第288話 vs魔都②
〔皆魔都に潜入成功!〕
〔今のところ誰もバレてない!〕
「了解です。報告ありがとうございます!」
配信のコメントで地上部隊の進攻が順調である事を確認した私は、派手な魔法戦から魔力を節約した近接戦へと立ち回りを大きく変更する。
操っていた炎の蛇の魔力を暴走させて爆発。周囲の悪魔達へと打撃を与えると、腕輪から取り出したデュプリケーターとアセンディアを構え、無詠唱の【エンチャント】で風を纏わせた。直後──
「──先ず一体!」
「ぐぇ……ッ!」
風の魔力を込めた翼を一度大きく羽搏かせ、急激に速度を増した私は最も近い位置に居た悪魔のすぐ脇を抜けると共にその身体を胸の位置で両断する。
振り抜いたアセンディアの纏う風の魔力はその一連の動作の速度全てを力に変えて、刃渡り五メートル程の風の刃を形成。周囲に飛んでいた数体の悪魔の身体にも、浅くない切り傷を刻んだ。
「っ! 距離を取レ! 魔法を撃テ!」
「数で押セ! 包囲しロ!」
風の刃による斬撃に一瞬怯んだ悪魔達だったが、そのタフさはやはり他の魔物の比ではない。
傷は瞬きする間に癒え、直ぐに攻勢へと転じて来る。が──
(やはりチヨの言っていたように、一体一体の実力は大した事無いな……!)
春葉アトから聞いたが、チヨはその気になれば一人で魔都の悪魔全てを倒す事だってできると豪語していたらしい。
実際戦ってみて良く分かる。こいつらが束になっても、チヨには敵わない。
(……この程度の相手だったなら、さっきのは少し魔力の無駄だったかな)
注意を引きつける為とは言え、結構魔力を使ってしまった。
まぁこのくらいの消耗であれば、魔力を節約して戦っている内に回復するだろう。この魔族の体質もいつまで使えるかは分からないけど。
そんな事を考えているところに、悪魔の魔法によって無数の風の刃が飛んできた。
「──狙いが甘いですね!」
しかしその軌道を魔力感知で見切った私は、隙間を縫うように飛翔による姿勢制御だけで潜り抜け、デュプリケーターの一閃で返り討ちにする。
当然攻撃の瞬間も現在進行形で炎や雷、風や光といった属性の魔法攻撃がこちらへ向かって放たれているが、無詠唱で同属性の魔法を撃って相殺している為、私本体にまで届く事は無い。
(──っと、あの魔法はちょっと面倒ですね)
「させませんよ!」
「……っぐゥ!?」
時折規模の大きな魔法でこちらを狙う悪魔もいるが、そう言った魔法は総じて魔力の操作や詠唱に時間がかかる。
尻尾の先端を向けて【レイ】のような光線の魔法を放って牽制し、それらの工程に必要な集中を散らしてやれば魔法の発動には至らない。
ついでに怯んだその悪魔へと狙いをつけ、一気に飛翔。無詠唱で小さな雷球をぶつけ、感電している隙に切り伏せた。
「──今だ、撃テ!」
「む……っ!?」
悪魔の号令に振り向けば、密集陣形を組んだ悪魔達がこちらに向けて十指と尻尾の先端を向けているのが見えた。
そしてそこから様々な属性の魔弾が、まるでマシンガンのように放たれ始める。
「──!」
流石にこれを正面から突破するのは不可能である為、大きく空中に弧を描くように飛翔。回り込んで距離を詰めようとするが……
(当然、追って来るよな……!)
色取り取りのマシンガンは私の動きに合わせて狙いを変えて来る。陣形全体が一つの生き物のように統率されて動いており、練度の高さが伺えた。
(っ! やはりそうか。ここの悪魔達には明確な区分がある!)
今私をマシンガンのような魔法で狙っている悪魔達は、よく見ればチヨが身に纏っていたのと同じ軍服を着ている。
しかし、先程まで私を集団で攻撃して来ていた悪魔達はもっとラフな格好をしており、服装の統一感も無かった。これは即ち──
「軍服を着ている悪魔と、私服の悪魔では実力に開きがある……!」
あの軍服は伊達ではないのだ。
悪魔全体が一つの軍と言う訳ではなく、悪魔の中にも軍人とそうでない者がいる。恐らく、ネットゲームで言うところの『戦闘職』と『生産職』のような役割分けがされているのだろう。
「リスナーの皆さん、各部隊に伝えておいてください。『軍服の悪魔は私服の悪魔よりは強い』『少なくとも連携を取って来る』と」
〔了解!〕
〔まかせて!〕
◇
「──なるほどなぁ、了解や。確かにチヨみたいな軍服着とる悪魔が少ない思っとったんや」
リスナー越しにヴィオレットからの注意を聞いて、納得した。
ヴィオレットが戦っている悪魔達の動きを見て、前にウチが深層で戦った鱗の悪魔や長舌の悪魔と比べても粗いなとは思っとったが……そう言う事やったか。
「皆、聞いたな? 軍服の悪魔には注意せぇよ」
魔都を移動しながら小声で隊のメンバーにそう伝えると、短い首肯で了解の旨が返って来る。
ここまでまだ悪魔達に見つかる事無く順調に進んできたが、その過程でこっちは地上で活動しとる悪魔を何体か見つけとった。
恐らく、上空の戦場が飽和状態に近いからやろな。空飛んでも意味ない以上、地上からヴィオレットを狙おうとしとるんや。
こっちの進路を妨害するような位置には来とらんかったからスルーして来たが……本格的にぶつかる時は近付いとるやろし、その前に今の注意を聞けたんは幸運やったな。……っと──
(──早速かいな……!)
脚を止め、ついて来とる隊のメンバーをハンドシグナルで止めさせる。
入り組んだ路地裏の続く先……一度『通り』に抜ける通路の先に、丁度悪魔が居るのが見えた。
(格好は……私服か。数はここから見える限り一体やけど、油断は出来んなぁ……)
建物の影から身を乗り出して敵の戦力を探る。
悪魔の目はウチ等の方やなくて上空に──ヴィオレットの戦っとる方向へ向いとる。けど、このまま出てったら流石にウチ等に気付くやろな……足音は魔法で消しとるけど、姿は見ればわかる訳やし。
(どないするかなぁ……アイツが一体やと分かれば、やってもええねんけどな……)
ウチの隊は十三人。一気にかかれば、声を上げられるよりも早く倒せる可能性は高い。行く手を阻む障害は無くなり、しかもレベルアップによる戦力向上も見込める一石二鳥や。
ただ、ここから見えんところにもう一体悪魔が居った場合、先に仲間を呼ばれる可能性もある、か……
「──魅國、偵察頼めるか?」
「ええよ。数の把握やんな?」
「ああ、周囲に他の悪魔が居るかだけでええ」
ウチと同じ隊に配属された魅國に、魔法による斥候役を頼む。
魅國は【誇華虎意】を使った訓練に協力した過程で、ウチら全員が使える魔法が全部使えるようになっとる。その中に、今回の状況に丁度ええ魔法が一つあるのを見越しての頼みや。
「──■■■■■」
魅國が異世界の言語を流暢に操って魔法を使うと、その姿の輪郭が揺らいで路地裏の影に紛れるように消えた。
これは闇乃トバリが教えてもらっとった、『影に同化する魔法』や。この魔法の効果で、魅國は自分が影の中に居る間は何の干渉もされんくなる。
誰かに見られる事も、触れられる事もない。ただし同時に、魔法を解除するまでは誰かに干渉する事も出来ない……偵察や暗殺に特化し過ぎた魔法やなぁ、これ。
「一応、ドローンはこっちに置いとけや? ランプの光でも当たった部分は見えてまうんやから」
まぁ……どんな小さな光源でも近くに来られたら、光の当たってる部分が見つかってしまうっちゅうんが弱点なんやけどな。
「深層にはそこら中にオーブが漂っとるからな……注意せぇよ……!」
魔都でこの魔法を多用できん最大の理由がこれや。
影に紛れ取る間は無敵やけど、それがふとしたタイミングで解除されてまう。頼り切れば命取り。かなりピーキーな魔法やねんなぁ……




