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コレが溺愛に見えますと?  作者: 真朱


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07. イベントクラッシャー


 その日の授業を終えたマリージュは、帰宅の途につこうとしていた。


 マリージュとリュカは、学園では基本的に別々の時間を過ごしているので、帰宅のタイミングも特に示し合わせたりはしていない。

 例えリュカが授業に出ることがあったとしても、そもそもマリージュとリュカはクラスが違うので、同じ授業を受けることはない。

 ちなみに、クラスの違いは単純にアタマの出来の違いである。マリージュはダンスや所作などの実技はいいものの、語学以外の座学は人並みもいいところなため、総合的に見れば上位クラスに属するレベルに達していないのだ。

 でも、マリージュはカケラほども悔しくも恥ずかしくもないので、何らご心配には及ばない。


 マリージュが校舎を出ようと歩いていたところ、女子たちが黄色くざわついていることに気がついた。

 近くにリュカがいるんだろうなと辺りを見回してみると、そこそこ前方を歩くリュカの姿が目に入った。


 マリージュは本日、リュカとは顔を合わせていない。

 まあこれといって用があるわけではないし、何のかんの週末は毎週のように会っているから、わざわざ信者の皆様の合間を縫って追いかけて行ってまで声をかける必要もないかな、なんて思っていたその時。

 リュカの目の前の廊下の陰から、急に人が飛び出して来て、リュカとぶつかりそうになったのだ。


 「きゃっ…」

 「危ないですわリュカ様っ!」


 周囲のリュカ教徒の皆様が、びっくりして悲鳴をあげる中、リュカは驚いた様子も見せず、至ってあっさりと、やたらと優雅に、その人を躱した。


 びった―――――ん! と、勢いよくすっころんだのはヒロインちゃんだった。


 「あいたたたぁ…ごめんなさぁ~い!」


 床に顔面を打ち付け、真っ赤になった鼻を抑えながら、若干涙目で顔を上げたヒロインちゃんは、リュカの存在に気づくなり輝かんばかりの笑顔を振りまいた。


 マリージュからはリュカの後ろ姿しか見えていないのでリュカの表情は確認できなかったし、そこそこ距離があるため大きな声を出していない部分は全く聞き取れず、どんな会話をしているのかも分からない。

 だが、ヒロインちゃんがキラキラとした瞳をリュカに向け、絶え間なく口を動かし続けている様子は、マリージュの位置からでもよく見えている。きっと会話が弾んでいるのだろう。


 (今わたしがあそこを通過するのは、これ見よがしというか、何かイヤミっぽいかな…?)


 マリージュは違う経路を使って校舎を出ようと、そっとその場を離れた。

 リュカ教徒の皆さんが尋常ならざる様相だったことには、マリージュは全く気付いていなかった。



 マリージュは次の日も、似たようなシチュエーションに遭遇する。

 やはりそこそこ前方をリュカが歩いており、今度は違う方向からヒロインちゃんが飛び出してきた。


 この日もリュカは、難なく華麗に一分の躊躇もなく、ヒロインちゃんを躱した。

 リュカは身体能力がめちゃめちゃ高いから、反射的に避けてしまうのだろう。


 マリージュが兄から聞いたところによると、「リュカくんは幼い時分から、王家に次ぐ高貴な家柄とその類稀なる美貌ゆえに、良からぬことを企む輩に付け狙われまくってきた結果、防衛本能がゴリッゴリに研ぎ澄まされてしまっている」とのことなので、すんなりぶつかられるなんて不覚は取らないらしい。


 またしてもすっ転びかけたヒロインちゃんのことは、今回は公爵家の護衛さんがスマートに支えていたが、リュカはその間も足を止めることなく、颯爽と去って行こうとしている。


 「あっリュカ様、待ってくださ~い!」


 リュカの腕にしがみつこうとしたヒロインちゃんだったが、手を伸ばそうとするや否や公爵家の護衛さんがすっと体を挟み、それを阻止する。


 「失礼いたします。リュカ様にはお手を触れないでいただけますか」

 「…えっ? あの……」

 「お手を触れるなと申しております。今この場でご理解頂けないのであれば、公爵家を通してお家の方に正式に抗議させていただくことになります。―――――退学することにならないといいですね?」

 「あっ…その、す、すみません…」


 ヒロインちゃんは瞳をうるうるさせてリュカに助けを求めているようだが、リュカはその様子自体が目に入っていないのか、全く気に留めた気配もなく、転びかけたことに対する気遣いの言葉一つ投げかけることなく、そのまま通り過ぎて行ってしまった。

 ヒロインちゃんに忠告という名の脅しをかけていた護衛さんも、ぺこりと一礼すると、急いでリュカの後を追って行き、後にはヒロインちゃんがひとり残されただけだった。


 リュカの対応が塩だったからか、思っていた以上に護衛さんのガードが堅かったからか、ヒロインちゃんは呆気にとられて固まっているようだ。

 一方で、マリージュは違う方向に感動していた。


 (護衛さん、なかなかやりますなぁ…)


 この護衛さんは、ここ数年ずっとリュカに付いていて、リュカからの人望はとても厚い。年齢が大きくは離れていないこともあってか、友人に近い関係性を築いているように感じている。

 もちろんマリージュも護衛さんとはしょっちゅう顔を合わせているし、リュカ専用個室仲間ということもあり、そこそこ知れた仲だと思っている。

 だが、普段は空気に徹していることが多く、女性に毅然と対応する姿なんて、これまでマリージュは一度も見たことがなかった。


 公爵家が認め、リュカが嫌がらずに側に置いているのだから、仕事の出来る人なんだろうなとは思っていたが、今にも泣き出してしまいそうな如何にもか弱そうな女性に対しても甘い対応をしない決然とした態度は、これぞ一流と評すに値する見事なものだった。


 マリージュは「いい仕事を見せてもらった」ととても満足していて、それ以外は特に何も感じていなかったのだが…


 ―――――リュカ教の皆々様にとっては、ヒロインちゃんの存在は、『由々しき事態』にあたったらしい。



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