06. ヒロイン参戦
学園生活も二年目を迎えたある日。
例の『少女漫画みたいなゲーム』で言うところの『ヒロイン』らしきご令嬢がご登場あそばした。
男爵家に養女として迎えられたとかいう平民あがりの美少女が、学園に編入してきたのだ。
(あー…。なんかそういうの、ありがちだった気がする…)
『編入生』ってだけでも十分目立つというのに、『美少女』の肩書まで盛ってくるとは…。ヒロインという唯一無二のポジションを背負うからには、そのくらいのステイタスは標準装備ってことかな、なんて、外野路線まっしぐらなマリージュには、危機感も臨場感もない感想しか浮かんでこない。
そしてマリージュは確信した。
ここから、第二王子を手始めに、あっちやらこっちやらリュカやらに粉かけていくのだなと、と。
(とうとう当て馬の出番ってことね? でも、『わたしの婚約者に馴れ馴れしくしないで!』みたいなのは、わたしには期待しないでね? 自分が言う側だとしても、鳥肌たっちゃうんだよね…)
ここに至っても、マリージュは他人事モードに徹していた。
そもそものハナシとして、マリージュは、ヒロインにまつわる殆どを覚えていない。
JKの妹に付き合ってゲームの画面を眺めてはいたが、興味がなさすぎて何らインプットされていないのだ。言わば電車の車窓をただ流れていく景色みたいなもので、見ているようでいてちゃんとは見ていない。見えてはいても記憶に留まるようなものではなかったのだ。
妹から強力に刷り込まれた関係で、第二王子に関しては覚えている部分もあるにはあるのだが、妹の主観により、『ヒロイン』ではなく『第二王子』にスポットが当てられていた。しかも、ストーリー展開がどうこうと言うよりかは、「第二王子が如何にカッコいいか」のみにポイントが置かれていた。
つまり、第二王子の振る舞い、若しくは表情が、妹のツボだったシーンだけはわかる…かもしれない、といった程度のあやふやな記憶でしかない。
出ずっぱりなはずのヒロインのことすら記憶にないのだ。ヒーロー其の二だか其の三だかのリュカと、その当て馬のことなど分かるはずがない。もう、なるようにしかならないだろう。
どうせなるようにしかならないんだったら、出たとこ勝負で十分だと思うのだ。
だって、普通に生きていたら、人生ってそういうものなんだから。
完全に割り切ったマリージュは、何か手を打とうとかあれこれ画策することなく、すっぱり放置を決め込むことにしたのだった。
一方、ヒロインは我が道を突っ走りはじめたらしかった。
「貴族になりたてで、まだマナーがよく分かっていない」という免罪符を意気揚々と掲げ、高位貴族のご令息方にバンバン話しかけていった。
もちろん第二王子にも。そしてリュカにも。
マリージュは第二王子とは挨拶くらいしか交わしたことはないが、リュカに素気なく扱われても寛容に接しているような、気性の穏やかな人という印象がある。いきなり初対面の男爵令嬢から馴れ馴れしい態度を取られても、きっと鷹揚に構えてくれたことだろう。
リュカとヒロインちゃんが既に何度か接点を持ったことも分かっている。親切心なのか何なのか、リュカ教徒の皆さんが逐一報告してくれるのだ。
リュカがどんなテンションだったのかまでは把握していないが、嫌がらずに交流しているのであれば、それは満更でもないってことなんだろうから、マリージュにとやかく言う筋合いはない。ただ静観するのみである。
当て馬のお約束である『何らかのエセ罪を被せられて断罪』的な流れがあるんだったのかも全く覚えていないので、こうやって静観し続けた結果、ある日突然思いがけない一撃を喰らう羽目に陥るのかもしれない。
ただ、例え断罪されたところで、大変ありがたいことにこの国の場合は、王族の命が絡まなければ極刑に処されることはない。リュカの家は公爵家だが王家の血はかなり薄く、現在は準王族にもあたらないと聞いている。
だから、例えこの先、ヒロインちゃんの策略によりマリージュが殺人未遂疑惑を擦り付けられるような、異世界が舞台のお話だのゲームだのではテッパンとも言える事態に陥ろうとも、リュカや男爵令嬢のヒロインちゃんが相手なのであれば極刑はありえない。
第二王子がマリージュを陥れることに協力的で、「マリージュから命を狙われた!」とか主張した上に、それが事実だと証明できてしまう文句のつけようのない証拠が示されるといった、いわゆる茶番さえ起らなければ、最悪でも国外追放ということになる。
国外追放だったら、甘んじて受け入れるのもアリだとマリージュは思っている。
おかげさまで語学は堪能なので他国でも言葉には困らないし、例のJKの記憶のおかげで平民感覚も普通に持ち合わせているので、掃除や洗濯、労働にも何ら抵抗感はない。
語学力を活かして商会とかで働いてみても楽しいかもしれない、なんて、考えてみたりもしている。
もし平和的にお話が進んで罪を捏造されたりすることがなかったとしても、当て馬を全うした後は、婚約が破棄された傷物令嬢として生涯独身を貫く予定なのだから、どっちにしろ働くべきだろう。
労働場所にはこだわりはないので、領地のすみっこでも他国でも、働けるのであればどこでも構わない。
でも、ただ「長女が当て馬だった」というダケで侯爵家に害が及ぶのは父や兄があまりにも不憫だから、侯爵家には難癖付けないでやってほしいな、とは思っている。
国外追放すら受け入れるつもりでいるマリージュの達観っぷりは、なかなか堂に入っていた。
それを良しとしていいかは、ちょっと何とも言い難いところではあるが。




