1学期 ①
「知ってる天井だ」
僕は自室のベッドの上で目を覚ました。ボールの当たった部分を触れると包帯が巻いてあった。時計を見ると時刻は12時30分。どうやらあれから6時間以上寝ていたらしい。僕はあの後どうなったのか、それを知るため携帯を見た。すると、川崎をはじめ哲学研究会のみんなが連絡を送ってくれていた。
「けがは大丈夫かい?目を覚ましたら連絡を送ってくれ」
と川崎から来た。
「だ、だ、大丈夫??怪我したんでしょ、しかも頭に。本当に心配だよー、目が覚めたらすぐ連絡頂戴ね」
島田が送ってきた。メッセージとともに泣いてる顔文字や心配するスタンプを大量に送ってきていて、相変わらずの心配性に少し安心する。
「大丈夫~?元気出たら連絡してね~」
山川が送ってきた。その緩さになんだか気が抜ける。
僕は彼らに大丈夫だとメッセージを送り、現場にいた川崎に電話を掛けた。数回のコールの後、すこし不機嫌そうな様子で川崎が電話に出た。
「こんな遅くに電話とは君は世間知らずだね、全く。僕が明日も素晴らしい一日を送るためのナイトルーティンを行っている最中だというの。だが、今日はいい。あれから何があったか聞きたいのだろう?」
ナイトルーティンって何やってるのだろうと気にならないでもなかったが、僕は本題を聞くことにした。
「うん。僕が吹っ飛ばされた後何があったの?てか、天使さんはどうなったの!?」
天使さんのことを失念していた。そもそも天使さんに話しかけに行ったのが始まりなのに。吹っ飛ばされた僕の体が天使さんにぶつかったりしてないだろうか、今の僕はただそれだけが心配だった。
「うんうん。だが、心配しなくていい。天使さんにぶつかったりしてない。それから、ことの顛末だが、部活終わり遊んでたサッカー部員の蹴ったサッカーボールが当たったというのが真相だ。その後保健室に運ばれた君は親御さんに迎えに来てもらっていた。が、君が聞きたいのはそこではないだろう」
「うん、まぁ」
「はは。天使さんに関してだが、君のことをひどく心配していたよ。初対面の人にもあれだけ真摯に心配するなんて、なんというか、、、さすが天使光って感じだね」
なんだか川崎の様子がどことなくぎこちない。いつもの自信満々な川崎とは真逆だ。
「なぁ、正直に言ってくれないか。本当はなんかあったんだろう」
「いや、まぁ、なんというか。これは、僕がなんとなく感じたことであるんだが彼女、なんだか完璧すぎないか?」
「うん?どういうこと?」
まるで意味が分からなかった。
「いやね、君が彼女の前に落下したとき一瞬動揺してたようだったけど、すぐに心配してたんだよ。その対応というかそれが、なんだか教科書のように完璧だったんだよ。あまりに人間離れしてるというか。だからすこし違和感をおぼえてね」
「なるほどね…でもそれは、彼女がそれだけできた人間ってことでしょ。めちゃくちゃいいことじゃないか」
「はっはっはっはっは。相変わらずだね、君は。まぁ、無事でよかったよ。明日は学校来れそうかい?」
「うん、たぶん」
「そうか、島田たちもすごく心配していたから連絡しておきたまえよ」
「もちろん」
「それでは、明日学校でね」
僕は電話を切って、両親に目が覚めた報告をしたのち再び布団に入った。
新学期2日目、依然として頭に少しの痛みは残るが新学期はスタートが大事なので学校に行くことにした。
自転車で僕の通う公立摂津高校へ向かう際中、僕はなんだか新鮮な気分だった。いつもは気づかなかった、建物や細道が目に付く。空気もいつも以上においしく感じる。たち漕ぎをして全身で風を浴びた。
学校に着き、僕は陽気な気分で教室に入ると一斉に視線が僕に向くのを感じる。すこし、怖気づいたが、気にせず自分の席に座った。
「ね!昨日は大丈夫だった!?」
突然後ろから肩をたたかれた。僕はびくっとして振り返ると天使さんの麗しい笑顔が僕を見た。あまりの眩しさに僕は消し炭になるのを感じた。僕は思わず目を細めた。彼女は、
「アハハ。ちょっと何びっくりしてるの~」
と笑った。僕で笑ってくれた!と謎の興奮をして心臓の鼓動が急ピッチで早まるのを感じる。その瞬間彼女とともに過ごしたイルミネーションデート、温泉旅行、バーで唇を重ねたとき、あらゆる瞬間がフラッシュバックのように僕の頭にあふれる。もう、ここで死んでもいい。本気でそんなことを考えながら、彼女の前でフリーズしてると彼女は僕の顔を覗き込み「おーい」と目の前で手を振った。
煩悩の海から何とか這い出ると改めて彼女を見る。ぱっちり大きな瞳、きれいな鼻筋、そしてとにかくかわいい。ああ、可愛いなとこんなことを考えてるうちに再び煩悩の海に飛び込むのをなんとか理性で抑えた。
「あ、あぁ、ごめん。つい動揺しちゃって…」
「ちょっと何動揺してるの~」
再びアハハと笑う。この上ない多幸感に包まれた。絶対今の僕やばい顔してる、それだけが確信を持って言えた。
「えっと、何だっけ?」
「ムム、昨日は大丈夫だったのって聞いたのー」
彼女は少し頬を膨らませて言った。本当にころころと表情が変わって、見ていて本当に飽きない。僕の天使さんに対する好感度メーターが限界突破をして久しい。
「まぁ、昨日丸1日寝たら何とか、ね」
「本当!良かったー」
彼女は口に手を当てて、ニコッと笑った。
「うん、そうだね。幸い軽症ですんだよ」
だめだ、彼女の目を見てしゃべれない。太陽を直視できないように体が彼女を見ることを避けている。彼女は「うんうん」とニコニコ笑いながらうなずいた。
その時、キンコンカンコンとホームルームを始めるチャイムが鳴った。
「あ、じゃあ私は戻るね!」
と手を振りながら彼女は自分の席へ戻っていった。その後ろ姿を僕はつい目で追っていた。彼女が椅子に座るときの行動がこじんまりしてなんだかかわいくて、『すんばらしい!!』と心の中でガッツポーズした。
僕は多幸感に包まれ、彼女との会話を頭の中で無限ループしていた。ホームルームでの担任の話もまるで聞いていなかった。そして、新学期初の授業が始まる。




