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コレが溺愛に見えますと?  作者: 真朱


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20/25

20. コレが溺愛じゃないとでも?


 ―――――あれから


 リュカはマリージュと歩くとき、マリージュの手を取り、並んで歩くようになった。

 立ち止まって花を眺めたりするときはバックハグも健在だし、別れ際などは、離れ難そうな表情を浮かべて正面からぎゅっとしてきたりもする。

 すりこみ作戦の成功を確信したリュカは、自身の行動をより大胆なものへとシフトさせていくことにしたようである。


 ここに至っては、さすがのマリージュも実感しはじめていた。


 自分を見つめるリュカの目が、とことん優しいことと。

 鳥肌表現こそ控えめになったものの、リュカがマリージュに向ける言葉や態度の端々にとんでもない甘さを滲ませていることと。

 そして、そのことに何だかほっこりする自分がいることにも。


 また、リュカ教徒の皆さんもそうじゃない皆さんも、リュカとマリージュの二人を以前にも増して温かい目で見守るようにもなっていた。

 リュカの思いを尊重していることは勿論だが、マリージュの人としての在り方に感服したこともあるらしい。


 リュカに他意なくあんなことが言える人物は、同世代ではマリージュの他には一人として居まい。

 もし今後現れたところで、「ああ、マリージュ様のパクリね」としか感じられない。

 万が一パクリじゃなかったにしても、その二番煎じにリュカが靡くとは到底思えない。何せ怯えて縋り付く女の子に対しても一切の容赦がなかったのだ。リュカにとっては最早、『マリージュじゃない』という時点で意識を割くに値しないのだろうと察した周囲の人々は、『リュカのお相手は、マリージュ以外有り得ない』という共通認識を持つに至った模様である。


 ヒロインちゃんも、すっかり大人しくなった。


 自分の可愛さがあればリュカだってゴリ押せばイケると信じて疑わなかったのに、大勢の前で箸にも棒にも掛からないことを示されてしまい、プライドなどもうズタズタになっているらしい。

 今でも、遠くからリュカを眺めていることはあるようだが、直接声をかけてくることはなくなったそうで、「やっと平穏が戻ってきた」とリュカがホクホクしていた。



 そしてマリージュは、少しずつ考えを改め始めていた。


 いま生きているこの世界を、マリージュはゲームの世界だと思い込んでしまっていたが、そうではないのかもしれない、と。


 ヒロインちゃんにしたって、マリージュは、シチュエーション的に「ヒロインに違いない」と思ってしまったわけだが、本当にヒロインだったのかは今となっては微妙としか言えない。


 そういえば、第二王子が跪いてキザいこと言ってるところを見たことがない。

 となると、そもそも、いま学園にいるこの第二王子は、あの『少女漫画みたいなゲーム』の中の第二王子と同一人物なのだろうかという疑問に行き着いてしまう。名前も覚えていないし、本当にゲームと同じ顔だったのかすら、だんだん自信がなくなってくる。

 …いや。うん。ぶっちゃけ、『金髪に青い瞳』という、王子にありがちなルックスが被っているだけな気がしてきた。


 リュカだってそうだ。

 漫画でしか見たことがないような黄色い歓声っぷりに、作られたキャラクターだと言われた方がむしろ納得できてしまったから、そうに違いないと思いこんでしまった部分があるが、あのゲームにこんな信者を抱えたキャラなんていなかったはずだ。


 きっと、この世界は、あの記憶のゲームとは似て非なるもの。

 現代ニッポンでは漫画やゲームでよく見かけていた世界と類似する点があるってだけの、ただの現実世界なのだ。


 ゲームがどうだったかなんて、碌に覚えてもいないことを意識する必要なんかどこにもない。

 だから、マリージュは今までどおり

 リュカの隣にいても、きっといいのだ。


 未来はわからなくて

 自分もリュカも、どうなっていくかはわからなくて

 もしかしたら、この関係が壊れてしまう日がくるのかもしれないけれども


 でも、壊れたままでは終わらず、今までとは違う関係を築いていけるかもしれない。


 自分たちで考えて、動いて、変えていけるのだ。


 マリージュは、すっきりした面持ちで、顔を上げた。

 マリージュの側には、やわらかい微笑みを浮かべたリュカがいる。


 「ねえ、リュカくん」

 「うん?」


 今日も、学園のリュカの個室で、リュカの淹れてくれたお茶を飲んでいる。

 いつの間にかすっかり馴染んだ日常の光景。

 でも、これは、当たり前のことではないのかもしれない。


 だから、マリージュは訊いてみたくなった。


 「わたし、これから変わっちゃうかもしれないけど、そしたらリュカくんどうする?」


 リュカは、自分のカップをソーサーに置きながら、何でもないことのように答える。

 「マリージュなら、どう変わったって受け入れるよ。それに、マリージュには変わっていって貰わないと俺も困るしね」


 リュカのその答えは、マリージュにはちょっと理解できなかった。

 だから、深くは考えずに続きを聞いた。


 「なんで?」


 するとリュカは、黒いような黒くないような、ぞわっとするようなしないような

 マリージュには解釈が及ばない笑みを浮かべたかと思うと、座っていた向かい側のソファからゆっくりと腰を上げ、マリージュの側に悠然と近づいて来て―――――


 「いちいち鳥肌たててたら先に進まないでしょ?」


 とん、と。

 マリージュを挟むように、リュカの両手がソファーの背についた。


 「さき…?」


 マリージュは、ぽかんとリュカを見上げ、


 「試してみる?」


 護衛さんは、無言でスッと背を向け、


 「ふぇ?」


 マリージュの顔に影がさした。




 「ね? リジュ?」




 ―――――その日。


 鼻歌でも歌いだしそうなくらい、未だかつてないほどご機嫌なリュカが、火を噴きそうなほど赤い顔をして俯くマリージュの手を引きながら、ともに帰っていく姿が目撃されたらしいのだが



 さて何があったのかは、ご想像の通りということで。




次話からリュカ視点です。

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