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11 不協和音




 研修プログラムを終えた翌朝。この七日間の間にこの世界の事はかなり知ることが出来たし、それなりの実力も付いたように感じる。

 宿泊施設はもう利用出来ないので全ての荷物を持って組合までやって来ていた。



「……はい、これで研修プログラムは終わりですね。長い間お疲れ様でした」


「こちらこそ、有難うございました」



 宿泊部屋の鍵を返したあとで、早速どんな依頼があるのか聞いてみた。研修プログラム中は食と住に困らなかったけど、今の俺は宿なし金なしの大ピンチ状態、早急に稼ぎを出さないといけない。

 灰ランクの俺が受けられる常設クエストは、以下の五種類である。



・薬草を十五本納品<報酬:300リン>

・解毒草を十本納品<報酬:300リン>

・ゴブリンの魔石を三つ納品<報酬:600リン>

・ボアの魔石を二つ納品<報酬:600リン>

・ボアを一頭持ち帰る<報酬:800リン>



 薬草は研修中にどんな物なのか覚えたし、解毒草は真っ青な葉を付ける植物なのですぐに見て分かる。採取系の依頼はすぐに終えられそうだな。

 ゴブリンは基本的に群れで行動しているため、一人で狩るには結構時間と体力を消費する。幾ら敵の攻撃が弱いと言っても、一対多はちょっとした油断で袋叩きにあってしまう。その点を考えると単騎で突っ込んで来るだけのボアを狩った方が楽そうだな。



 クエストは複数同時に受けられるので、俺は薬草と解毒草、ボアの魔石と一頭持ち帰りの四つの依頼を同時に受ける事にした。



「……大丈夫ですか? 一度にそんなに沢山受注して」



 恐らく俺がまだなり立ての冒険者だからと危惧しているのだろう。だけど早い内に習得しておいたスキルのお陰で、他の初心者冒険者達よりは動ける。今危惧すべきは今日の稼ぎで何日分凌げるか、それだけだ。

 不安そうな顔をする職員に大丈夫だと告げ、四つ分の依頼書を書いてもらう。この依頼書は職員の方で保管され、対象の納品を提示する事で依頼満了の印が押される、というシステムらしい。

 こうする事で依頼書の紛失を避け、冒険者同士でのトラブルを少なくするのだとか。異世界にしては割と堅実的な対応なので結構驚いていたりする。



「分かりました。危険だと思ったらすぐに撤退を心がける様にして下さいね」


「ご忠告有難うございます」



 職員に挨拶してから、俺は組合を後にした。

 ラザニアの街の朝はそれほど活発でなく、大半の経営店が営業していない。逆に屋台などの露店はこの時間から店を出していて、朝食はこの露店で買い食いする人が殆どである。……無一文の俺には関係ないけど。


 リュックサックを背負って街の東口へと歩いていく。すると何時もの様にゾレオさんが外向きに立っていた。



「ゾレオさん、おはようございます」


「おぉおはようさん。今日から新人冒険者だっけか」


「はい。早速クエストを達成しに行くところです」


「そうかそうか。無茶だけはするんじゃねぇぞ?」


「はい。行ってきますね」


「おう!」



 ゾレオさんに見送られながら平原へと向かうと、既に同業者のグループが幾つか展開していた。

 装備や戦い方を見るにどれも初心者冒険者達のグループらしく、どこも三体のゴブリンと戦闘を繰り広げている。

 前衛職の戦士が注意を引きつけている間に、後ろの弓手や魔法使いが一体ずつ殲滅していく。

 パーティならではの戦法といった所か。危なげなく倒していくその様子は見ていて清々しい気持ちになる。



(……パーティか、やっぱり冒険するならパーティを組みたいよなぁ)



 ボアを探しながら、自分の理想のパーティ像について思い描いてみた。

 まず……何といっても魔法職は一人は欲しいな。圧倒的な火力で敵の軍勢を殲滅しているシーンなんか、結構憧れだったりするし。

 次に盾職。一人いるかいないかでパーティ全体の安定性が大きく変わるし、何より安心感が違う。

 他には回復・補助ポジの聖職者や単騎最強の武闘家など、各ジャンル揃えれれば中々良いパーティになるのではないだろうか。前衛三人、後衛二人が理想的だな。


 そんな事を考えていると前方にボアが一体いるのが確認出来た。向こうもこちらを見つけたらしく、足を鳴らして駆けて来た。


 俺は腰に差してあったアイアンソードを抜き構え、ボアが近付くのを待つ。そして目の前に差し迫ったタイミングを見計らって左右に身を翻し、ボアが通り過ぎるタイミングに合わせて横薙ぎで斬撃を与えていく。

 これを何度か繰り返してボアの体力を削り取り、相手の動きが鈍くなった所で首筋に一撃与える。これで漸くボアは地面に倒れ伏す。見た目通りタフなモンスターなので、こちらもある程度は体力を消耗してしまう。



「……ふぅ」



 血に塗れたアイアンソードを何度か振って血を飛ばし、鞘に納める。水とかタオルとか持っていれば良かったのだが、そんなのは無いのでそのまま納めるしかなかった。

 リュックサックの中から剥ぎ取りナイフを取り出し、嫌いな魔石回収を行おうとしたその時だった。



「おい」


「ん?」



 耳元に聞こえて来た図太い声に無意識に振り返ると、俺の背後に人は立っていなかった。しかし、視界の端の方で大男六人組が誰かを囲っていた。足の隙間からボアの死体が見え隠れしていた事もあり、何となくの状況はつかめた。



「そのボアを置いて立ち去れ。でないと痛い目見るぞ?」


(おいおい……こっちの世界でもカツアゲなんてあるのかよ……)



 日本でガタイの良い男達に囲まれて脅されれば、まず間違いなく首を縦に振ってしまうだろう。助けを呼べそうにない場所ならば尚更だ。

 一人の大人として見過ごせない場面に遭遇してしまった俺は止めに入ろうとするが、それよりも先に被害者側が声を上げた。



「失せなさい、下賤な男達。いい歳してみっとも無いと思わないのですかっ」



 女性の声だった。それも落ち着いた、綺麗な声だった。しかし言葉が言葉なだけに、男達の行動をさらに激化させる事になってしまった。



「このクソアマがっ!! おいお前らヤるぞっ!!」


「きゃっ、ちょ、何するの痛いっ!?

貴方達こんな事してタダで済むと思っているんですかっ!!」



 逆上した男達は声の主の女性を取り囲むように動き、その太い腕で四肢を拘束する。そうして男達の間に隙間が生まれた事によって、初めて彼女の顔が見えた。顔立ちの整った、十代中頃のエルフの女の子だった。


 その彼女が何とか脱しようと手足をバタつかせる、が幹の様に太い腕枷を解くには彼女は余りにも貧弱過ぎた。



「暴れんじゃねぇよ!! 服脱がせづらいだろうが!!」


「や、止めなさいっ!! 

こうなったら……”ファイアバレ──”~~ッ!?」


「魔法なんて使わせる訳無いだろうが!!」



 背後から口を塞がれた彼女の前に立つリーダー格の男は、彼女の胸ぐらを両手で掴むと徐に力を入れ始めた。

 身軽さに重きを置いているのだろう、胸当てなどの装備を身に着けていない彼女の身を守っているのは少し厚めの衣類のみ。腕力に自身のある大男からすれば、その程度はあってないようなものだろう。


 早急に止めなければ残酷な結果になってしまう。急いで駆け付けようとした俺だったが、遅かった(・・・・)



「おらぁっ!!!!」


「~~~~~~ッ!?」



 男の掛け声と共に両手が左右に引っ張られ、彼女の衣服はまるで紙切れのように引き裂かれてしまう。それによって、彼女の健康的な肌が露わになってしまっていた。

 顔を真っ赤にして抵抗するも拘束されたままでは前を隠すことも出来ない。下賤な男達に自分の肌を見られた恥ずかしさや惨めさが、彼女の眼に涙を溜めさせる。



「はっ、これは見た目相応の上玉じゃねぇか。生意気言った分、堪能させて────」


「お前達何をしている!!」



 リーダー格の男が彼女の豊かな双丘に手を伸ばそうとした寸での所で、何とか大声が届く距離まで近づくことが出来た。

 強気な発言は出来るだけ避け、自分が見ているという事が伝わるように叫ぶと、男達の視線が俺に集まってくる。皆が皆、不満そうな顔をしていた。



「……ちっ、タイミングが悪ぃ。お前らずらがるぞ」



 男の一声で、彼女を拘束していた腕が全て解かれていく。支えられるものを急に失った彼女は重力に逆らわずに地面にへたり込んでしまったが、男達は興味を失ったのか目もくれずにどこかへと歩き去っていってしまった。



「大丈夫?」



 動かずにいる彼女の傍へと駆け寄り、腰を下ろして目線を合わせる。こんな時に上からモノを言うのは少し気が引けたからだ。

 急な展開に頭が追いついていかないのか、彼女は俺の顔を見つめるも呆然としていた。少しして、周囲に男達が居なくなった事に気が付いたらしく、口を開き始めた。



「べ、別に助けて貰わなくてもあんな奴ら簡単に倒せましたからっ」



 強気な口調で話している所を見るに、想像以上に精神的にダメージは少なそうに感じてしまう。

 気丈な子なのだろうかと思っていると、俺に対して愚痴を零す彼女の右頬を一筋の涙が伝って行った。



「大体ね、来るのが遅すぎなんですよ。もう少し、もう少し、早かったら……うぅっ……」


「……ゴメンな」


「うっ……うぅっ……うあぁぁぁぁぁっ……」



 今まで耐えてきたモノが決壊したのだろう、彼女の双眸からは大粒の涙が零れ落ちていった。


 実際、彼女に降りかかったストレスは想像を絶する筈だ。自分を卑しい目で見る男達に肌を晒してしまった恥辱と、抵抗空しく慰み者にされかける絶望感。その二つだけでも彼女の心を壊れる寸前まで蝕んでしまう。

 口を封じられ助けも呼べない中、彼女はたった一人で地獄の様な一瞬を耐えようとしていたのだ。



「……辛かったな」


「あ゛あ゛っ!! う゛あ゛ぁぁぁぁぁっ!!!!」



 掛ける言葉が思いつかず、同情めいた事をつい口に出してしまう。それが良くない事だと分かっていても、残念ながら咄嗟に気の利いた事を言えるような俺ではなかった。


 ふと気が付けば彼女が俺の服の裾を掴んでいた。感情の制御が上手くいっていない今の彼女は、一人でいる心細さが何よりも避けたいのだと思う。俺なんかで良ければ何時間だって傍に居てやろう。


 (むせ)び泣く彼女から視線を外す俺は、胸をザワつかせる憤り(・・)を感じながら静かに時を過ごすのだった。




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