、
ユーノス王領だけでなく周辺領主への供給がストップしており、
結果として、アマデウス公爵領ではなく王国自体がしめがっている状態である。
しかも、本来の目的である食料品の対価としての貨幣流入を防ぐことによるアマデウス領内へのゆさぶりも、
現状では芳しい効果は発揮しておらず、わずかづつの緩やかなインフレと理想的な状態を保っている。
ユーノス王国は食料の協力を近隣他国へ求めたが、
ユーノス王国の現体制が他国より完全に認められている現状ではなく、
アマデウス公領との混乱に乗じて浸食を狙っているため、
ユーノス王国へもたらされた食料はわずかでありむしろ自国の弱みだけを浮き上がらせてしまった状況である。
「以上が秋の収穫報告となります。」
玉座の間では文官側近筆頭扱いのクラウス・カーディアルがこの秋の収支の報告をおこっている。
玉座には中央に国王名代という名目のレオンハルト王子と、
王妃の座にメアリー・ハルスイタイン男爵令嬢
その反対側にレオンハルトの母親であるくクレアが冷たい目で眼下の報告を聞いている。
まだ正式には王位継承は行われておらずレオンハルトの王権の正当性は認められてはいないのだが、
それを口にできるものはすでにいない。
3公爵家のうち、最大のアマデウス公爵家は現在の王国に対しての最大敵対勢力とあつかわれ、
前王妃の実家であるユークリッド公爵家は国政に対する発言を許されていない。
そういった意味では王家への中央権力は相対的にあがっており、
中央政権からの強制力は王国内ではかってないレベルに強化されているといえる。
「これではこの秋のアマデウス領への侵攻はとてもかないません・・・」
現宰相職であるカリウス・ドレスデント伯爵がどっぷりとした腹を抱えるように、
滝のような汗をかきながらつぶやく。
彼は見た目の通りオークを思わせるような体躯であり、
その運動不足のためか冬でも滝のような汗をかいている。
本来は宰相職をつとめるような家格ではないのだが、
クレアの実家が伯爵家のためおしあげられる形で宰相をつとめている。
決してその職に見合ったような能力がありこの職を務めているわけではない。
「これは異なことをおっしゃりますねドレスデント伯爵」
壇上のクレアが口をはさむ。
「簡単なことではありませんか。
麦の収穫が例年の6割ならば農民からの税を倍にすればいいのです。」
「そして、春の種まきまでにアマデウスより麦種子を徴収して農民どもに下賜すればよろしい。
さすれば、来年の収穫は通常の収穫は見込めるでしょう。」
ドヤ顔でそう言う。
玉座の間に微妙な空気がながれる。
通常の倍の税を徴収すれば農民どもは冬を越すことは到底できないであろう。
ただこの玉座の間でクレアに対して異論を述べるようなものはすでに誰も残されていない。
「素晴らしいですわ義母上。」
ふわふわと笑顔を浮かべながらメアリー・ハルスタイン男爵令嬢が賛同の意をしめす。
「リリーナ様のおうちは悪いことをなさっているんですから、きちんと償わなければいけないんですよ。
農民のみなさんも麦が食べれないのでしたら小麦を食べていただけばいいんですよね」
彼女が言葉を発するたびにさらに玉座の間に微妙な空気となる。
何を言っているかまったく彼らには理解できない・・・
しかし、ここでも異論を述べるような勇者はもちろんいない。
「そうだねかわりいメアリーの言うとおりだ。
速やかにアマデウスへの討伐軍を編成してかの領を平定せよ」
レオンハルト王子はうっとうしそうに場を締めくくり、
ここにアマデウス公爵領への侵攻がなしくずしてきに決定した。




