魔女と呼ばれる理由
目の前の彼女は確かに魔女だ。
魔法ではなくその言葉で人の弱みを抉り、惑わせ、陥れていく、天性の魔女。きっと日本に住んでいた頃からそんな生き方をしていたのだろうと、容易に推察できる。こんなの一朝一夕では身につかない。
「ま、でもシナリオから外れるなら、私もそれが最適解だと思うよ。どうせ本来のレジスタンスだって碌な末路は迎えないんだし」
パッと両手を開いてからユーディがニコリと笑う。
ついつい人様の傷を見つけると触っちゃうんだよね、と言われ、眉間に深い皺が寄っていくのが自分でもわかった。性格が悪すぎる。
隣でマリアもキュッとその可愛らしい顔を顰めていた。彼女のそんな顔は初めて見た。
「まあまあ、怒らないでよ。私って基本的には無害だよ」
「感情を引っ掻き回すのは普通に有害だと思いますけど。特にこの世界では」
「あはは、それはそうだね。ここでは上位世界と違って、感情と行動で展開がクルっとひっくり返ったりするもんね。それで言えば、私も今回は勝手にシナリオ変えちゃってるし」
「ああ、僕もそれは気になってました」
ユーディは僕と同じで、何年も前から『エディン・プリクエル』のシナリオを書き換えるような行動を起こしている。
頷く僕の隣ではきょとんとするマリア。これは今のマリアには接点が無さ過ぎてわからない事だろう。どんなに彼女が時任タイキをメタ読みできても、会った事のない人間の設定までは読めるはずもない。
「ユーディ。貴女はこのゲームの主要キャラクター二人と、シナリオ開始前から親密にしていますね」
「うんうん、サミュエルとデイヴィッドの事だね」
「はい」
彼女の言っている二人は、どちらもマリアルートでの分岐を持つメインキャラクターだ。
学園入学当初からその二人はユーディとの噂があったし、ゲームの展開とは違って研究棟から出てきていない。
もっとも僕は、彼らに関しては問題視していなかった。マリアにリンクチェーンが発生しないのなら好都合だったし、関わらないならそれに越したことはない。
「うんうん、二人とは仲良しだよ。何といっても今はふたりのペットだからね」
ペット。
「ペット……」
口に出してないはずだが、同じ言葉が部屋に響いた。思わず口に出してしまったのは僕じゃなくてマリアだ。
いや、多分ユーディは僕達のこの反応が見たくて、わざとペットなんて言葉を選んだのだと思うけど、それにしたって悪趣味な。
そう思って胡乱な視線を向けるが、ユーディは何故か苦笑しながらぱたぱたと手を振って見せた。
「いやいや。ほんとに飼われてるんだよ、文字通り。この研究棟の八階にある特別室でさ。衣食住を保障されてる代わりに、特例を除いて研究棟から出ないように言われてるんだよねー。ほら見てこれ首輪」
ユーディがシャツの立襟を軽く引っ張ると、そこにはファッションとは到底思えない頑丈な金属の首輪が鈍く光っていた。だから口を開くたびに爆弾投げてくるのはやめてほしい。本当にペット扱いされてるなんて、いくらなんでも想定外だ。
……いや、監禁エンドがある二人を同時に相手にしているのだから、こうなるのも、ある意味では既定路線……なのだろうか。
彼女を前にしていると自分の常識がグラグラと揺らぐ。何でもアリが過ぎる。
「どっちも私とのリンクチェーンのレベルは8だよ。多分執着心が行くところまで行っちゃってるんじゃないかな?」
僕の思考を読んでいるかのようにユーディが補足する。
これがシナリオ通りだったら、どちらかを選ばなければ殺される危険な展開だ。そんな中、どうやったのかは知らないがユーディは二人とうまくやっているらしい。僕だったら恐ろしくて絶対にできない芸当だ。
今のユーディはマリアに代わって二人を同時攻略してくれているような状況にいる。独占欲が異常な二人を相手にして両立させてるの、割と意味が分からない。
……監禁とはちょっと違うし、学園でも三角関係で殺伐としているような噂も聞かない。危なっかしいが、これはこれで微妙なバランスで成り立っているのかもしれない。
「カインくんにとってもありがたいでしょ。私が二人を繋ぎとめてるのって」
「それは、いや、でも……」
いくら彼女が魔女のようだからと言って、便利に使ってしまうのもどうなのだろうとは思う。もしこれで彼女が危険な目に遭ったら、たとえそれが彼女自身の責任で行った選択だとしても、責任を感じるし寝覚めも悪い。
そんな僕の内心は、ユーディにも伝わっていたらしい。
「ふふ、これに関してはカインくんには落ち度もないし、罪悪感とか要らないよ。私が望んで決めたことだし、この関係は全部ちゃーんと合意の上だからね」
合意。合意なんだ。その首輪も。
なんだろう、もしかして僕達は今、そういう特殊なプレイでも見せられているのだろうか……




