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識域のフラクタル  作者: 伊草いずく
Ep.1 夢七夜
3/10

第二夜 1.ベルトスクロールアクション

 その晩も、あっさり夢を見た。


 目覚めかた――いや、夢なんだから()()()()()か?――もまったく同じ。

 自分の部屋のベッドで寝こけてるとこに電話の振動が刺さり、叩き起こされる。

 ぎゃーぎゃーいうあきらに促されてベランダを出ると、今度は彼方も既に揃っている。


 見回してみた限り、ゾンビは一匹も見当たらない。

 人気(ひとけ)のなさはそのまま。世界に俺たち三人しかいなくなったかのようだ。


「はやく()なよー、棒高跳びで」

「下から普通に出るわ」


 だが窓を閉めようとした時、物干し竿が妙に哀愁をたたえたビジュアルで俺にアピールをかましてきた。


 ……まあ、なんか実験とかに使えるかもしれないからな。

 長さ調節できるやつだから縮めればそこまで邪魔にはならんし……。


 なお持って出たら彼方にほっこりした顔をされた。

 うるせえよなんだよ。


「じゃあさっそくなんか試そうよ! チャンバラとかやる?」

「バットと竿で勝負になると思ってんのか、俺が超不利じゃねえか」

「形とか変えればよくない? ナギナタみたいなやつにさ」

「はあ?」


 何のこっちゃ、と思い彼方を見る。だが彼方は別の方向……方角でいって西の方を注視している。


「どうもほっといても始まるみたいだよ」


 同じ向きに目をこらしてみて、やっと彼方が何を見ていたのかがわかった。

 水に沈めたガラスだかアクリル板だかに似た、ほとんど透明な壁が道幅いっぱいを埋めている。


 いや、それだけじゃない。


「動いてんのか、あれ?」


 見えない壁(仮称)はじわじわと音もなくこちらに迫ってきている。

 これ触ったりしたらヤバいタイプの何かか?


 そう考え、横へ逃げて避けた方がいいんじゃ、と曲がり角に視線を転じると、

 「え? ずっと前からここにいましたよ?」みたいな顔をしたブロック塀が道をふさいでいる。


 おいおい、初日と違ってハードじゃないのかこれ。


 緊迫の思いで再び壁に目をやると、しかし緊張感のないバカがバカの挙動をやっていた。


「ねー見て見てこれ! なんか磁石の反発みたいに押し返される!」


 ぼよんぼよん、とバルーンに体当たりして喜ぶ幼稚園児のようなノリで、透明な壁であきらが遊んでいた。


「止めろよ保護者」

「僕じゃ無理だって」


 彼方に突っ込んだが、もっともな理屈で返された。

 まあそうか。俺でも同じこと言うわ。


「で、何なんだあれ? 害はなさそうだけどよ」

「うーん、たぶん……」


 言いながら彼方が東の方を見たのでならうと、がたがたと音を立てて奥の路地からモンスター化したチンピラとでもいうべき連中が出てくるところだった。


 ゲームのキャラだと思えば全体的にかませ感が強い見た目だが、手には棍棒やら鉄パイプやらを持っていて普通に危険そうだ。

 それでもあまり恐怖が湧かないのは夢だからか?


「やっぱり。これベルトスクロールだよ」


 わかったという様子で彼方が言った。


 ベルトスクロール。

 ゲーセンとかにあったりする、一面二面とフィールドが横スライドして切り替わってくタイプのアクションゲーか。


「よくわからんけど、要は攻撃して倒しゃいいのか?」

「たぶん。今度は無双とかはできなさそうだから、大樹も竿(それ)、武器にした方がいいかもよ」


 言いながら、彼方は手に持っていたライフルをいつの間にかハンドガンへと持ち替えている。


「あきらもそれっぽいこと言ってたけど、そんなことできんのかよ」

「できるよ。昨日の大樹だって、途中で履物変えたりしてたでしょ? サンダル」

「む」


 言われてはじめて気付く。

 勢いで無双ゲーに付き合わされたから意識するヒマもなかったが、ベランダ備え付けのサンダルで出てきたのに動き回ることへの不便を感じなかった。


「実験したいって言ってたのは、一つはそれだよ。どうもここ、空想(イメージ)で色々なことをやれる場所みたいだから」


 どこまでやれるか、何ならできて何ならできないか、試してみたいんだよね。


 そんなふうに言いながら、彼方は手元の銃をぐねぐねと組み替え、種類を変えたりカスタムを入れたりとやっている。


 なら俺もできるのか。やろうと思えば。

 半信半疑で手に持った物干し竿を見つめ、空想(イメージ)というやつを膨らませてみる。


 せっかく長さがあるんだ、リーチのある武器がいい。

 郷土博物館なんかで見たことのある槍を想像してみた。

 と、物干し竿が現実味のない光に包まれ、形が変わり……。


「……何だこりゃ」


 確かに槍。

 イメージがちゃんと反映されており、握りもついていれば丈も十分、頑丈そうでもある。


 が、そこはかとなく元の物干し竿の面影が残っている。

 一言で言えば、絶妙に格好が悪い。


「ぷっ……いいじゃん、ながっ、長さ調節とか、できて……」


 あきらが俺の背中をぽんぽん叩きながら爆笑をこらえている。

 バカおまえ、アジャスターのことディスってんじゃねえよ。結構便利なんだぞ。ダセえけど。


 そういうあきらのバットはトゲ付きのモーニングスターに変化している。


「物騒なもん選ぶな。秘められた攻撃性とかそういうのか?」

「バトルならパワー! トゲ付いてたら威力倍増で更に最強でしょ!」


 脳筋思考が反映されてるだけだった。

 時代が時代なら蛮族として生きてたんだろうよ。


 なお最終的に彼方は近接オプション型の二丁拳銃を選んだようだった。

 いいなガンカタ。あの映画俺も好きだよ。


「よーし、じゃあ突撃! 今度ビリになった人は明日のお昼おごりね! わたし学食の一番いいセット食べまーす!」

「はあ!? おま、言うだけ言ってフライングはセコいだろが!」

「コンボみたいなことするとスコア上がるね。あれこれ試すのにちょうどいいかも」


 もう一匹倒してる更なるフライング野郎が既にいた。


 くそ、負けてられん。

 物干し槍を持って俺も二人の背中を追い、手近にいたチンピラモンスターを力任せに吹っ飛ばした。


 後のことは特別語るまでもない。

 一日目と同じく、一向に手を止める気配がないあきらに付き合ってひたすらバトルアクションに興じた。


 彼方もなんだかんだ楽しそうだった。

 実験とやらを試みているのか、たまにエグい数字(スコア)の稼ぎ方をしてあきらといい勝負をやっていた。


 順位のことは聞くな。

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