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第265話 百華の失策

「──なぁっ、どうするんや!? 猛虎の奴、あないな事言うとるで!?」

「今考えとる! アンタ達は引き続き、魅國はんに攻撃を集中させぇ!」


 急な猛虎からの提案に百華は揺れた。

 確かに彼女達の言っていた内容には一理ある。

 今回の百華と魅國の組手は、百華が魅國に勝った場合、魅國が百華に伝えた話──『ティガーと二人で虎華呼居を結成する』という計画が白紙に戻るという条件のもと行われている。

 先程猛虎のダイバーが言っていた内容と同じ──つまり、百華と猛虎はこの時点で同じ目的の為に戦っている同志。協力が可能な関係にある事になる。

 ティガーか魅國、そのどちらかにでもダメージを与えられれば『虎華呼居』の再結成を阻止できるのだから。

 しかし、この組手が始まる前、ティガーは確かに言っていた。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


(今のところ、あのケダモノ(ティガー)と魅國はんに協力の兆しは無い……ウチらが本格的にティガーを攻撃し始めた場合、そん時になってようやく二人は協力関係になるっちゅうことか……)


 自身も炎の魔法で魅國を狙いつつ、ティガーと魅國の動きを観察する百華のダイバー。

 今回の組手に際して参謀役を受け持っていた彼女は、一人頭の中で算盤を弾く。


(一つ言える事は、『先手は取れる』っちゅう事や……)


 百華のダイバーが猛虎の提案に乗って、ティガーを攻撃した事を引き金に二人が協力関係になると言うのなら、その切っ掛けとなる攻撃に関しては間違いなく魅國のアシストは()()()()()

 ティガーのジョブはバーサーカー。魔法を防ぐ手段を持たない、近接物理特化のジョブだ。つまり──


(最初の一撃を当てられれば勝てる……!)


 協力関係が成立する前にティガーがダメージを受ければ、その時点で目的は達成だ。

 ならば肝心なのは、どうやってその奇襲を成功させるか。

 この距離からの魔法攻撃を確実に当てる為には、あのティガーの動きを少なくとも数秒封じる必要がある。


(そんな隙があのケダモノに生まれるか……?)


 ティガーを嫌悪する百華にとって認めたくない事実だが、ティガーは彼女達の知るダイバーの中で『多対一において最強のダイバー』だ。

 密集する敵の中でも自由且つ高速で駆けまわれる身体能力があり、その状態でもほぼ万全のパフォーマンスで戦闘の継続が可能。彼女の動きを封じるには、数で攻めてもダメなのだ。


(! 待てよ……──いや、行ける! アイツらがまだ生存しとる今なら、ティガーの動きを封じる策はある!)


 生き残っている百華の面々をすばやく確認した彼女は、今しがた考えついた策を伝えるために魔法を放つ。


「──【バーン・フレイム】!」

「ん……?」


 炎魔法の【ファイアーボール】を凝縮したような小さな炎弾が魅國の脇を掠めるように飛翔し、魅國の後方で地面に着弾。

 轟音を伴う爆発が発生し、爆風が荒れ狂う。


「狙いを外した……っちゅう訳でもなさそうやなぁ?」


 魅國が【バーン・フレイム】の軌道を目で追い、視線を逸らした一瞬。爆発による轟音が、百華の間に一つの指示が伝わるのを誤魔化した。

 いくら目晦ましをしようと、死角をつこうと、奇襲には魔力感知で対応できるのが魅國だ。しかしそんな彼女でも、ただの口頭による指示を爆音の中で聞き取れる耳までは流石に持っていなかったのだ。


「作戦は理解したな? いくで…………こっちが『本命』や、魅國はん! ──【プロミネンス】!」


 掛け声の中に合図を忍ばせ、指示を出した百華の参謀役が魔法を発動する。

 今回の組手の中で幾度となく生み出された炎の大蛇が、再び魅國へと向かい……その周囲をぐるりと囲むように回り始めた。


「これは……なんのつもりや?」


 攻撃の意思が感じられない挙動に疑問の声を漏らした魅國。その瞬間、複数人の百華のダイバーが一斉に呪文を発動した。


「「「「──【サンドウォール】!」」」」


 【サンドウォール】。指定した範囲の地面を砂に変え、高さ二メートル程の壁を生み出す魔法だ。

 耐久性はそこそこあるが汎用性に薄く、主に魔物の進路を塞ぐ目的で使われる。その最大の長所は、発動が早い事と──


「ウチやない……そうか、狙いは──!」


 射程が非常に長い事だ。


「っ! これは、百華の魔法か!?」


 【サンドウォール】によって、猛虎と戦っている最中のティガーの周囲の地面が砂と化して盛り上がり、逃げ場を封じる壁となる。


「ここや! ──【プロミネンス】!」


 そしてその隙に他の百華が発動した【プロミネンス】が、砂の壁に囲まれたティガーに向かって放たれた。


(──勝ったッ!!)


 百華の参謀役がにやりと笑みを浮かべる。

 彼女の策はこうだ。ティガーの逃げ場を砂の壁で塞ぎ、その隙に仲間の【プロミネンス】がとどめを刺す。

 しかし【サンドウォール】をティガーに対して発動した時点で、百華が猛虎と組んだ事になる。そうなれば魅國もティガーと組む事になり、【プロミネンス】の攻撃を魅國が防ごうとするだろう。

 だが──


(魅國はんがどんな魔法を使って防ごうとしても、ウチの【プロミネンス】が更にそれを防ぐ! 二度目の魔法は間に合わん! 決着や!)


 魅國を取り囲んでいた【プロミネンス】が一転、魅國とティガーの間に立ちはだかるように静止する。

 いくら魅國の方が実力が上だろうと、彼女が使う魔法は炎の魔法。同じ炎の魔法である【プロミネンス】であれば、一度は妨害できるのだ。

 こうなれば流石の魅國にもどうにもならない筈……そんな彼女の策略を──


「ふん──」


 魅國は一笑に付した。


「な、何を……っ!? 状況が分かっとらんのか!?」

「──【プロミネンス】」


 魅國の態度に目くじらを立てる百華の参謀役。

 次の瞬間、魅國は自身の【プロミネンス】によって参謀役が生み出した【プロミネンス】を相殺する。

 その行為を無駄だと言わんばかりに、参謀役は嘲笑う。


「はっ! 無駄や! 今更ウチの【プロミネンス】を撃ち落としたところで、あのケダモノは──」




「──ウチがなんやて?」

「……は!?」


 勝ち誇っていた参謀役の笑みを消したのは、いつの間にか魅國の隣に立っていたティガーの姿だった。

 その姿は堂々としたもので、装備から髪の毛まで何度見ても【プロミネンス】の攻撃を受けた様子は見られない。

 自分の見ている光景が未だに信じられていない様子の参謀役にティガーはため息を吐き、改めて問いかけた。


「はぁ……その『ケダモノ』言うの、ウチの事やろ? ウチがどうにかなる言うんなら、言うてみ」

「な、なんでや! 何でお前がそこに──魅國はんの隣に居るんや!」


 ティガーが砂の壁に囲まれた姿は、遠目ながら彼女自身も目にしていた。

 隙間なく包囲されればいくらティガーと言えど、上空にしか逃げ場はない。

 だが、迂闊にジャンプなどすれば【プロミネンス】の良い的だ。空中を自在に動き回れる人間なんて、いないのだから……そう目で訴える参謀役に、ティガーは苦笑いを浮かべた。


「お前らなァ……そもそも、あんな()()()でウチを閉じ込めたと本気で思っとったんか?」

「──あ……っ!」


 そう。そもそも前提が間違っていたのだ。

 ティガーの最大の強みは、確かに小柄な体格と柔軟な関節。しかし、それに引けを取らない武器として、驚異的な膂力も持ち合わせている。

 【サンドウォール】の耐久度では、ティガーの全力の一撃を一度だって耐える事は出来ないのだ。

 普段からティガーを『ケダモノ』と蔑み、過小評価していた彼女達は、そんな当たり前さえも認識できていなかった。


「あぁ、せや。魅國、今の助かったで。流石にあの距離で【プロミネンス】にこっち狙われたら、危なかったからなぁ」

「念の為や。アンタなら多分、ウチがあれ破壊せんでも何とかしとったやろ」

「! さ、さっきウチの【プロミネンス】を撃ち落としたんは……ケ、ティガーが確実にこっちに来る為に……!?」


 ティガーの実力も、魅國の狙いも読めていなかった参謀役は、咄嗟に相棒である杖を構えながら声を震わせる。

 目の前で親し気に打ち解ける二人の姿は、まさに彼女が阻止しようとした光景そのものだった。


「──さて。百華と猛虎が組んだっちゅう事は、や……」

「先にウチ言うたよな? そっちが組んだら、ウチらも組むってな」

「ま……待っ──」


 慌てる参謀役を余所に、魅國がティガーの肩に手を添える。

 そして──


「──【誇華虎意】」

「──【虎華誇為】」


 猛虎と百華にとって、決して勝ち目の無い戦いが始まった。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 発想は良かった…発想『だけ』はな! 残念ながら某漫画四部の主人公風に言うなら「なるほど完璧な作戦ッスねー。(相手の実力に正当な評価を下してない+文字通り付け焼き刃の戦法風情では、…
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