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コレが溺愛に見えますと?  作者: 真朱


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12/19

12. 吊り橋効果とは違うはず


現実を知ってしまったマリージュは、激しく動揺していた。


(うわああああぁ しまったあああぁぁっ

 どうしよう どう戦う? っていうか、あれ何??

 とりあえず、体を張って楯を全うするしか術がないっ!)


体で阻むべくリュカの前に立ちふさがったまま、マリージュは飛んでくる黒いものを凝視する。


結構なスピードで飛んで来てはいるが、見えない速さでもない。ただ、数が多い。

大きさは、リンゴかオレンジくらいに感じる。

羽と思しきものが動いているように見えるので、かなり大型の昆虫か、小型の鳥か、とにかく生物。


それなら現実的な話、よっぽど当たり所が悪くない限り、くらったところで命の心配はないはず。心置きなく楯に注力できるってもんである。


顔付近には、目や眉間、喉といった急所があることを考えると、本当は背中で受けたいところなのだが、そうすると飛んで来ているものの動きが見えない。

しかも、リュカはマリージュより遥かにデカいので、どう考えても頭とかが はみ出てしまい、マリージュの背中だけではガードしきれない。

覆い隠せるわけではない以上、臨機応変に対応しなければならないのに、対象から目を離すなぞ論外だと結論付けたマリージュは、真正面から受けて立つことにする。


数が多い割には各々の動きを追えているし、虫?に軌道を突然変えてこられても反応できているので、マリージュの動体視力と反射神経は なかなかイケてそうだ。

そのあたり、格闘ゲーマーとしての経験が活きているのかもしれない、なんて考えられるくらいには心の余裕もある。

一匹残らずとはいかないにしても、大多数は防げるような気がする。


恐れがなければ、冷静に対処もできる。

マリージュは目を逸らすことなく、飛んでくるものの動きを注意深く追っていた。


その時


「マリージュ」


背後からふわりとマリージュの肩と腰にそれぞれ手が回り、くるりと体が回転した。

マリージュがリュカに抱きすくめられ、リュカの背に庇われる格好になった瞬間、バチバチバチッと激しい音がすぐ近くで鳴った。


「きゃあああっ 痛っ なに!?」

ヒロインは悲鳴をあげながら、地面にうずくまる。


「リュカ様!!」

護衛さんが、リュカとマリージュの前に立ち、壁になりつつ飛んでくるものに対峙する。


周囲は騒然となり、リュカ教徒の皆様も、逃げ惑いながら悲鳴をあげる。


「リュカくんっ!?」

マリージュも、思わず悲鳴に近い叫びをあげた。

リュカを守らなければと、リュカの腕から脱け出そうと懸命にもがくが、リュカはびくともしない。


「大丈夫。じっとしてて」

リュカは落ち着き払っているが、その間も耳の近くではバチバチと引っ切り無しに音が鳴っている。

飛んでくる黒い生物がぶつかって来ているのだろう。


音こそ聞こえるが、マリージュには少しも当たらない。

どのくらいぶつかっているのかもわからないくらい、マリージュには掠りもしない。

リュカが、防いでくれているから。



(…なん…で……?)



マリージュは混乱していた。


自分は楯として、リュカの側にいることを求められていたはず。

なのに、いま、リュカに庇われている。


リュカは、身を挺してマリージュを守ってくれている―――――。


「なんで……っ」


マリージュは、何故だか泣きたいような気持ちになった。


リュカの背が高いことは勿論知っているが、いま自分を包んでくれている背中は、それ以上に大きく、温かく感じた。


そんなこと、マリージュは今の今まで知らなかった。


子供の頃から、一緒にいたのに。

助けてくれたことだって、これが初めてじゃないのに。

それでも、それだけど、それなのに、


……どうして知らなかったんだろう―――――



「リジュが健気に俺を守ろうとしてくれるのが、もう可愛くて可愛くて、

 堪能したいがために先送りにしてきた、俺のせいでもあるからね」


いつもなら鳥肌が立ってしまうはずのリュカのセリフも、今は何だかすっと耳を通り、マリージュは弱々しくリュカの上着の裾を掴んだ。


それに気づいたリュカは、ふんわりと頬を緩める。


(わたし、全然ダメだ…。情けない…)


戦うつもりだったのに、戦えると思っていたのに、結局は何もできなかった。

気持ちばっかりで、それだけで何故だか勝てる気になっていて、何の準備も対策もしていないことに気づいてさえいなかった。


その結果、守るはずだったリュカに、自分を守らせてしまった―――――


「ごめんリュカくん、ごめんね… ありがとう…っ」


リュカは半泣きのマリージュを宥めるように、

「これでも鍛えてるから、たまにはカッコつけさせて」

と、マリージュの背中を優しく撫で続けていた。



一方、公爵家の護衛は、飛んでくる黒い生物を叩き落としながら、

リュカが、どさくさに紛れて、手に持っていた何かを さり気なく地面に落とし、踵で念入りに踏みつぶして破壊したことに気づいていた。


黒い生物は次第に方々に散って行き、しばらくして周囲は静けさを取り戻す。


「…コウモリ…?」

自分が叩き落した数匹を眺め、護衛が呟く。


マリージュを腕におさめたままのリュカが、満足そうににんまり笑う姿を、

護衛は勿論、見なかったことにする。


リュカの手にあったはずの、なにかのことも。



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