第1話 私の大好きな人。
生きること。獣人の国の黄金獣さま。
私たちは生きているの。生きているのよ。
生きているものはいつか必ず死んでしまいます。それは、もちろんわかっているんです。わかっているんですけど。でも。……、それでも。生きていてほしいんです。
獣人の残酷な掟
獣人は命を失うと『その死体は獣になる』。
私の大好きな人。
とても大きな嵐がやってきて、森に強い風が大きな音をたてながら吹いて、強い雨がたくさん降って、空まで届くような大きな木がたくさん倒れて、いつもはとても穏やかなお母さんみたいな優しい流れの大きな川が土で濁って濁流となって氾濫をして、あらゆるものを飲み込こみながら、あらゆるものを押し流して、そして、獣人たちの暮らしている獣人の森にある獣人の国はとても大きくて、とても深い傷をおった。
大きな嵐が過ぎ去ったあとも、物語の中に出てくるような巨大な獣に襲われた爪痕のようにその傷は今もまだ残っている。獣人たちの中には大きな嵐の中で命をなくしてしまったひとたちがたくさんいた。
とても深い悲しみが獣人の国を包み込んでいることがわかった。
そんなことを獣人の少女のじんはこのあたりで一番大きな木の(強い嵐の中でも倒れることなく今もしっかりと大地の上にたっているとても強くて、そしてすごく勇気のある木だった)大きな枝の上に座って、ぼろぼろになってしまった獣人の森の中にある傷だらけの獣人の国を見ながら思っていた。
じんはその大きな『黒い瞳』からぽろぽろと大粒の涙を溢れさせながら泣いていた。
大丈夫。私たちは生きている。
だから、これからも生きていかなくてはいけなんだ。
あの日、『黄金獣さま』が(立ち上がることができなくなっていた)みんなに『生きていきましょう。みんなで一緒に』って、そう言っていたように。
生きていかなくてはいけないんだ。
そんなことをひとりぼっちで泣きながらじんは思った。
じんは『美しい黒髪と美しい黒い瞳をしている獣人』だった。頭の上に生えている獣の耳もお尻のところから生えている獣のしっぽも黒色だった。
黒髪の獣人はとても珍しくて、そして『不吉なもの』であると獣人の国では伝えられていた。(少し前の時代では生まれてすぐに獣人の森の深いところに捨てられてしまうこともあったみたいだった)
強い嵐がやってきたのもじんのせいだっていう獣人たちもたくさんいた。(黄金獣さまがそうではありませんよってみんなには言ってくれたけど)
じんが獣人の国のお姫さまの黄金獣さまに呼び出されたのは、それから数日後のことだった。(そんなことははじめてのことだったのですごくびっくりした)
じんはもしかしたらやっぱり私はいならいからって、不吉だからって、強い嵐がやってきたのは私のせいだって、あの優しい黄金獣さまに言われて(そんなことはないって思いたいけど)獣人の国から捨てられてしまうのではないかって、そんなことを思って、すごく怖くなって、すごくどきどきした。




