第二夜 2.隔たり
「こいつ本当にフルセット頼みやがった……」
「ごちです☆」
女児が写真撮影のときにやるようなきゃるっとした愛嬌を振りまきつつ、あきらは颯爽と会計を通過し席へと向かう。
お高めの期間限定定食にそうざい、ジュースの紙パック、もちろんデザートもしっかりつけている。
うちの学食で考えられる限り、もっとも贅沢な組み合わせと言っていい。
その辺の高校生である俺にそんな豪華な飯代をまかなう底力などあるわけもない。
痛手を最小限に抑えるため、俺が頼んだのは素うどん(単品)一つだけだ。
「わーさびしい。ミニコロッケ一個わけたげよっか?」
「煽りかクソ蛮族が。ちょっとは彼方を見習え」
「そこでいいんだ見習うの」
彼方が頼んだのは分量しっかりめとはいえ丼もの単品。
普通にキツい出費だが、まあ負けちまった以上は仕方ない。
こういうのはあんま遠慮されてもかえってアレだし、それに、
「下手に量減らすと持たねえだろが。今日もあんだろ練習」
うどんを口元に運びながら言った。
瞬間、あえて視界の外に置き続けていた運動場から、きん、とボールを打つバットの快音が聞こえた気がした。
もちろん気のせい。
だから動じもせず、俺はごく自然にうどんのひとつかみをすする。
「……うん」
他の部員連中に合わせ、シャツのボタンを律儀に開けている彼方が頷いた。
一貫して調子のよかったあきらが目に見えてしゅんとし、勢いをうしなう。
――気にしてんのか、まだ。
おまえらとは関係ねえっつったのに。
これじゃ普通の話題のつもりで出した俺が面倒くさいやつみたいじゃねえか。
「うりゃ」
手が止まっているあきらの皿に箸を伸ばし、三個セットだったミニクリームコロッケを二つまとめてパクる。
「あ゛ーっ!! あたしのお楽しみーっ!?」
一瞬遅れて俺の暴挙に気付いたあきらが声を上げる。
「いあふほんおへふぇほ」
図体がデカい俺は当然口もデカい。
ミニサイズなら一口で両方とも食うぐらい余裕だ。
「んぐんぐ。……だいたいおまえ、マネージャーなのにそんな食ってどうすんだよ。太るぞ」
「ふとっ!? おおお大きなお世話じゃー! 成長分しか増えてないし!」
増えとるんかい。
中学ん時から何も変わってねえように見えんだけど。
「変わっとるわ! ほんっとデリカシーないんだからタイキは!!」
「おうおう」
その通りでございますとアピールするように、噛み付いてくる小さい頭を押さえながら平然と水を飲み干す。
「俺は細かいことは気にしねえ方針で生きてんの。だから今のも、別に変な意味とかはねえよ」
「…………」
ぐいぐい来ていたあきらの丸頭がまた減速する。
その気持ちを代弁するかのように、彼方が言う。
「大樹はさ。戻ってくる気ないの?」
「ない」
うどんの続きをすすりながら答える。
かけうどんだからさっさと食わないとまずくなる。
「言っただろ。俺はタニセンも嫌いだし、部長ともそりが合わねえ。彼方みたいに周りに馴染む努力をしてまで、野球やりたかないんだ。……おまえらにゃ悪いけどな」
ごっそさん。
うどんの汁を最後の一滴まで飲み干してから、席を立つ。
「俺のとこ次は移動なんで、もう行くわ」
「あっ……! っ、タイキ!」
「おう」
「その……。また、後でね。夜!」
「次も一緒かはわかんねえだろ。……まあ、またな」
振り返らずに背中で受けて、そのまま返事をして、学食を出る。
廊下に出てしばらく行った先で、落ち着かない気分が手先に出て、頭をかいた。
退部届を出してからそこそこの日が経っている。
以前ほどひんぱんに切らなくなり、少しだけかさを増した髪の毛が、妙にうっとうしく感じた。




