逡巡
「雪さん、最初から説明していただけないでしょうか」
アメリアは走ってきた雪の息が整うのを待ち、聞いた。
「武蔵くんが、空中の礼拝堂に行っちゃったから、何か他に行く方法がないか、霊廟に戻ったの。それで、壁のレリーフさんたちに話を聞いていたら、三百年前のことを知っていたの。あの黒い魔獣が国を滅ぼす寸前まで破壊を行なったから、“イズミ”が真っ二つにして、下半身を地下に封印して、そのうえに礼拝堂を作ったって。その封印の結界が今、魔獣の侵攻を防いでいる副産物らしいの」
手振り身振り付きで雪が説明した。
この国の結界は、魔獣の侵攻を防いでいたものではなかったのか。
あの黒い手の魔獣の下半身が封印されているということは、取り戻そうとして攻撃してきているのだろう。
結界がなくなったら、あの黒い魔獣の上半身が襲ってくる。
このまま結界を張りなおせば、あの上半身の侵攻も防ぐことができる。
だが、考え方によっては、上半身の状態で倒すことができれば……
アメリアは逡巡した。
「雪さん、あの黒い魔獣の強さはどのくらいだったか、聞いていますか?」
「“イズミ”でも倒すことができなかったって、みんな言っていたよ」
過去の英雄を超えることができるか。
アメリアは市街地を見た。
あの魔獣との戦闘となれば、このあたりは更地になるだろう。
それに、兵士たちの多くが失われる可能性が高い。
あまりにリスクが高い。
アメリアは決断した。
魔獣の侵攻を押しとどめ、武蔵が結界を張りなおすのを待つことにした。
「第三、第四小隊は誘導が終わり次第合流。特に南門に集中すること!」
伝令用の魔術を再度発動した。
「この中に結界がなければと思っている者もいるだろう。だが、あの黒い魔獣が堕ちてきたら、倒すことができない。だから侵攻を防ぐのに力を貸してくれ。貸して……ください!」
アメリアは指令と願いを込めた。
そして空を見上げ、空中の礼拝堂を見た。
「武蔵さん、早く……!」
揺れが収まり、膝をついていた武蔵は立ち上がった。
「今のは何だったんだ?」
あたりを見渡し、異常がないことを確認した。
改めて中央の祭壇に近づいた。
祭壇には、台座が置かれていた。
台座の前に立ち、武蔵は剣を持ち上げた。
「これ、どうするんだ……?」
とりあえず、台座の上に剣を置いてみた。
だが、何も起こらなかった。
「何か手がかりはないのか?」
台座を調べた。
そこには日本語が彫られていた。
“結界を張りなおす場合、台座に剣を突き立てろ
同時に元の世界への道が開く
結界が完成すると同時に閉じてしまうから気をつけろ”
今まで手がかりがなかった、元の世界に戻る方法も刻まれていた。
「何だ、結界と戻ることはイコールだったのか」
剣を突き立て、道が開いたら、雪を連れて急いで通らなければならない。
タイミングが重要だ。
雪が今どこにいるのかわからない。
道がどこに開くのかもわからない。
もし、この空中の礼拝堂内に道が開いたら……
「いくら考えても、堂々巡りか」
武蔵は剣を握り、台座に突き立てた。




