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斎木学園騒動記9−5

「どうかね?」

 最初に口を開いたのは、またも田崎であった。

「我々FOS──Future of Stupidity──が人類という名の愚か者の未来を真剣に考え、救おうとしている集まりだということが理解できたかね?」

 まだ呆然としている学生たちを、田崎はゆっくり見回した。

 

「我々のこの理想は、確かにあまりに壮大だ。しかし緻密な計画と大胆な行動力、確実な実行性をもってすれば必ず成功する。また、成功させねばならないことだ。だが、それにはまだまだ優秀な人材が必要だ。そこで──、ここに正式に依頼したい。君たち、FOSに力を貸してもらえないだろうか? 共に、素晴らしい未来を目指し、進んでいこうではないか」

 そう言って、芝居がかった仕草で両手を広げた。

 田崎の言葉の語尾が、ゆっくり時間をかけて部屋の空気に溶けて広がっていく・・・


 そんな緊張感で、この場が満たされていた。

 

「・・・・・・」

 

 意表をつく田崎のこの申し出に対し、学生たちは何と答えたものか口ごもった。

 その時、省吾が口を開いた。

 

「田崎、ずいぶんきれいごとをならべたじゃないか──」

 その眉が、不愉快そうにしかめられている。

「まさかそんな事を並べ立てて、本当に騙しきれると思っているんじゃないだろうな?」

 その言葉に、田崎の目じりがぴくぴくとひきつる。

 

「騙すとは人聞きの悪い、私はただFOSの真の理想を説明しようとしたまでだ」

「何が真の理想だ、研究のためと称してお前らが行ってきたむごい行為を正当化して、キレイなイメ−ジだけを売り込もうとしてもそれは無理だよ」

「・・・・・・」

 今度は田崎が黙る番であった。

 さらに、省吾は言葉を続ける。

 

「FOSが今言った通りの集団なら、あの時、オレも沢村さんも黒い風に加勢したりはしなかったさ──」

 その時のことを思い浮かべているのか、省吾は強く唇を噛む。

「いかに貴様らが卑怯な集団か、判りやすく証明してやろうかい?田崎、一郎くんは今どうしている? 和美さんもだ。それが上手く説明できるようなら、何より信頼を得るための証拠になると思うけどね」

 

 一郎。

 

 和美。

 

 そのふたつの名前を出された途端、学生たちの目に生気が戻る。

 田崎の、熱に浮かされたような夢心地の話により、呆然としていた頭の中が一瞬にしてしゃきっ、としていた。

 

「そうよ!」

「こんな、のんびりと話を聞いてる場合じゃなかったでござる」

「一郎は、今何してるんだい?」

 三人は口々に叫んでいた。

 

 田崎は小さく舌打ちしたが、その口元には、演説を始める前の冷やかな笑みが浮かんでいた。

「ふん、素直に騙されていれば、もう少し長生きできたものを」

 嘲りの態度も、もはや隠そうともせずに田崎は言った。

 

「黒い風が攻めてきた場合、奴の息子と娘、それにその友人たちとなれば人質として有効利用できると思ったのだがな」

 ぱちり、と指を鳴らすと彼の背後の壁が、また上へスライドし始めた。

 

 その奥にもう一つ小部屋が現れ、そこに三人の人間がいた。

 無表情に立っている兵藤と、ニヤニヤ笑みを浮かべるジョニ−、それから、両手を太い鎖によって壁につながれ、気を失っている一郎が、いた。

 

「一郎っ!」

 ぼろぼろの一郎の姿に、弥生が悲鳴をあげる。

 とっさに駆け寄ろうとした陽平が、突然、がつんと音をさせてひっくり返った。

 

「防弾ガラスか・・・」

 ちっ、と省吾が舌打ちする。

 

 くく、と田崎はのどの奥で笑い。

「じたばたしてもムダだ」

 と、つぶやく。

 

「どうかな?」

 答えて、省吾の姿が一瞬消えた。

 

 テレポ−トだ! だが、

 

 ごつん、と大きな音をたてて、省吾の身体がガラスにはね返される。

「!」

 それを見て、田崎は大きく笑い声をあげた。

 

「言うのを忘れたが、その部屋はESPシ−ルドで囲んである。いかに笑い猫といえど、テレポ−トで逃げ出すことはできんぞ」

 そう言って、身をのけ反らせて笑う。カンに触る耳障りな笑い声であった。

「もはや君たちには、手も足も出せまい。ティンカ−ベルを取り戻しに来たらしいが、飛んで火に入る夏の虫というやつだったな」

 すっかり田崎は勝ち誇っていた。嫌な声で笑いつづける。

 

「へっ、どうやら本性を現し始めたみたいじゃねえか」

 口内の血を吐き捨てながら、一郎が目を覚ました。

 

「一郎っ!」

「大丈夫かい?」

 全身に走る激痛に顔をしかめながら、一郎は牙をむいてみせた。

「さっきからオレにも聞こえていたけどよ、ずいぶん言いたい放題だったじゃねえか。聞いてる方が恥ずかしかったぜ」

 その小馬鹿にした口調に、田崎のこめかみに青スジが立つ。

 

「生意気な所は実に父親ゆずりだな、へらず口までそっくりだ」

 ごほん、と軽く咳払いする。

「それにしても、こうして君を手中にできたのは実に愉快だ。いくら相沢乱十郎の息子とは言え、まさかあのアルコンを倒すとは思わなかったからな、その点については素直に敬意を表するとしよう」 両手を後ろに回し、背筋を正して田崎は一郎を見下ろした。

 鎖につながれた一郎は、彼を見上げることになる。

 

「あの化け物のことか?あれはオレ一人でやったことじゃねえよ」

 

 和美。

 

 彼女が、目に見えない力で一郎のピンチを救ったのだと、何となく感じ取っていた。

 

「それでも君の実力は充分証明された。同時に利用価値の高さも、な」

「そらきた」

 と、明郎。

 

「言うと思ったわ、人質? 実験体?」

「どうせ、ロクな事考えちゃいないんでござろう」

 口々に言う学生たちを横目に、田崎は優位な立場にいることが嬉しくてしょうがなさそうであった。

 

「オレのことはどうでもいいんだよ」

 不意に、凄味を帯びた声で一郎がつぶやいた。

「あいつは、和美はどうしてる?」

 

 そう問いかける一郎の迫力に、つながって自由を奪われている事も忘れて、思わず田崎は後ずさっていた。

 すぐに怯えた自分の姿に気づき、かっと頭に血を上らせた。

「知りたいかね?」

 わざと声を高くしたが、それがいかにも虚勢を張っているようで逆にみっともない。

 

「ティ、ティンカ−ベルは今、ダニ−の手によってある調査を受けておる」

「ダニ−だと? 奴がここにいるのか!」

 叫んだのは省吾であった。

「まさか、和美さんを強制洗脳するつもりか!」

 

 田崎は首を振った。

「いいや、安心したまえ、ティンカーベルは優秀なエスパーではあるが、力の大きさの割に不安定でもある。強制洗脳によってESPに影響が出てしまっては元も子もないからな、今のところ洗脳する予定はない」

 ハンカチで、脂ぎった額を押さえつつ答える。

 それに対して、一郎が牙をむく。

 

「調査と言ったな、てめえら和美におかしなマネしやがったらぶち殺してやるぞ」

 そう言った一郎の顔面に、横にいた兵藤の回し蹴りがぶち込まれた。

 鼻血を吹いてへたり込むのを、兵藤は一郎の髪をつかみ無理矢理顔を上げさせる。

「自分のおかれた状況をよく考えて、言葉を選べ」

 無感情な声で言う。

 

 ジョニ−は、それをニヤニヤしながら黙って見ている。

「貴様らを生かすも殺すも思いのままなんだぞ」

 冷たい目で見下す兵藤を、下から一郎はにらみ返した。

「へっ、兵藤、てめえ自身が言ってたなあ。息の根を止めないうちに勝った気になってるんじゃねえよ」

 血のからんだ前歯を見せて、ふてぶてしく笑ってみせる。

 

「なるほど──」

 髪の毛をつかんだままそう言った兵藤の口調には、何の感情も感じられなかったが、その身にまとっている雰囲気とでもいったものが冷たさを増した。

「そうだったな、今、ここで殺しておくべきだ」

 ふたりを中心に、部屋の空気が張りつめていく。

 ガラスのように固まっていき、緊張感ではじけそうになった時、

 

「待てい」

 声をかけて、ダニ−が部屋に入ってきた。

 その、しわだらけの顔をした小柄な黒人も、なぜか全身にぴりぴりした雰囲気をまとわりつかせている。

 


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