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出会い

 高校3年の春、受験への不安と新しいクラスへの不安から陽気とは程遠い鬱屈とした気分で僕は自分に割り当てられたクラスである1組へと入った。中では、新学期特有の浮ついた雰囲気であふれていてすでにグループを作っている人もいた。そんな様子をしり目に僕は自分の席を探した。その時、生涯忘れることのない天使と出会った。

 彼女の名前は天使 光。あまつか ひかりという。その名前を聞いた時は名前にまで天使がつくのかと仰天したものだ。彼女はすらっと背が高く、長く伸びたつやのある黒髪をもち、そして信じられないほどかわいかった。彼女は友人たちと談笑しているようだったが、周りの人間は一切視界に入らなかった。友人たちと話しているとき不意に見せる笑顔に僕は完全に撃ち抜かれてしまっていた。これまでの人生、ひとめぼれなどとは縁遠い無味無臭な人生を送ってきた僕にとって、彼女の存在はコペルニクス的転回のような衝撃を僕に与えた。出席番号順の席に座り、今後の予定などを担任から聞いているときも廊下側先頭の席に座る彼女をつい目で追っていた。僕の頭の中は彼女の中でいっぱいであった。

 いったいどんな子なんだろう?趣味とかはあるんだろうか。もし音楽が好きなら大変うれしい。部活は何に入ってるんだろうか。文化系か、それとも運動部だろうか。などなど、思い返すと笑ってしまうがそれくらい僕は彼女に夢中になっていたのである。

 

 「アッハッハッハ。それはまた思い切ったねぇ!まさかあの天使光と付き合いたいだなんて」

 「もー、笑い事じゃないって」

 「いやいや、別にからかっているわけじゃないんだ。むしろ僕は君に敬意を表してるんだよ。なんせ彼女のあの美貌だ。これまで挑戦しては撃沈していった男は数知れず。それに挑戦する勇気に僕は敬意を表するよ!」

 相変わらず、どこか舞台俳優みたいな口調で川崎は答えた。その褒めてるのかどうかわからない答えに僕はムッとしたが、わざわざ言い返したりはしなかった。

 教室で担任から今後の予定について説明があった後、そのままお開きになったので僕は所属してる哲学研究会へ向かった。哲学研究会は僕と川崎、あと山川と島田の4人で作った部活で、哲学者の思想についていろいろ研究するっていうのが一応の活動内容だ。けど、実際は教室で自由におしゃべりしてるだけの部活だ。いつもは、教室の机を4つ正方形になるようにつなげて向かい合って話していて、今日も僕の正面に川崎が座っていた。

 川崎はその後も一人で色々話していたが、正直あまり聞いていなかった。ふと周囲を見渡すと、古びた机が雑然と置かれており埃が積もっていた。現在教室には僕と川崎しかおらず、周囲は静まりかえっていて、わずかに外から運動部の掛け声が聞こえてきた。放課後特有のその空気と穏やかな春の陽気を僕は堪能していると

 「なぁ、君!さっきからボーっとして僕の話を聞いていたのかね!」

 突然現実に引き戻された。川崎の方を向くとムスッとした顔で僕を見つめていた。

 「ああ、ごめん。全然聞いてなかった」

 「全く君というやつは。そんな様子では天使光を振り向かせるなんて100年早いぞ」

 川崎はわざとらしく首を振りながらやれやれと言った感じで僕を見た。

 「はぁ!?そんなことわからないだろ!」

 カチンときた僕は思わず言い返す。

 「いーや、僕にはわかるね。なぜならそう、『僕』だから!」

 川崎は椅子から立ち上がると、人差し指と中指の指先だけを眉間に当て敬礼みたいなポーズをとった。

 「はぁ」

 「おいおい、何だいその反応は?今まで僕が間違ったことが一度でもあったかね。いや、ないだろう」

 川崎がグイっと顔を僕に近づけてきた。その圧から逃れようと僕は話題を変えた。

 「ところで、山川と島田はまだかな」

 すると、川崎は僕から顔を話し周囲を見渡すと言った。

 「ふむ、確かに来ていないね。どれ、何があったか聞いてみようか」

 川崎は手帳型ケースのスマホを取り出すと、パシャリと写真を撮って文字を打ち込んでいった。打ち終わったのか川崎が携帯をバタンと閉じると同時にピコンと携帯が鳴った。

 『君たち今日は休みかい?』

 ガランとした教室の写真を添えて哲学研究会のグループラインに送られてきた。

 「せめて連絡くらいは欲しいよね」

 僕がそう言うと、川崎は「全くだね」と言いながら椅子に座った。座り方もどこかキザで、足を組んで右手を軽く口元に当てて考える人をかっこよくした感じだっだ。

 

 だが、待てど暮らせど2人は来ずラインに既読もつかなかった。僕は暇つぶしにSNSを徘徊してたし川崎はなんだか小難しいことが書いてありそうな文庫本を読んでいた。すると、川崎がパタンと本を閉じて言った。

 「どうやら今日、彼らは来ないみたいだね」

 「確かにそうみたいだね。どうする?僕たちももう帰ろうか」

 窓を見ると日が沈んできており、運動部の掛け声も聞こえなくなっていた。

 「そうだね。帰ろうか」

 僕らはカバンを持って教室を出た。僕らの部室は美術室や歴史準備室のあるいわゆる特別棟の最上階、その一番端にあるから教室棟にある下駄箱までは結構な道のりだ。僕らはその道のりを明日の予定は何かなど他愛無い会話をしながら歩いて行った。

 そうして下駄箱に到着し靴を履きながら何気なく校門へ続く道を見ると、その中にそう、見間違えようもない天使さんがいたのだ!彼女は一人で歩いており、周りには誰もいない。これはチャンスだ、僕はそう思い彼女のもとへ走り出した。川崎もそんな様子を見て察したのか、

「これは親睦を深めるチャンスじゃないか」

と言ってついてきた。僕はなんて話しかけようか頭をフル回転させながら彼女のもとへ向かった。

 その時、「あぶなーーーい!」という声が聞こえると同時に僕の頭にサッカーボールが突き刺さった。その瞬間僕の意識は完全に飛んだ。そして衝撃で僕は、それはもう見事に回転しながら前に吹き飛ばされちょうど彼女の正面でぶっ倒れたという。その後僕が覚えているのは、必死に「大丈夫ですか!」と声をかける彼女の声だけだった。

 こうして、僕と彼女の当たり前だけど物語性あふれる交流が始まった。


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